熊本地震に対する自衛隊の災害派遣を支援するかたちで、沖縄を本拠地にするアメリカ軍が災害救援活動を実施した。
アメリカ軍が救援活動に投入したのは、「第31海兵遠征隊」(31-MEU)隊員120名と8機のMV-22ティルトローター中型輸送機(オスプレイ)、それに米空軍のC-130H大型輸送機(ハーキュリーズ)が2機であった。
31-MEUが使用したオスプレイ8機のうち4機は、出動中であったフィリピンから、オスプレイの特徴である長距離航続性能を生かして、災害救援活動に参加した。
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オスプレイ反対派は「災害の政治利用」と批判
アメリカ海兵隊が災害救援支援活動にオスプレイを使用したことに対して、一部メディアや政党などは、次のようなオスプレイ批判を展開していた。
「オスプレイが災害救援活動に使用できることを示して、国民の安全性への懸念を取り除こうとする試みである。災害の政治利用とみなされても仕方がない」
「避難している被災者の人々も、危険なオスプレイを不安に思っている。米軍の協力はありがたいが、オスプレイの使用はやめるべきだ」
「安倍政権は、被災者の藁にもすがる思いでいるという状況を、オスプレイの国内配備のために利用するのか」
「自衛隊のCH-47輸送ヘリコプターは災害救援活動には極めて優秀な航空機である。自衛隊はそのCH-47を多数投入できるにもかかわらず、なぜ海兵隊のオスプレイを使用する必要があるのか」
「オスプレイの能力は災害時に役立つ」と擁護側
一方、オスプレイの使用を擁護する陣営は、主として中谷防衛大臣の次のような声を伝えていた。
「オスプレイの安全性はすでに保証されている。自衛隊のヘリコプター輸送能力だけでは十分に現地に物資が届けられていない」
「オスプレイは 垂直離着陸が可能であり、山間部など狭隘な場所でも物資を運ぶことができる。災害時に役立つ能力がある」
「効率的で迅速な活動を行うため、自衛隊の輸送力に加え、高い機動力と即応力を併せ持つオスプレイの活用が必要だ」
「米側の力を利用できるのはありがたい。困っているときに支援してくれるのが本当の友人だ」
ピンボケのオスプレイ論議
オスプレイの使用を批判する人々は、かねてよりの持論である「オスプレイ恐怖症」を再燃させようと、まさに災害救援という緊急事態を利用して31-MEUのオスプレイ出動を政治利用したと言えよう。
しかし中谷大臣が言う通り、また本コラムでも何回も指摘したように、今さらオスプレイの危険性をあげつらうのは噴飯物に近い。
そもそも、31-MEUはオスプレイを出動させたいがために災害救援支援活動を申し出たのではない。現在31-MEUが保有している各種航空機のうち、今回の支援活動に最適なのは中型ティルトローター輸送機であるオスプレイであったからオスプレイを使用したのである。したがって、オスプレイ反対陣営の議論が論外なのはもちろんのこと、擁護陣営があえてオスプレイの有用性を強調するのもおかしな議論である。
また、オスプレイと自衛隊のCH-47輸送ヘリコプターを比較するような議論も見受けられるが、海兵隊はCH-47を保有していない。また、自衛隊がいくら多数のCH-47を運用しているといっても、同盟軍の海兵隊が自衛隊の輸送能力を増強してくれるというのならば、素直に受け入れれば良いのだ。
大災害直後の緊急輸送は「猫の手も借りたい」わけであるから、オスプレイであろうが、CH-47であろうが、自衛隊であろうが、海兵隊であろうが、投入可能な支援アセットは躊躇なく投入しなければならない。
自衛隊にせよ、海兵隊をはじめとする米軍にせよ、本来の任務は国防であるが、それぞれが負っている国防の任務を維持しつつ、最大限の救援活動を実施するには最適の資機材を投入する必要がある。今回の支援活動を政治的プロパガンダと解釈するのは「あまりにも政治的に穿った見方」であり、軍事組織の本質を見誤っていると言えよう。
海兵隊は条約上の義務を果たしただけ
そもそも、昨年改定された現行の「日米防衛協力のための指針」(ガイドライン)には、日本での大規模災害における救援活動は、当然のことながら日本が主体的に実施するが、米軍も積極的に協力する旨が下記のように明記されている。
「米国は、自国の基準に従い、日本の活動に対する適切な支援を実施します」(支援内容の例:捜索・救難、輸送、補給、衛生、状況把握及び評価並びにその他の専門的能力)
「日米両政府は、適切な場合に、同盟調整メカニズムを通じて活動を調整します」
したがって、在日米軍が、日米間の取り決めに明記されている自衛隊の大規模災害救援活動を支援するために、可及的速やかに効果的な支援活動を実施しようとするのは、中谷大臣の言うような「友人として」の善意というよりは、むしろ条約上の約束の履行なのである(もちろん、安保条約締結中は、かけがえのない友人であるが)。
そして、やはりガイドラインに記されているように、陸海空自衛隊で構成する「統合任務部隊」内に「日米共同調整所」が設置され、自衛隊と海兵隊の連携が保たれた。
まさに、今回の米軍による自衛隊の救援活動の支援は、日米国家間の取り決めに基づいて31-MEUが「自衛隊に対して適切な輸送支援活動」を提供しただけであり、オスプレイのプロパガンダなどという動機は微塵も存在しなかったのである。
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