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市場に翻弄される黒田日銀 “麻薬漬け”日本経済は末期症状
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/180579
2016年4月29日 日刊ゲンダイ 文字お越し
もう追加緩和は不可能…(黒田日銀総裁)(C)日刊ゲンダイ
緩めても引き締めても地獄
市場関係者は大型連休の突入前に、いきなり巨大ジェットコースターに乗せられた気分だったろう。GW前の最後の取引となった28日の東証は大荒れ。平均株価はすさまじい乱高下となった。
理由は日銀の追加緩和見送りだ。
前場は円安・ドル高進行が買い材料となり、平均株価は一時1万7572円まで上昇したが、正午過ぎに「現状維持」という政策決定会合の結果が伝わると、円相場は一気に上昇した。
追加緩和を期待したマーケットの失望売りも広がり、株価はつるべ落とし。アッという間に前日比637円安の1万6652円の安値をつけ、高値からの高低差は900円を超えるジェットコースター相場となった。
それにしても、エゲつない「催促相場」だった。日経QUICKが27日に実施した緊急調査によると、回答した市場参加者199人のうち、今月中に日銀が追加緩和に踏み切るとの予想は6割近くに達した。マーケットが追加緩和ムードをあおり立て、日銀に「裏切ったら、ただじゃおかないぞ」と言わんばかり。日銀の黒田東彦総裁は、相場を人質に取られたも同然だったのである。
強欲なマーケットを敵に回すのは覚悟のうえで、追加緩和を見送ったのなら、黒田総裁も大した度胸の持ち主だが、「実態は“見送り”ではなく、もう追加緩和は不可能なのです」と経済評論家の斎藤満氏が続ける。
「28日発表の『展望レポート』で、日銀は物価上昇率の見通しを下方修正。2%の物価目標達成時期は『17年度前半ごろ』から『17年度中』へと、また約半年先送りしました。日銀自身がマイナス金利の効果の薄さを認め、さらなる緩和への“お膳立て”を自ら整えたようなもの。それでも踏み切れなかったのは、まず世界の中央銀が“金融万能主義”に懐疑的になってきたことが大きい。日銀の判断の前に、欧州中央銀は追加緩和に動かず、米FOMCは再び利上げを見送りました。金融政策だけに頼っても成長に寄与するどころか、大きな弊害を生み出すことに世界は危惧し始めています。欧米各国が金融政策の限界を意識する中、日本だけが突出した動きを示すわけにはいかないのでしょう」
もちろん、世界の金融界のトレンドだけが、追加緩和に動けない理由ではない。その背景には日銀だけに特有の危うい事情が横たわっている。
ジェットコースター相場(C)日刊ゲンダイ
もはや正気を失った八方塞がりの日銀総裁
13年4月に黒田日銀が異次元緩和を導入してから、はや3年。当初は「2年程度」とした2%の物価目標の達成時期はズルズルと先延ばし。きのうの決定会合ではさらに「17年度中」(18年3月)に改めた。18年4月に任期切れを迎える黒田総裁の在任中の達成すら、怪しくなってきた。
緩和による「円安・株高」効果もすでに息切れ。円安による為替差益で大儲けしてきた輸出大手も青息吐息だ。中国経済の減速や熊本地震によるサプライチェーンの寸断も加わり、本格化してきた大企業の決算発表は下方修正ラッシュ。決算と同時に出される今期予想(17年3月期)も減益予想ばかり。川崎重工、ファナック、マツダ、コマツ……と並み居る大手企業が20%以上の大幅減益を見込んでいるのだ。
要するに、異次元緩和はもはや“消費期限切れ”だ。これ以上、緩和を拡大しても、日本経済に劇的な効果をもたらすことはない。黒田日銀の金融政策はすでに限界を迎えているのだ。
これ以上、マイナス金利の利幅をムリに引き下げれば、銀行経営を圧迫するだけ。三菱UFJフィナンシャル・グループの平野信行社長が「銀行はマイナス金利(による負担)を顧客に転嫁できないだろうから、利ざやはさらに縮小し、基礎体力低下をもたらす」と懸念した通り、金融機関の収益は悪化していく。
景気の大動脈の銀行経営がショートすれば、日本経済全体がマヒしかねない。黒田総裁はきのうも「マイナス金利はいくらでも深掘りできる」と空威張りだったが、「やれるものならやってみろ!」だ。前出の斎藤満氏はこう指摘する。
「麻薬のような異次元緩和策がもう限界に達しているとはいえ、うかつに引き締めにかかれば、その副作用は計り知れません。日銀は国債利回りがマイナス圏に突入しても、年80兆円ペースで世に出回る国債の大半を買い占めています。損失覚悟で大量に国債を保有すれば日銀のバランスシートを毀損し、一歩一歩、破綻に近づいていく。日銀の自己資本は6兆円に過ぎませんから、時間の問題かも知れません。かといって莫大な国債を手放せば、金利の急上昇を招き、財政破綻の引き金となりかねません。緩めても引き締めても地獄の展開で、黒田総裁はすでに八方塞がり。追加緩和に動くどころか、打つ手ナシが真相です」
■失敗政策の賛成派だけで身の回りを固める愚
黒田日銀の漂流を目の当たりにし、強欲マネーは手ぐすね引いている。大型連休中で日本が動けないことを尻目に、欧米市場では恐らく円買いトレードが一気に加速する。豊島&アソシエイツ代表の豊島逸夫氏は日経新聞(電子版)で、「円は1ドル=105円までの展開が視野に入る」と予想した。おおむね1ドル=110円程度である輸出大手の想定レートを、はるかに下回っていく。
GW明けには株価もつられて大暴落。円相場も株式市場も、目も当てられない惨状が待ち構えていることだろう。
ただでさえ、舵取りが難しい局面を迎えているのに、黒田総裁は完全に冷静さを失っているように見えるから、ますます心配になってくる。
尋常とは思えないのが、着々と「イエスマン」で固めつつある日銀審議委員人事である。
14年10月の追加緩和に反対した森本宜久(東電出身)の任期が昨年6月に切れると、後任には輸出企業を代表するトヨタ相談役の布野幸利氏が就任。今年1月のマイナス金利導入に反対した白井さゆり氏が3月に退任すると、後任にはリフレ派の桜井真氏が就いた。同じくマイナス金利に反対し、6月に任期を迎える三井住友銀出身の石田浩二氏の後釜には、緩和策支持派で新生銀の政井貴子執行役員が収まる。
残る2人の緩和策反対派の審議委員の任期は来年7月で共に切れる。黒田総裁が任期を迎える頃には政策決定会合に臨む審議委員は皆、緩和賛成の“身内”だけになるのではないか。異常だ。
筑波大名誉教授の小林弥六氏(経済学)はこう言った。
「中央銀行の独立性や使命を考えれば、日銀の審議委員には意見の多様性が求められます。ましてや、すでに失敗が目に見えている政策の賛成派ばかり集めるのは危険です。ブレーキ役を失って日銀の暴走を招き、通貨の信頼性すら劣化しかねません。裏を返せば、黒田総裁が身内で周りを固めたくなるのは自信の喪失を物語っています。もはや審議委員同士で意見を戦わせる余裕すらない証拠でしょう。ナチスドイツの敗色が濃厚となって、ごく一部の側近しか信用できなくなったヒトラーの末期さえ、想起させられるほどです。まさに“ハダカの王様”でマトモな神経とは思えない」
落ち目の独裁者の姿すら重なってくるほどの麻薬漬け日本経済の末期症状である。
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