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経済政策失敗者が独首相を指導する滑稽さー(植草一秀氏)
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5th May 2016 市村 悦延 · @hellotomhanks
安倍首相はゴールデンウィークに外遊し、
5月26−27日の伊勢志摩サミットでの政策合意形成を目論んでいる。
ドイツのメルケル首相との会談では、
ドイツによる財政出動の合意を得ることを目指していることを表明している。
主要国による政策協調を安倍首相がリードするとの思い入れがあるのだとメディアは伝えている。
ところが、安倍政権の足元にある日本経済は、とても他国に範を示すどころの状況ではない。
第2次安倍政権は2012年12月にスタートして、3年半の時間を経過したが、
「アベノミクス」の掛け声が虚(うつ)ろに響くだけで、その実績は惨憺(さんたん)たるものである。
そして、安倍首相は伊勢志摩サミットで主要国による財政出動の政策合意を形成しようと
意気込んでいると仄聞(そくぶん)されるが、当の日本の財政政策そのものが、
全体として超緊縮になっていることが、あまりにも皮肉である。
つまり、安倍首相は日本の経済政策の現状さえ正確に把握することなく、
他国に行って、他国の経済政策に注文をつけるという失態を演じているのである。
さらに、日本では2017年4月の消費税再増税の旗をまだ降ろしていない。
消費税10%見送りを、サミットで発表するために温存している可能性はあるが、
日本の財政政策が全体として超緊縮の状況にありながら、他国に積極財政を求めるのは、
あまりにもぶざまと言わざるを得ない。
他国の経済政策に注文をつける前に、アベノミクスを総括し、根本的な反省をすることが先決である。
2012年末にスタートした「アベノミクス」は
1.金融緩和強化によるインフレ誘導
2.財政出動による日本経済回復
3.成長戦略による成長の誘導
の三つの方針を明示した。
しかし、
1.インフレ誘導は結局のところ、失敗に終わった。
2.財政政策は2013年に積極策が実施されたが、2014年以降は超緊縮に転じ、
日本経済を不況に逆戻りさせた。
3.成長戦略とは、資本の利益の成長であって、主権者国民の所得の成長を目指すものでなかった。
要するに、アベノミクスの評点は
ゼロ
に近い。
2012年11月から2015年6月にかけて、
円安が進行し、日本株高が実現した。
一般的には、これがアベノミクスの成果だとされるが、本質は違う。
米国金利が上昇して円安が生じ、この円安が日本株高をもたらしただけである。
2015年6月を転換点にドル円レートは円高に転じた。
これに連動して日本株価も下落に転じた。
こうなると、安倍政権にはなす術がない。
円高が進行して日本株価が下落に転じて、日本経済が最悪の状況に移行しつつある。
事態悪化を食い止めるには、
日本の財政政策を「超緊縮」から「中立」ないし「積極」に転換する必要があるが、
安倍政権はその政策転換の方針すら示していない。
国の財政政策を示す一般会計の推移を調べると、
2016年度は強度の緊縮財政を示しており、
この緊縮を是正するには7兆円規模以上の補正予算編成が必要である。
安倍政権は熊本地震に対応して、急遽、補正予算を編成する方針に転じたが、
その補正予算の規模は1兆円程度であり、この程度の補正予算編成では、
2016年度の超緊縮財政政策運営は変化しない。
主要国に財政出動を求めるなら、日本が率先して範を示す必要があるが、
その姿勢はまったく示されていない。
「財政出動」の言葉を聞くと、直ちに「利権支出バラマキ」、
「コンクリート投資=公共事業バラマキ」を連想する人が多いが、その発想を転換する必要がある。
財政支出が求められているのはプログラム支出=社会保障支出なのだ。
「保育所落ちた」の声が日本中に響き渡っている。
所得の少ない世帯の大学生の多くが多額の奨学金による多重債務者に追い込まれる現実がある。
1人親世帯の子どもの貧困はOECD加盟国のなかでも最悪の状況にある。
日本の主権者の生活最低保障水準を引き上げるために、積極財政を展開するべきなのだ。
他方、利権支出=天下り関連予算=利権公共事業予算は徹底的に切り込むべきなのだ。
日本の経済政策が零点の状態にあるのに、他国の経済政策に注文をつけるのは100年早い。
アベノミクス第一の矢とされる「金融緩和=インフレ誘導」という政策を総括するべき時期が到来している。
問われるべきは、
1.インフレ誘導という目標自体が正しかったのかどうか。
2.インフレ誘導は現実に実現可能な政策目標であるのかどうか。
この2点をはっきりさせるべきである。
私は2013年6月に上梓した
『アベノリスク』(講談社)
にはっきり書いた。
1.インフレ誘導という政策目標は間違っていること。
2.インフレ誘導は実現できないこと。
そして、現実は、私が記述した通りであることを証明した。
インフレ誘導は、大資本に利益を与え、労働者・年金生活者に不利益を与える施策である。
そもそも、インフレ誘導は、
企業の賃金コストを引き下げるために
求められた政策なのだ。
賃金が横ばいでもインフレになれば、インフレ分だけ賃金が目減りする。
この賃金の目減りを実現するためにインフレを誘導しようとしたのである。
労働者は賃金が目減りし、年金生活者は年金が目減りする。
虎の子貯金も目減りする。
資本に利益を与え、労働者と年金生活者を苦しめるのがインフレ誘導なのだ。
そして、量的金融緩和でインフレ誘導ができないことは、日本銀行自身が1999年9月21日に発表した
「当面の金融政策運営に関する考え方」
https://www.boj.or.jp/announcements/release_1999/k990921a.htm/
と題する文書で明示しているのである。
「(追加的資金供給の効果)
(4) 最近、為替相場の安定等を図るため、日本銀行がより大量の資金供給を行うべきとの議論が聞かれます。
しかし、上記のような金融市場の状態のもとでは、日本銀行がゼロ金利を維持するために必要な量を上回って
資金供給を増やしても、資金がまさに「余剰」のままで短資会社等に積み上がるだけです。金利はもちろん、
金融機関や企業行動、あるいは為替相場などの資産価格に目に見える効果を与えるとは考えられません。
(5) 実体的な効果がなくとも、市場が「追加的資金供給」に何らかの期待を持っていれば、
それを利用してみてはどうかとの考え方もあります。しかし、そうした方法の効果は、あったとしても一回限りで、
永続きしませんし、中央銀行として、目的と政策効果についてきちんと説明できない政策をとることはできません。」
日銀は1999年9月21日公表文書において、量的金融緩和政策が有効性を持たないとの見解を
公式文書として発表しているのである。
その、有効性のない政策を日銀は拡大してきた。
しかし、成果を上げることはできなかった。
黒田日銀は、新体制発足2年で、消費者物価上昇率を前年比+2%にまで引き上げることを
公約
として明示したが、それは実現しなかった。
2016年3月の全国消費者物価指数の前年比上昇率は−0.1%である。
「財政政策を活用して日本経済を回復させる」
という政策も、実行されたのは2013年だけだった。
2014年は消費税大増税で日本経済を不況に逆戻りさせ、2015年、2016年と、
連続して緊縮財政を続けている。
とりわけ、2016年度の緊縮の程度は強い。
この政策運営を示しておきながら、ドイツに積極財政を求めるというのは、不見識も甚だしい。
日本が積極財政に転換したうえで、ドイツに積極財政を求めるのが筋というものである。
アベノミクスの下での日本の経済成長率は、その前の民主党政権時代よりもはるかに低い。
2009年10−12月期から2012年7−9月期の
実質GDP成長率(前期比年率)の単純平均値は2.0%
であったのに対し、
2012年10−12月期から2015年7−9月期の
実質GDP成長率(前期比年率)の単純平均値は0.8%
だった。
アベノミクスは日本経済を著しく悪化させたのだ
この間に株価が上昇したのは、円安進行で、輸出製造業の企業収益が膨張したためである。
そして、株価が上昇したというが、東証第1部上場企業数はわずか1900社余りに過ぎない。
日本の法人数400万社の0.05%にも満たない企業の株価が上昇したとしても、
それ以外の日本経済が転落しているのだ。
そして、一般労働者の所得は減少し続けてきた。
非正規労働者の比率は上昇するばかり。
アベノミクスは1%にも満たない上澄みに利益を与え、
大多数の一般国民を苦しめる、害悪に満ち溢れた政策なのである。
本年7月の参院選で主権者は、
「アベノミクスの正体」
を正確に知ったうえで、安倍政権を退場させる方向に投票行動を示す必要がある。
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