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安倍官邸を苛立たせる、補欠選挙の「ある調査結果」 もしかして、政治の潮目が変わった?
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48537
2016年04月26日(火) 鈴木哲夫 現代ビジネス
■「一発逆転策はないのか」自民幹部の焦り
衆議院北海道5区補欠選挙は、最後まで熾烈な戦いだった。
自民党の町村信孝・元衆議院議長の死去に伴う補選で、自公は町村氏の娘婿で元商社マンの和田義明氏を擁立。これに対し、無所属の池田真紀氏(43)は民進党から共産党までが推した野党統一候補。ガチンコの「自民VS野党」対決となった。
結局和田氏が1万票余りの差で逃げ切ったが、選挙戦は抜きつ抜かれつの展開だった。町村氏の強固な地盤であるうえ、さらに弔い合戦ということもあって、年明け時点の自民党およびマスコミの世論調査では和田氏が圧倒的リードを保っていた。ところが、3月になって池田氏が猛追。告示前後の自民党の世論調査では、池田氏が追い抜き、周囲を驚かせた。
池田氏は、2人の子供を育て上げたシングルマザーで、しかも福祉・介護の専門家。2月の「保育園落ちた!日本死ね」ブログが注目を集めて以来、子育てや社会保障などが有権者の関心事となるなかで、池田氏の姿が浮かび上がり、無党派層を中心に一気に支持が伸びたのだ。
慌てたのは自民党だ。現地選対幹部は私に「一発逆転策はないか」と言うほどまで負けを覚悟していた。しかし、参院選の前哨戦とされるこの補選、安倍自民としては負けるわけにはいかない。「徹底した組織選挙をやりました」とこの幹部が明かす。
「まずは財界、中小企業などへのテコ入れをはかった。一方で、創価学会にも官邸や党本部選対幹部ルートを使って全面協力を依頼。学会は、参院選の時に埼玉や兵庫などで自民党が協力するならば、という『逆協力』を条件に動き出してくれました。その結果、投票3日前にようやく頭一つ抜けて、行けるという実感が出ました」
ただ、本来は圧勝のはずの選挙。勝ったとはいえ一時は抜かれたり、僅差でもあった。そしてこの北海道5区の補選は、実は極めて重大な「政治の変化」を示しているのを見逃してはならない。それは、3年半にわたって絶対安定を誇った安倍政権の屋台骨を揺るがすものと言ってもいい。
■重視する政策の一位は「社会保障」に
2012年に発足した安倍政権は「経済第一」を掲げ、選挙では常に「経済」「景気」「アベノミクス」を前面に出して戦ってきた。有権者もそれを争点だととらえ、安倍首相の「経済」「景気」に期待を寄せ、自民党を勝たせてきた。
しかし、北海道5区補選では、これまで安倍政権が仕掛けてきた争点と有権者の意識に、確実に「ズレ」が出てきたのである。民進党幹部が明かす。
「地元の北海道新聞が、投開票日前に世論調査をしたんですが、それによると、補選で重視する政策の1番目は『経済』ではなく『年金介護などの社会保障』が36%と断トツでトップになったのです」(民進党幹部)
なんと安倍首相の金看板だった「景気・雇用」は19%で2番目に後退。さらに3番目には、「教育・子育て」が15%で急浮上した。つまり、1番目と3番目を合わせただけでも、もはや有権者の半数以上が「経済はもういい。社会保障をやってくれ」と訴えている、ということだ。3年半前とは有権者の意識が完全に変わっているのだ。
また、こうした意識は投開票当日の出口調査でも証明された。調査をした地元テレビ局によると、和田氏に入れた人の理由の1位は「景気・経済」、池田氏に入れた人の理由は「社会保障」が大半だったという。
これについて「大企業を向く『経済の安倍政権』と生活者を向く『社会福祉の野党』という格好の対立構図になってきた」と言うのは前出の民進党幹部だ。
「有権者はこれまでアベノミクスに期待を寄せてきたが、いい思いをしているのは大企業ばかりで、いくら待っても地方や庶民に果実は落ちてこないと気づいたのではないか。その上、株価は下がり、『景気の気』も低下している。
有権者が年金や医療費といった将来の不安を解消する政策、女性にとっては特に子育て問題、若者にとっては格差や奨学金返還問題と、広く社会保障を重要視するようになったのです。アベノミクスを推し進めるというのは、もはや大きな票にはならないと思う」
「社会保障」や「女性政策」「子育て」は、今夏の参院選の争点としてもこのままの流れが続く可能性は大きい。
「参院選へ向けて、野党は今回の補選と同じく社会保障を中心に公約をまとめて行くつもりだ」(同)
■安倍政権に矛盾が生まれる
一方、与党とてこの「潮目の変化」に気づかないはずがない。安倍首相や自民党幹部らも、今回の選挙でそれを感じ取ったはずだと首相周辺は話す。
「5月に、昨年から進めている1億総活躍社会の中身をまとめて発表しますが、補選の結果を見て、その大半は女性政策や子育て政策、社会保障、介護、若者の格差や奨学金の対応などを前面に押し出すことになると思います」
有権者が社会福祉に目を向けている以上、参院選に向けて、一気に「経済から福祉へ」と方針を転換させるということだ。ただ、安倍政権にとって「社会保障」を前面に押すことは困難だ。というのも、安倍政権はこうした社会保障政策について、2013年12月に「社会保障プログラム法(俗称)」を成立させている。
この法律は簡単に言うと、今後増えつづける社会保障費用を、できるだけ削っていこうというものだ。つまり、医療や介護、年金、教育など社会保障分野は国の予算支出は縮小して個人の負担を増やし、介護などは地方自治体や各家庭での支援にシフトして行く方針を定めたもの。すでに、一部は実行され、お年寄りの医療費自己負担が増えたり、要介護者の基準が厳しくなったりしていることはご承知の通り。
つまり、安倍首相が社会保障を本気で改善して行くというなら、このプログラム法をそのままにしておくのは、どう考えても矛盾があるのだ。
5月に発表されるという1億総活躍社会のプランの中で、保育所の増設だの、介護施設の充実だの、そんなことを急ごしらえで掲げたとしても、一方ではプログラム法をこっそり温存しているのならば、「一時的にバラマキをやる」と明かしているようなもの。政策の一貫性を欠いているのだ。
プログラム法を見直し、社会保障のあり方の再検討をしないなら、5月に打ち出すのは選挙対策用の「おいしい政策」に過ぎない、と批判されても仕方ない。
■「なんでもアリ」の参院選へ
北海道5区の結果について安倍首相は「勝ったことは大きい」としながらも、「引き締めが必要」と口にした。有権者の意識の変化を敏感に感じ取り、自公vs野党統一で戦う参院選の1人区を重ね合わせているかもしれない。
こうなってくると、安倍首相は、「参院選へ向けてはいっそう何でもアリ」(首相周辺)で臨むことになるだろう。
「社会保障政策は特に力を入れるでしょう。あれこれ並べた1億総活躍社会を前面に出すことになるはず。このほか、来年4月からの消費税10%も凍結も視野に入れている。さらに5月に行われる日露首脳会談や伊勢志摩サミットなど、外交イベントでの支持率アップも加味したうえで選挙情勢を分析して、最終的にダブル選挙も使うかどうか決める―。とにかくあらゆる手を打つでしょうね」(自民党幹部)
今回の補選によって、与党、野党ともに大きな気づきを得たはずだ。本番となる参院に向けて、どんな戦略変化があるのか、注目したい。
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