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「日本は本当に恐ろしい国に入ってきている」〜孫崎享さん講演会
http://www.labornetjp.org/news/2016/0509hayasida
2016-05-08 23:09:33 林田英明 レイバーネット日本
「陰謀論の孫崎と言われます」。そう笑いを取って聴衆に語りかける。演壇を離れ、立ってマイクを握る姿は精力に満ち、古希を過ぎているようには見えない。駐イラン大使などを務めた評論家の孫崎享(うける)さん(72)が5月3日、「安保法の正体」と題し北九州市で講演。日米防衛とは無関係な集団的自衛権の行使が日本を危機に陥れるとの話に400人が聴き入った。北九州憲法集会実行委員会主催。
孫崎さんは外務省入省後、米英ソ、イラク、カナダ、ウズベキスタンに駐在。国際情報局長や防衛大学教授の経験を生かして『戦後史の正体』(2012年)を著し、戦後日本の政治が対米追随派と自主独立派のせめぎ合いの中で進められてきたとの主張が大きな波紋を呼んだ。首相では岸信介、佐藤栄作、田中角栄、竹下登らを自主独立派に分類し、これまでの常識を覆して賛否が入り乱れる。米国の意向に背く政治家は葬られるという「陰謀論者」のレッテルを貼られていく。しかし孫崎さんは意に介さない。自信があるのか、非難に構っている時間がないのか、立憲主義を脅かす安倍晋三首相の政治姿勢を、この日も俎上に載せていった。
「集団的自衛権を漢字3文字、4文字で本質を突いてみてください」と会場に答えを促す。すると「侵略戦争!」「対米追従!」「憲法違反!」「軍事同盟!」「戦争法!」と次々に声が上がる。そして「他国防衛!」のところで発言者のほうへ向きを変えた。「元内閣法制局長官並みの答えです」と笑顔を見せて、集団的自衛権の本質を「他国防衛」と断じた宮崎礼壹氏の論評を紹介した。自衛権と名がついていても自己防衛権とはかけ離れ、憲法9条とは相いれない。「他国のために自衛隊を出す、それが本質なんです」と語気を強めた。
●テロつくり出す「テロ戦争」
80歳を迎えた天皇が宮内記者会の代表質問に答えたのは2013年12月。戦争で若い命が多く失われたことを悼み、次の通りに述べた。「戦後、連合国軍の占領下にあった日本は、平和と民主主義を、守るべき大切なものとして、日本国憲法を作り、さまざまな改革を行って、今日の日本を築きました。戦争で荒廃した国土を立て直し、かつ、改善していくために当時の我が国の人々の払った努力に対し、深い感謝の気持ちを抱いています」。ところがNHKでは「平和と民主主義を、守るべき大切なものとして、日本国憲法を作り」の部分を省いて報道したと孫崎さんは憤る。「重要でないから省いたのか、重要だと気づいたから省いたのか」と問いかけ、「重要だと気づいたから省いたんです」と自答した。第2次安倍政権発足1年後、籾井勝人氏がNHK会長に選出された直後であり、政権への忖度がうかがわれる。
そして「いま日本は、本当に恐ろしい国に入ってきていると思う」と孫崎さんは危機感を隠さなかった。国際NGO「国境なき記者団」による世界報道自由度ランキングで、日本は2010年の11位から年々下降し、2016年は72位にまで落ちた。2013年に制定された特定秘密保護法で一気に下がったが、下げ止まりは見えない。5月下旬に伊勢志摩サミットが開かれる、G7と呼ばれる日米欧主要7カ国中の最下位である。
そのような評価の下、2014年に安倍政権は解釈改憲で集団的自衛権による武力行使を限定的ながら可能とした。日本がどこへ向かおうとしているのか孫崎さんならずとも不安にかられる。2001年の「9・11」以降、世界は国家間ではなく「テロとの戦い」が主になっている。2000年までは500人程度だったテロによる犠牲者が2014年には3万人を超えている数字を孫崎さんは挙げて「テロ戦争は、逆にテロをつくり出している」と警告した。では、最大の当事国である米国は中東とどう対峙したのか。大使館や米軍官舎が何度爆破されても簡単には撤収しない。「政治的解決の道があるのに軍事的行動に走った」と、その後のテロを呼び起こした米国の在り方を問題にした。
●ウソを信じるふりする国民
中東諸国から恨まれる国に日本は不必要に付き従っている。集団的自衛権の行使は、だから日本をより一層、危険にすると孫崎さんは訴え、危機に向かう手順を示した。@指導者がウソをつくAマスコミがそれを拡散するB多くの国民がだまされたいと思うC反対者は排除されていく――と説明して、戦前と同じ状況が生まれていると危惧した。ウソや詭弁で本来は国民が望まない方向に政策を誘導し、マスコミが検証をおろそかにすれば、国民はこのウソや詭弁を信じる、あるいは職や生活を案じて信じるふりをするという構図が繰り返されていく。だが、安倍首相が昨年発言したように「今や海外に住む日本人は150万人、さらに年間1800万人の日本人が海外に出かけていく時代」である。自衛隊と米軍で、どう守るというのだろうか。
対米追従の官僚や政治家に異論を唱えて何度も「国賊」「反日」と呼ばれてきた孫崎さんだ。圧力の有無や、高級官僚なのになぜ米国志向ではないのか質問が出された。「圧力は、いろんな所からありますよ」とサラリと述べる。旧満州(現中国東北部)生まれのため「中国へ帰れ」との悪罵は数知れない。しかし世界を俯瞰すれば、日本の生きる道が対米隷従とは思えないようだ。日本の貿易相手国は米中が2割弱で拮抗するが、韓国、台湾、香港、タイ、シンガポールなどを含めたアジアを総計すると5割を超す現実がある。
一方、所属した外務省内の派閥は、アメリカン・スクールが主流だ。スクールは、語学研修部門で分かれ、チャイナ・スクールやロシア・スクールなどが存在する。孫崎さんは、ソ連軍主導による1968年のワルシャワ条約機構軍のチェコ侵攻後、モスクワ大学に進み、ソ連という大国の変容を間近に見た経験がその後の人生に影響を与えたと自認している。ロシア人も薄々おかしいと感じつつ、声に出したらシベリア送りとなってしまう。そこで、不合理を代弁する物理学者のサハロフや作家のソルジェニーツィンを支持した。どこまで自分の意思を表出するのか、できるのか、自分に置き換えても非常に悩むところである。自室を中世キリスト教絵画で飾り立てる孫崎さんは、その点、一歩抜き出ている。「だってキリストはハリツケに遭い、弟子にも裏切られているでしょ」と語り、結果を気にすることのない行動こそ評価した。
●領土問題は棚上げこそ利益
対米追従を否定した著書『日本外交 現場からの証言―握手と微笑とイエスでいいか』で山本七平賞を受賞した1993年時点では外務省高官から「君の賞はわが省の誇りである」と電報が届いた。当時は「何が国益か」を追求する自由な雰囲気があったという。しかし、2003年のイラク戦争時、駐レバノン大使だった天木直人氏が具申した意見書が退けられた頃には空気が一変していたのかもしれない。『日米同盟の正体〜迷走する安全保障』を上梓した2009年、対米追従を強く批判した孫崎さんの講演で、外務省の主流を歩む年長の官僚が財界人から感想を求められた。外務省としての立場を問われたようだ。孫崎さんは皮肉交じりに「この答えが素晴らしい」と前置きする。
「それは考えないことにしています」
場内爆笑。「それで外務省のトップになるんですから」と、あきれてみせた。だが、すぐ真顔に戻る。「このままでは、この国はつぶれてしまう。今のマスメディアは、あるべき事実を伝えていない」と力を込めた。
尖閣諸島や竹島に関する領土問題は中韓と係争中であり、棚上げすべきだとする孫崎さんの意見を受け入れがたいと感じる国民のほうが多数派だろう。産経新聞の読者でなくても、中国の膨張に脅威を抱く層がそこに重なる。「日本固有の領土として断固、領有権を維持せよ」と、断交も戦争も辞さない勢いの勇ましい声すら聞こえてくる。だが、史実やカイロ宣言などの国際条約を検証して孫崎さんは棚上げのほうが国益になると考える。フランス北東部のストラスブールはドイツとの領有権をめぐって何百年も争ってきたが、第二次大戦後は棚上げすることで両国の利益となった例を挙げた。さらに言えば、北方領土も含めて、紛争の火種を作ったり放置したりしてきたのが米国ではなかったかと一部推察も交えて振り返っている。イギリスにしても、植民地から撤退する時、元植民地国同士が反英で団結しないよう領土問題の火種を残す細工をしたという。そのような論旨の孫崎さんの著書群を読み、この日の講演を聞くと、それが正しいかどうかを自分でも調べてみたくなる。ロシア・スクールの出自だから反米で中国には大甘だと即断していいようには思えなかった。
いざとなったら米国が守ってくれるという根拠は日米安保条約に書かれているように見えるが、5条にある通り「自国の憲法上の規定及び手続に従つて」議会の承認がなければ米軍は出動しない。日本人の希望的楽観を孫崎さんは戒める。米国は常に自国の利益の下、行動してきた。尖閣諸島で米兵が日本のために血を流す可能性は限りなくゼロである。領土問題で日本が近隣国と反目して得をするのはどこか。テロ戦争にしても、それが続くことによって存在感が維持されるのは世界一の帝国ではないのか。ネット上にあふれる同工異曲の孫崎バッシングはもういい。自分の目で事実に近づいていきたい。
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