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何が介護離職ゼロだ! 「殺人まで考えた」介護現場の惨状
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/178778
2016年4月5日 日刊ゲンダイ 文字お越し
毎日新聞「介護アンケート」の衝撃(C)日刊ゲンダイ
先月31日の毎日新聞に、正社員として働いてきた女性が介護のために会社を辞めざるを得なくなり、その後の職場も会社の勝手で解雇され、娘がやっと入った大学を除籍になったという話が出ていた。
娘の学費は11万5000円。女性は「非正規雇用の母子家庭の現実を理解していない人々によって、今の政策が生み出されている」と訴えていたが、まさしく、その通り。ボンボン育ちの安倍首相のデタラメ政治によって、こうした悲劇が現実に起こっているのだが、もちろん、安倍首相はこうした弱者のことは歯牙にもかけちゃいないだろう。
その毎日新聞で4日、さらに衝撃的なニュースが載っていた。同社が自宅で家族を介護している人の調査をしたところ、約7割が「精神的・肉体的限界を感じたことがある」と答え、約2割が「殺人、心中を考えたことがある」と答えたというのである。
調査は1000人へのアンケートで245人から回答を得たという。
この数字には慄然とするではないか。ちょっと前に川崎の介護付き有料老人ホームで転落死が相次いだと思ったら、元職員が逮捕される事件が起こった。他にも施設での虐待が社会問題化している。しかし、在宅でも一歩間違えれば、こうした事件・事故が起こりうるということだ。身内でさえも“殺そうか”と魔が差すことがある。疲れ切った家族は職場を辞めざるを得なくなり、経済的にも困窮する。娘の学費も払えなくなり、子どもは退学を余儀なくされる。
これが紛れもない日本の現実なのである。
■全てを美談に仕立てる悪辣とデタラメ
だとしたら、政治がイの一番に取り組まなければいけないのが、こうした人間の尊厳と命にかかわる問題ではないか? 介護や待機児童の問題がかくも深刻化しているのはなぜなのか。政治がちっとも振り向かないからではないのか。
集団的自衛権の行使や株価つり上げ工作には懸命でも、介護の現場には目を向けない。そんな冷血政権による冷酷政治の結末が毎日新聞への投書であり、アンケート調査結果なのである。
ところが、この政権は現実を無視し、口先では「介護離職ゼロ」に最優先で取り組んでいるかのようにホザく。ここが許しがたいところだ。
安倍首相は予算成立の記者会見で「介護しながら仕事を続けることができる。来年度予算は介護離職ゼロの実現に向けて大きな一歩を踏み出す予算であります」と言った。
「先日、介護福祉士を目指す学生と会った」話を持ち出し、その学生が「4月から介護の現場で働くことに大きな期待を感じています」「介護の仕事は素晴らしく、本当にやりがいのある仕事だということを国民の皆さんに正しく理解してもらいたい」と語ったことを紹介した。すべてを美談仕立てにして、悲惨な現実を糊塗してしまう。いい加減な正体、見たりである。
介護の現場に、なり手がいないのはなぜなのか。仕事の素晴らしさが国民に理解されていないからではない。給料があまりにも安いからだということは国民、全員が知っている。
福祉施設介護職員の平均賃金は21万8900円。産業全体の32万4000円に比べて10万円も安い。だから、特養施設の半分以上が「職員不足」で介護分野の求人倍率は2.5倍を超えている。
これが現実なのに、安倍首相にかかると、「アベノミクスの成果で有効求人倍率が上がった」という自慢話になってしまう。
だから、介護職員の給料を上げようとしない。それどころか、安倍首相は2015年4月、介護報酬を9年ぶりに引き下げた。2.27%の下げで、過去最大級である。
これではますます、介護の現場から人が離れる。もたない業者が続出し、家族が負担を押し付けられる。この政権がやっていることは「介護離職ゼロ」とは真逆の冷たい仕打ちなのである。
国民騙しの口先ペテン政治にダマされてはいけない
「介護離職ゼロ」なんて夢のまた夢…(C)日刊ゲンダイ
経済ジャーナリストの荻原博子さんはこう言った。
「安倍政権の介護政策を見ていると、国民騙しの口先三寸政権としか言いようがありません。言っていることとやっていることがまったく違うのですから。21万円の給料では介護で働く人は家族を養えませんよ。そのうえ、安倍政権は寝たきりではない要介護1、2の人を介護サービスの対象から外し、『自宅で面倒を見ろ』とやっている。これでどうして女性が輝く社会になるのですか。結局、この政権は待機児童や介護に関心がないのです。自分が関係ないからでしょう。だったら、そういうことを言うな。弱者に寄り添うふりをするところが許せません」
国の要支援切り、要介護切りは凄まじく、認定を受けようと申請に行っても最近は「まずはボランティアに頼め」「リハビリセンターに行け」などと言われてしまう。一度はねられると、半年、1年は門前払いだ。家族は耐えるしかなく、ノイローゼになっていく。民進党の山井和則衆院議員はこう続けた。
「それだけじゃありませんよ。今、厚生労働省の社会保障審議会介護保険部会では要介護1、2の人への訪問介護のうち調理、洗濯、買い物などの生活援助サービスを対象から外すことが検討されています。参院選の終わった後の来年の通常国会に介護保険法改正案を提出し、18年度からの実施を目指している。つまり、こういう生活支援は『家族がやれ』ということです。毎日新聞の調査によれば、今でも7割の人が肉体的、精神的に限界なんですよ。限界のところに持ってきて、家事支援のサービスを外されたら、どうなるのか。まさしく地獄です。こういうことを平気でやっている政権が“介護離職ゼロ”などと言う。国民を騙すのもいい加減にしてほしい」
これが安倍偽善政権の本性、正体ということだ。
■スズメの涙の賃上げで「コト足れり」の異常感覚
いま介護職員の数は150万人程度だ。2025年には237万〜249万人が必要とみられている。待遇改善が急務だが、安倍政権は介護報酬を下げただけでなく、野党5党が今国会に提出していた賃上げ法案をロクな審議もせずに潰している。介護報酬を下げたが、中重度の要介護者を受け入れている場合など「処遇改善加算」を付加した結果、平均月給は1万3170円上がったからという理屈である。
この言いぐさにも呆れてしまう。介護の現場の給料は平均より10万円も低いのに、1万円アップで「事足れり」とする。この1万3170円だって怪しくて、安倍シンパの読売新聞でさえ〈経営難などを理由に賃上げを実行しない事業所もあり、「賃金はそれほど上がっていない」という職員は多い〉と書いたほどだ。
「経営難は老人福祉、介護事業業者を直撃していて、昨年は対前年比4割増の76件が倒産しました。介護報酬引き下げの影響です。処遇改善加算がついても小規模業者は充実したサービスをやろうにもできない。そのため報酬の引き下げがストレートに倒産の引き金となったのです」(東京商工リサーチ情報本部の原田三寛氏)
■本気で介護に取り組む気はさらさらなし
介護離職ゼロなんて、夢のまた夢というか、この政権がやっていることはまさしく介護離職倍増政策なのである。
全国介護者支援協議会理事長の上原喜光氏にも聞いてみた。
「安倍政権は介護の現場が何もわかっていないのです。特養を作っても職員がいない。今、稼働率は8割くらいです。お年寄り3、4人に職員1人。これだって、ケース・バイ・ケースにすればいいのにやらない。なぜ、職員の給料が上がらないのか。事業所が赤字だからですよ。ヘルパー派遣の中間業者が抜いたりするからです。でも、安倍政権はわからない。有識者会議に現場の人間が入っていないからです。学者の意見しか聞かないからトンチンカンなことになる。本気で介護の問題に取り組む気があるのか、と言いたくなります」
こんなデタラメ政権に任せていたら、介護を受ける人も介護する人も生き地獄だ。少なくとも人の心を持った政権に交代させなければならないのだ。
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