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元記事http://blog.livedoor.jp/donnjinngannbohnn/archives/1899148.html
「TPP交渉差止・違憲訴訟」の第四回口頭弁論が十一日、東京地裁で開かれた。私は一連の裁判で、初めて傍聴券を逃した。覚悟していたことだが、考えるほど憂鬱(ゆううつ)になる。
門前集会の後、「TPPテキスト分析チーム」に細かい質問をしていたため、整理券をもらうのが遅れた。列の最後尾に付くと、隣に中年男性が並んでいる。沈黙の気まずさから、声を掛けた。
「一人で来たんですか」
「一人に来まってんじゃないか」
聞かなければよかった。すると、その赤ら顔の男が尋ねてくる。
「何番」
「百一番です」
男性と話していると、すぐ後ろに長身の男が立っているのに気付く。リュックを背負った、学者風情の男である。年は四十代か。
「あんた、ライターか。どういう裁判取材してんの」
私が適当に答えると、学者風情は世界情勢を論じたA4判の論考を差し出す。
「それでは抽選を始めます」
アナウンスがあり、全員前へ進む。中年男は当たり、私と学者風情は外れた。学者風情は、すぐに消えた。仕方なく、衆議院第一議員会館内で開かれる勉強会に向かう。歩きながら、余計なことを考えた。
〈読者の期待を背負った私が外れるのはおかしい〉
先ほどの二人の男を疑い始める。番号を聞いてきた中年男は、向こうから話し掛けてきたのではなかったか。学者風情は、なぜ私の活動内容を聞いたのか。きりのないことを考えるのは、九年前の植草一秀教授の刑事裁判で不可解なことを経験したからである。
二〇〇七年十二月から始まった京急事件の公判は、判決を含め十二回開かれた。われわれは緩やかな支援者集団をつくり、毎回十人程度で傍聴整理券を得ようと並んだ。しかし、二回だけ誰も入れない回があった。
一回目は植草氏の性的志向を追及する検察側質問、二回目は弁護側目撃証言。両翌日の新聞各紙は「セーラー服痴漢プレイは?」「役立つ証言出ず」などと植草氏の変態ぶりをあげつらったり、同じ車両に乗り合わせたと名乗り出た目撃者の証言の無効性を宣伝した。
後に、これらは事実に反することが判明している。特に後者は起訴状にある犯行時間帯に植草被告が誰とも接触しないでつり革につかまってうなだれていたことを証す、決定的に重要な回だった。
一回目は抽選を待つ間、黒背広に白シャツ、短髪でノーネクタイの屈強な男たちが壁際にずらりと並び、こちらを観察していた。公安であることが疑われたため、二回目は分散して並んだ。
「それでは受付を締め切らせていただきます。これから電子抽選で傍聴者を選びますので、しばらくお待ちください」
アナウンスが流れると、斜め後ろの二人の携帯が同時に鳴る。振り返ると、男たちが整理券を見ながら何やら入力している。「よしっ」と言いつつ携帯をパチャと閉じた。メールをしたようだ。二人は先回壁際にいた連中と同じ格好をしている。列が動き出して発表掲示板の前に来ると、彼らは当たったようなしぐさをして建物内に消えた。
二つの回で支援者が誰一人入れない確率は、ほとんどゼロである。裁判所は正義と公正を示す所だが、傍聴手続きにおいてすら、不正を行っているとみなさざるを得ない。
今回、TPP違憲訴訟の抽選を待った光景が気持ち悪く思われてきた。赤ら顔の男も学者風情の男も、公安かもしれない。ぶっきらぼうに話せば、詮索されずに済む。学者風情が手にしていたビラは安倍政権の安保政策を批判しているが、高校生でも作れる代物だ。
確率からすれば、外れたのは妥当な結果である。たった一人で、推定競争率二倍の抽選に臨んだのだから。それに、公安があのような貧しそうな汚れた風貌をしているだろうか。考えるほど分からなくなる。
少なくとも言えるのは、出来事には意味があるということ。では、今回の外れはどんな意味を持つのか。議員会館に着くと、一つの回答が浮かんだ。植草事件の公判で見た不可解な光景を伝えることではないか、と。
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