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「日本の核兵器保有を容認する」と仰天発言したトランプ。純粋に軍事的観点だけから見れば、たしかに日本は核兵器を保有した方がいいとすら言える。しかし、ことはそう単純ではない Photo:Reuters/Aflo
日本が核武装したら「世界の孤児」になる理由
http://diamond.jp/articles/-/90476
2016年5月2日 北野幸伯 [国際関係アナリスト] ダイヤモンド・オンライン
米大統領選で共和党トップを走るドナルド・トランプが、数々の仰天発言で世界と日本を困惑させている。今回は「トランプ爆弾発言」の1つ、「日本の核兵器保有を許す」について考えてみよう。
■トランプの爆弾発言で喜んだ
日本の「自主保守」論者たち
トランプは、ニューヨーク・タイムズ(電子版)が3月26日に掲載したインタビューで、「日本の核兵器保有を容認する」意向を示した。これは、なんといっても米大統領選で共和党トップを走る人物の発言である。「冗談だろう」と軽く流すわけにはいかない。
トランプが「核保有を許す」と発言した時、喜んだ日本人もいたはずだ。日本には「核武装論者」が、少なからずいる。代表的な人物の1人は、石原慎太郎・元東京都知事だ。最近「公職選挙法違反容疑」で逮捕された田母神俊雄・元航空自衛隊幕僚長も、核保有を支持している。
日本の保守には、「米国に追随するのがベスト」と考える「親米保守」と、「自分の国は自分で守るべき」とする「自主保守」がいる。「親米保守」は、「米国の『核の傘』があるから日本の核保有は必要ない」と主張するが、「自主保守」は「核武装が必要」と考えていることが多い。
「自主保守」論者たちのロジックとは、次のようなものだ。
日本の周りを見ると、中国、ロシア、北朝鮮が核兵器を保有している。ロシアのプーチン大統領は比較的親日だが、日ロは「北方領土問題」を抱えている。そして、中国と北朝鮮は、はっきりと「反日国家」である。北朝鮮については、「金正恩が何をしでかすか分からない」という恐怖がある。核大国・中国は、「反日」で、なおかつ「日本には尖閣ばかりか沖縄の領有権もない」と宣言している(証拠はこちらの記事を参照)。
つまり、日本は「反日核保有国」に囲まれた国であり、安全保障上きわめて不安定な位置にある。そして「米国の『核の傘』は、果たして信用できるのか?」という疑念がある。
たとえば、中国が日本を核攻撃した。その時、米国は中国に核攻撃するだろうか?「恐らくしないだろう」というのが、「核武装論者」の考えだ。なぜなら、米国が中国を核攻撃すれば、中国も核で反撃するからだ。結果、米国で何百万人犠牲者が出るかわからない。「そんなリスクをとって米国が日本を守るはずがない」というのだ。
もっともな意見だろう。さらに近年は、「米国の衰退が著しい」という現実がある。米国政府は今年年初、中東一の親米国家・サウジアラビアとイランの対立が激化し「国交断絶状態」になった時、「仲介はしない」と宣言して世界を驚かせた。「米国は弱く、もはや日本を中国から守れないのではないか?」という恐怖が生まれている。だから「日本も、中国や北朝鮮に対抗すべく、『核武装』すべきだ」というのは、極めて真っ当な議論なのだ。
しかも、核兵器は、世界の最貧国・北朝鮮が保有していることからも分かるように極めて安価で、破壊力は強い。純粋に軍事的観点から見れば、「保有した方がいいに決まっている」とすら言える。しかし、事はそう単純ではないのだ。
■日独をターゲットにしてできた
「核兵器拡散防止条約」
「単純でない」ことを説明するために、世界の「核兵器保有」の現状を見てみよう。まず、核兵器の無秩序な拡散を防止するために1968年、「核兵器拡散防止条約」(NPT)がつくられた(発効は70年)。日本は70年に署名し、76年に批准している。
NPTは、米国、英国、フランス、ロシア、中国の核兵器保有を認め、その他の国々の核兵器保有を禁止するという、極めて「不平等」な条約である。しかし、それでも現在190ヵ国が加盟しており、NPTは「世界的秩序」になっている。
世界には、この5大国の他にも、核兵器を保有している国がある。まず、インドとパキスタンは、最初からNPTに参加せず、核兵器保有を実現した。北朝鮮はNPTに加盟していたが、93年に脱退。厳しい制裁を受けながら核兵器保有を果たした。イスラエルは、「核兵器保有を肯定も否定もしない国」だが、「全世界がイスラエルの核保有を知っている」という変わった状況にある。
以上、現在世界で核兵器を保有しているのは、9ヵ国である。そして、ここからが重要なのだが、「NPTは、日本とドイツの核武装を封じる目的でつくられた」のだ。これは、筆者の妄想ではなく、NPT加盟時の村田良平・外務事務次官の言葉である。
これに関連して、米国在住国際政治アナリスト伊藤貫氏の『中国の「核」が世界を制す』(PHP)の中に、驚愕の話が登場する。米国と中国は「日本に核武装させない『密約』を結んでいる」というのだ。(太線筆者、以下同じ)
<一九七二年二月、北京でニクソンとキッシンジャーが習恩来と外交戦略の会談をしたとき、米中両国首脳は、「日本に自主的な核抑止力を持たせない。日本が、独立した外交政策・軍事政策を実行できる国になることを阻止する。そのためにアメリカは、米軍を日本の軍事基地に駐留させておく」という内容の、米中密約を結んだ(この密約の要点を書き留めたニクソンの手書きのメモが残っている)。>(78p)
米中は70年代、「日本に核兵器を持たせない」ことで合意していたことがはっきり分かる。さらに、この本には伊藤氏が94年、当時米国防総省の日本部長だったポール・ジアラ氏と会った際の会話が再現されている。
ジアラ氏は次のように述べたという。
<「クリントン政権の対日政策の基礎は、日本封じ込め政策だ。>
<一九九〇年にブッシュ政権は対日政策のコンセプトを大きく修正『日本を封じ込める』ことを、米国のアジア政策の基盤とすることを決定した。>
<クリントン政権も同じ考えだ。クリントン政権のアジア政策は米中関係を最重要視するものであり、日米同盟は、日本に独立した外交、国防政策を行う能力を与えないことを主要な任務として運用されている。>(以上200p)
ちなみに当時から北朝鮮の「核問題」はあった。これについてジアラ氏は、どういう見解だったのだろうか?
<現在、北朝鮮の核開発が問題となっているが、たとえ今後、北朝鮮が核兵器を所有することになっても、アメリカ政府は、日本が自主的核抑止能力を獲得することを許さない。東アジア地域において、日本だけは核抑止力を所有できない状態にとどめておくことが、アメリカ政府の対日方針だ。この方針は米民主党だけでなく、共和党政権も賛成してきた施策だ。>(200〜201p)
■トランプ大統領が誕生しても
日本が核武装をすれば世界の孤児に
日本には、「共和党は、日本の核武装を支持する」という楽観論がある。しかし、ジアラ氏の言葉を読むと、共和党がそれを許すかは極めて疑わしいことが分かる。「米中が共同で日本の台頭を阻止する」という70年代の方針は、ごく最近になっても不変だった。特に民主党系の学者や言論人は、新世紀に入っても相変わらず日本の自主防衛、核武装に反対している。
<彼らの多くは、「台湾が中国に併合されるのはやむをえない。米中両国は東アジア地域において、日本にだけは核を持たせず、日本が自主防衛できないように抑えつけておき、米中両国の利益になるように日本を共同支配すればよい」と考えている。>(113p)
このように米国と中国は、70年代から現在まで、「日本の核武装に反対すること」で一体化している。もちろんトランプが大統領になり、全世界に向けて、「私は日本の核武装を絶対的に支持する!国連安保理で制裁決議案が出ても、拒否権を使って阻止する!」と公式に宣言すれば情勢は変わる。しかし、歴史的経緯と現状を見ると、そんなことは起こりそうにない。第一、トランプは決して「親日」ではない。
「問題の本質」を整理してみよう。日本が「核武装」を目指すとすれば、それは、(北朝鮮問題もあるが)主に中国に対抗するためである。しかし、中国に対抗するために「核武装」すると、結果として中国ばかりでなく、米国も敵に回してしまう。
そればかりでなく、「核兵器寡占体制」を維持したい英国、フランス、ロシアも敵にしてしまう。米中英仏ロは、「公認」の核兵器保有国であると同時に、国連安保理で「拒否権」を持つ「常任理事国」でもある。つまり彼らは、その気になれば国連安保理経由で「強制力を伴った対日本制裁」を課すことができる。
一方、日本は核武装を決意すれば、NPTを脱退することになる。190ヵ国が参加・支持するNPTからの脱退は、日本を「世界の孤児」にしてしまうことだろう。実際、NPT元参加国で、後に脱退して核武装した北朝鮮は、過酷な制裁を受ける「世界の孤児」になっている。つまり、日本が核武装に突き進めば、世界を敵に回して孤立し、過酷な経済制裁を課される可能性が高い。最悪、戦前戦中の「ABCD包囲網」のように、「エネルギー封鎖」をされるかもしれない。
こう書くと、必ず「GDP世界3位の大国に経済制裁などできない。自分たちが損をするのだから」と反論される。しかし、「自分たちが損をしても」制裁が行われることはある。たとえば、日本と欧米は今、経済的損失を出しながら「対ロシア制裁」を続けている。ロシアとの結びつきが薄い日本と米国はあまり損失を感じないが、ロシア経済と深く結びついている欧州では大きな影響が出ている。
さらに、「制裁する側」の利点は、「自分たちが困る製品は、制裁リストから外せる」ということだ。たとえば欧州は、ロシアに制裁する一方で、同国からの原油・天然ガス輸入は続けている。もし「この日本製品が入ってこなければ困る」というのなら、その製品を制裁リストから外すことができるのだ。
既述のように、核兵器は安価で抑止力が強く、純粋に軍事的観点から見れば「持っていた方がいい」ものである。しかし、中国ばかりか米国、そして全世界を敵にまわすリスク、そして過酷な制裁を受けるリスクを考えれば、「メリットよりデメリットの方が多い」と言わざるを得ない。
日本の核保有論者は、「日本の立場は特殊」と考えがちだ。しかし、「敵対的核保有国が近くに存在している国」は、日本以外にもたくさんある。たとえば、日本と同じように中国の脅威に怯える、ベトナム、フィリピンは、核武装するべきだろうか?あるいは、2008年に核超大国・ロシアと戦争したジョージア(旧グルジア)や、クリミアを奪われたウクライナは、核武装するべきだろうか?
「すべての国は平等だ」という「理想論」に従えば、「持つべきだ」となるだろう。あるいは、「すべての国は、核兵器を持つべきではない」となるだろう。しかし、これらはいずれも「非現実的議論」に過ぎない。そして、「国際社会は、中国の脅威に直面している日本にだけは核武装を許す」と考えるのも、現実離れした楽観論である。
■孤立せずに事実上の核保有ができる
「ニュークリアシェアリング」とは?
ここまで、「核武装で日本は世界の孤児になる」という話をしてきた。実をいうと、孤立せずに「事実上の核保有」を実現する方法がある。「ニュークリアシェアリング」だ。これは、核兵器を持たないベルギー、ドイツ、イタリア、オランダが、米国と結んでいる条約である。
ニュークリアシェアリングによって上記の4ヵ国は有事の際、米国の核を使って反撃できるのだ。そのため、これらの国々は日常的に米国の核を使って訓練している。第2次世界大戦時、日本の同盟国として米国と戦ったドイツ、イタリアが入っているが、ニュークリアシェアリングに参加していることで、「ドイツとイタリアでファシズムが復活している!」という批判はない。
つまり、日本が同じ決断をしても「世界的孤立」は避けられるということだ。よって、「国連で制裁を受ける」とか、「エネルギー供給を止められる」といった心配をする必要がない。そしてニュークリアシェアリングによって、日本は米国の核兵器を利用することができるようになり、中国に対する強力な「抑止力」を得る。これは、「自国は核兵器を保有しなくとも、核兵器保有国と同じ抑止力を持てる」という仕組みなのだ。
米国が日本にニュークリアシェアリングを許すか、現段階では分からない。しかし、日本単独の「核武装」よりはずっと、抵抗が少ないことは確かだろう。
ただし、問題となるのは中国、ロシア、北朝鮮の反応だ。彼らは反発し、相応の対抗措置を取るだろう。中ロはますます反米・反日化し、一体化する。ロシアは、北方4島を軍事要塞化させ、北方領土返還は事実上「不可能」になる可能性がある。こういう副作用を考えると、ニュークリアシェアリングですら、現時点で必要か疑問だ。
今回の話は、読者の皆さんには、「時期尚早すぎる議論」と思えるかもしれない。しかし、安倍総理は、日本人離れした「決断力」と「実行力」をもっている。「決断力」と「実行力」は、肯定的な場合もあれば、「間違った決断を大胆に行う」ことにも使われかねない。「気がつけば、核武装を目指すことが既定路線になっていた」とならないよう、今のうちから「予想される悲惨な結末」を明示しておくことが大切なのだ。
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