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クルーグマン教授は官邸での会談を終えると、翌朝に日本を発った〔PHOTO〕gettyimages
クルーグマンが明かす「安倍首相が極秘会談で語ったこと」〜消費税10%にするのか、しないのか
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48303
2016年04月04日(月) 週刊現代 :現代ビジネス
2014年11月に消費増税の延期という英断が下されたのは、その直前に行われた「安倍-クルーグマン会談」が決め手となった。当時と状況は似てきた。日本の中枢の「腹の内」はもう決まっている。
■首相官邸の4階で
私はこの3月22日、東京・永田町の首相官邸に出向き、ひとつの重要な会談に出席しました。
出席者は、安倍晋三総理をはじめ、麻生太郎財務大臣、黒田東彦日本銀行総裁、石原伸晃経済再生担当相、菅義偉官房長官など、いずれも日本の経済政策の責任者たちです。
会談場所は首相官邸4階の大会議室です。
「本日はアベノミクスの政策について、忌憚のない御意見をいただきたい」
まず始めに安倍総理が挨拶をしました。
続いて私が自分の意見を10分ほどプレゼンテーションして、それをもとにみなでディスカッションをしたのです。
この日、私は彼らとともに、世界や日本の経済の見通し、最近の金融市場の動向、世界各国の経済政策の分析などについて、大いに議論をしました。その中身については後ほどお話ししますが、議論は25分ほどに及ぶ濃密なものとなりました。
日本政府から会談への参加を依頼された当初、会談終了までは参加依頼を受けたことを公にしないように言われていました。いつどこでどういうテーマで議論をするのかさえ、明らかにしないようにという厳重なものです。
日本政府が「極秘(strictly confidential)」としたのは、それほどまでに本音での議論を交わしたかったからでしょう。
さて、私はこの日、安倍総理にいくつかの重要なメッセージを伝えました。
そのひとつは、日本政府が来年4月に予定している消費税の増税、8%から10%へ上げるという消費増税をやめるべきだ、ということです。
いまから遡ること約1年半前、'14年11月6日に私と安倍総理は首相官邸で会談をしています。当時の安倍総理は、'15年10月に消費税増税をするかどうかの判断を迫られていた最中で、私は意見を求められる形で首相官邸に招かれたのです。
当時の私は、
「日本はデフレからの脱却を最優先すべきだ」
「消費増税はデフレから脱却するまではやるべきではない」
と進言しました。私の意見をうなずいて聞いていた安倍総理は、会談から約2週間後の11月18日、「増税延期」を宣言しました。その一報を聞いて、私はホッとしたのをいまでも思い出します。
■会場の空気が張りつめた
しかし、です。日本経済の状況は、当時から好転しているとは言えません。
残念ながら、日本はいまだ十分なインフレを達成できていませんし、諸外国を見渡せば、米欧中が苦しみもがく「問題を抱えた世界(troubled world)」で、その悪影響が日本を直撃する厳しい局面となっています。
状況がより悪化していると言える現在、仮に安倍総理が消費増税を断行すれば、日本経済はめちゃくちゃなものになってしまうでしょう。決して、そんな取り返しのつかないことをしてはいけない。今回の会談で最初に、私は安倍総理にそう強く訴えたのです。
会場の空気は張りつめたものでした。
ポール・クルーグマン。米ニューヨーク市立大学教授。'08年にノーベル経済学賞を受賞した経済学の泰斗である。
3月22日、クルーグマン教授は首相官邸で開かれた『国際金融経済分析会合』に出席、安倍総理らと直接意見を交わした。その会談の前後3時間以上にわたり、クルーグマン教授は本誌の世界独占インタビューに応じた。日本の中枢ではなにが語られたのか。全内幕を明かした。
現在の日本経済は、非常に期待外れなものとなっています。
私は'14年に安倍総理と会談した際、「日本経済はデフレから十分に脱却できるだけの速度に達しなければいけない」と伝えたのですが、それはいまだ達成されていません。
本来であればデフレから脱却するには、経済に爆発的なショックを与える必要があります。日本経済のインフレ率を猛烈に加速させるだけの、火を噴くような政策が求められているわけですが、日本政府はこの間に十分な手を打ってきませんでした。
確かに、日銀の黒田総裁は大胆な金融緩和策を打ち続けてきました。ここ2~3年ではほぼ間違いなく世界でベストな中央銀行として振る舞ってきましたが、それでも私からすれば不十分だったというのが率直な感想です。
黒田総裁は2%のインフレ率を目指すのであれば、「3~4%を目標にする」と国民に宣言しなければいけませんでした。それほど大胆に訴えかけなければ、人々のデフレ心理は解消されないものだからです。
黒田総裁はこの2月からマイナス金利政策に踏み込みましたが、これもあまり感心できません。マイナス金利政策の是非を判断するには時期尚早でしょうが、効果は非常に小さなものにとどまると思います。
というのも、マイナス金利政策のメリットは円安効果が望めるということですが、現在は世界各国が自国通貨安を目指して金融緩和をしている状況です。
日本が円安を求め、欧州はユーロ安を求め、アメリカはこれ以上のドル高になって欲しくないと願っている中で、日本がマイナス金利政策を採用したところで円安効果は出づらい。実際、2月からの為替市場ではむしろ円高傾向が強まっているではないですか。
■次々と質問を浴びせる安倍
そもそも、金融政策だけでインフレをもたらすことはできません。
私は今回の会談で、安倍総理にこう強く訴えかけました。
「金融政策だけではなく、いま日本政府が決断すべきは強力な財政政策だ。日本はいまだアベノミクスの第2の矢を放っていない」
「金融政策と財政政策を合わせて出動し、さらに予定している消費増税もやめるべきだ。そこまでしなければ、日本はインフレを実現できない」
これは今回の会談で、安倍総理に必ず伝えなければいけないと決めていたものです。
'12年から始まったアベノミクスは当初こそインパクトがありましたが、すでにその効果は薄れました。アベノミクスは人々の期待に応えられていない。いま安倍総理に求められるのは、よりラディカルなアクションであり、それは増税中止と財政出動をセットにした大胆な政策であるべきだと進言したのです。
より具体的に言えば、GDPの2%ほどの額の財政出動が必要です(編集部註。日本のGDPは約500兆円なので、その2%は10兆円)。
労働人口の減少という問題を抱えている日本では、投資需要を生み出すのは難しい。その意味でも、財政支出をインフラストラクチャーのニーズがある分野に投じるべきです。
安倍総理は、真剣な表情で耳を傾けていました。私の提案に非常に関心を持っているようでした。
「確かに、マイナス金利政策をいかして財政出動すべきだとの意見があるがこれは正しいのか」
安倍総理はそうたずねてきました。
私は答えました。
「その通り。マイナス金利政策は万能薬ではない。金融政策は、財政政策の助けがないと目標や期待に達しない」
質問は続きました。
「日本は大きな債務を抱えている。財政赤字はどうしたらいいのか」
私は言いました。
「日本は短期的には財政危機になりようがない。ここ数年の財政赤字のことを心配するよりも、デフレから脱却するという目的のほうがはるかに重要だ」
実はこの会合の直前、あまり知られていないようですが、私は首相官邸で安倍総理と個別に会談をしていました。
安倍総理はその場ではより率直に、私にこう聞いてきたのです。
「5月に予定されているG7伊勢志摩サミットでは、メンバーに向けてなにを言うべきだろうか」
■中国への「懸念」を共有した
私は、「他国との協調が必要だ」と前置きして、言いました。
「'09年のG20で、世界的な経済危機に対応するため、各国が財政出動について共同声明を出したようなものが理想的にはいい。もちろん当時のようにはいかないだろうが、G7各国による財政出動について、『少しでも好ましい言葉』が欲しい」
世界はいま非常に弱い状況に陥っています。サミットの場は、先進各国が協調的に財政出動することを確認しあう絶好の場になりえます。
個別会談の場での安倍総理は、中国経済についても懸念を示していました。
実際、中国経済がひどく失速していることは明らかです。中国政府は6・9%などというGDP成長率を発表していますが、その統計を信じる者はいません。実際の成長率はおそらくマイナスにはなっていないでしょうが、かなり低いことは確かです。
私は安倍総理に言いました。
「中国では昨年、1兆ドルの資本逃避が起きています。これは歴史上最大の逃避です。その一部が日本に来て、円高の要因となっている」
中国はこれからも「茨の道」を進み続けます。隣国の日本は、最もその影響を受けるわけです。
その意味でも、マイナス金利政策だけでは日本経済はインフレには達することができない。中国からのバッドニュースをかき消すほどの強い経済政策が必要なのです。消費増税をしないというのは、その絶対条件とさえ言えるでしょう。
結局、安倍総理は消費税を10%にするのか、しないのか?
安倍総理は終始、私の意見に非常に関心を持っているようでした。
一方で政治家ですから、明確なコミットメント(約束)を示すことはありませんでした。
そういう点では、安倍総理は立派な政治家です。立派な政治家というのは、わかりやすく自分の意志を表すべきではありません。非常に礼儀正しかった。
私から言えるのは、次のようなことです。
安倍総理は、「増税はしない」という明確なコミットメントは示しませんでしたが、同時に、「必ず増税はする」というコミットメントも示しませんでした。
間違いなく安倍総理は、初めから終わりまで、私の言葉に真剣に耳を傾けていました。
私にはその表情が、まるでなにかを決意するように、「あなたの言っていることはわかりますよ」と伝える顔つきに見えたものでした。
【インタビュー・大野和基(国際ジャーナリスト)】
「週刊現代」2016月4月9日号より
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