2016年3月28日 松井雅博 [政治ジャーナリスト] 一大新勢力「民進党」への期待が一向に高まらない3つの理由(上) 民進党発足も高まらぬ期待 日本に二大政党は根付かないのか? 満を持して発足した民進党だが、期待がちっとも盛り上がらないのはなぜか。根本的な理由を考察する Photo:読売新聞/アフロ 今月を振り返ると、アメリカでは大統領選挙予備選のニュースが連日話題になっていた。
現在、連邦議会を制している共和党からは型破りなドナルド・トランプ氏が有力視されている。一方、オバマ現大統領の後継者となるべく、初の女性大統領を目指すヒラリー・クリントン氏が、民主党内で有利な戦いを展開している。 そんな盛り上がるアメリカを横目に、ついに日本でも政局が動いた。3月27日、「民進党」の結党大会が開催され、民主党と維新の党の合流が実現したのである。民主党は130名(衆71名、参59名)、維新の党は21名(衆議院のみ。参議院5名は当面合流せず)、合計151名の規模の政党が誕生する。 これでアメリカ同様、日本にもついに本格的な二大政党が根付くのか……と思いきや、マスコミ各社が行うアンケート調査の結果などを見ると、あまり有権者からの期待を集めているとは言えない状況だ。 1990年代初頭にバブル経済が崩壊して以来、20年以上もの時が経過するが、日本の政治は常に「二大政党」を目指しては失敗を繰り返している。「失われた3年」と呼ばれている、かつての民主党政権の失敗が象徴的なケースだろう。四半世紀も時間をかけてできないならば、二大政党体制はいっそもう無理だと諦めた方がよいのかもしれないという気もする。 アメリカをはじめとする他の先進国には、二大政党と言わずとも政党が安定している国が多いのに、なぜ日本の政党、ことさら野党は離合集散を繰り返し、こんなにも不安定なのか。 そして、新しく誕生した民進党への期待があまり高まらないのはなぜか。その背景には、民進党の政策担当能力への不安があるのかもしれないが、だとすれば、そもそも政策担当能力とは何だろうか。 予め断っておくが、筆者は学者ではない。マッキンゼーでコンサルタントとして働いた後、国会議員政策担当秘書として政治の世界へ飛び込んだ。与野党の国会議員事務所で2年半働いた後、兵庫県第10区(加古川市、高砂市、稲美町、播磨町)より衆議院議員選挙へ出馬し、5万1316票を獲得するも落選。一民間人の感覚で政治の現場や裏側を見た経験を活かし、政治をできる限りわかりやすく面白く読者にお伝えしている。 政治を語る際、政治学者が語るような抽象論や一般的な理論など、ほとんど意味がないというのが筆者の持論だ。あくまでも実務者として、民進党誕生とそれを取り巻く政界模様について、個別具体的な政治の現象を解説したい。 合流というより「出戻り」? 政党の看板を隠れ蓑にする人々 歴史を振り返れば、通常、新党が誕生するときにはそれなりに期待感が高まるものである。古くは1993年、小沢一郎衆議院議員が仕掛けた新生党は短期間で大きな支持を集め、短い期間であったが、日本新党の細川護煕氏を首班とする7党1会派の連立政権を誕生させた。 最近では、渡辺喜美・元衆議院議員が立ち上げたみんなの党は、二大政党時代を見据えて「第三極」という概念を打ち出し、それなりの支持を集めた。アジェンダ(政策)を中心に少数のメンバーを選び、議席が少なくともどちらも過半数をとれない二大政党の間でキャスティングボート(事実上の決定権)を握り、特定の政策を通そうとするのが「第三極」の考え方である。今や、自民党一強の時代を迎え、第三極という考えも廃れてしまったが。 さらについ最近、特に大きなブームになったのは、橋下徹・元大阪府知事、元大阪市長が立ち上げた大阪維新の会を母体とする日本維新の会である。橋下氏も一時は将来の総理候補とマスコミにもてはやされた時代もあったほど、期待は高まった。 だが、今回の新党誕生は、それらのブームに比べれば盛り上がりに欠けていると言わざるを得ない。 その第一の理由は、旧「維新の党」のメンバーの多くが元民主党議員であることだ。 まず、幹部が軒並み元民主党議員だ。旧「維新の党」の代表を務めていた松野頼久衆議院議員は元民主党。今井雅人元幹事長も民主党出身だ。彼らは、民主党政権末期に「民主党に限界を感じた」「民主党は財務省のいいなりになって消費増税をした」などと批判して橋下氏のもとへ走り、維新の看板で議席を守ったのである。 旧結いの党(江田憲司グループ)の議員も、やはり元民主党が多い。たとえば、維新の党の分裂騒動の引き金を引いた柿沢未途衆議院議員もまた、東京都議会議員時代は民主党だった。そして、飲酒運転で事故を起こしてしまい、議員辞職の上、民主党を離党した過去がある。 このように、個々の議員の先生方の顔ぶれを眺めれば、「新党誕生」のニュースがなんだか白々しく感じてしまうのも仕方ないだろう。新党の名前を公募してみたら、「民主党」が一番多かった理由もうなずける話なのだ。 一方の民主党の議員たちも、あまり変わり映えしない顔ぶれだ。筆者が初めて国政選挙に関わったのは2005年の郵政選挙のときであり、当時学生だった筆者は、兵庫県の衆議院議員事務所で1ヵ月半、ボランティアスタッフとしてお手伝いをさせていただいた。そのときの民主党の代表も、岡田克也代表だった。11年前と代表が同じとは、いったいどれだけ新陳代謝が悪い政党なのだろう、と呆れる他ない。 自民党がSPEEDの今井絵理子氏や『五体不満足』の著者である乙武洋匡氏を擁立するのに対し、野党はなんと人材難なのだろうか。「人気取り」との批判も聞こえるが、人気も能力も初々しさもない人よりは、はるかにいいに決まっている。 当たり前の話だが、大衆が新党へ期待するのは「新人だから」であって、看板だけ変えられても期待感が高まらないのは当然だろう。しかし、多くの有権者は維新の党の議員の多くが民主党出身者であったことなど、知らないかもしれないが。 弱者が集まっても弱者の集団 橋下徹が政界再編を拒絶した理由 第二の理由、これがもっと本質的な理由かもしれないが、そもそも橋下徹氏がいなくなった旧「維新の党」への支持などゼロに等しかったということが挙げられる。マスコミ各社が行う政党支持率調査でもほとんど支持率が検出されないような政党が合流したところで、党勢が強まるはずがない。 企業同士のM&Aでも同じことだが、異なる強みを持った者同士が合流するから相乗効果が生まれるのである。負債を抱えたつぶれかけの会社同士が合併したところで、期待できるのはせいぜい間接部門のリストラによるコストカットくらいで、他に得られるものは少ない。 旧「維新の党」の議員は、そのほとんどが比例復活で当選している。すなわち、「維新」の看板もしくは「橋下徹」の人気にあやかって当選した人たちなのだ。そんな議員たちと一緒になるくらいなら、民主党はむしろ自前の看板を捨てることで、これまで民主党を根強く支持していた有権者の支持が離れてしまわないだろうか。 では、なぜ橋下徹・元大阪府知事、元大阪市長は野党再編を拒絶したのか。これは、直近の大型選挙である参議院議員選挙の選挙制度を見れば理解しやすい。 参議院議員は242人いるが、半数の121人ずつ3年ごとに改選される仕組みとなっている。そしてその121人は、選挙区(73人)と比例区(48人)に分かれる。選挙区は基本は47都道府県単位になっており、そのうち32の選挙区が1人区である(島根・鳥取、徳島・高知は2県から1人の議員を選ぶ)。正直、1人区に関しては、ほぼすべての選挙区で自民党が勝利すると見込まれる。 では、複数の議員を選出する都市部の選挙区はどうなっているのだろうか。代表的な都市部選挙区である、東京都選挙区(当選者数:5人)と大阪府選挙区(当選者数:4人)の前回の参院選の当選者の顔ぶれ(東京都選挙区は次点まで)を見てみよう。 2013年7月参院選 【東京都選挙区:5人区→今年から6人区へ変更】 丸川珠代(自)1,064,660票 山口那津男(公)797,811票 吉良佳子(共)703,901票 山本太郎(無)666,684票 武見敬三(自)612,388票 (落)鈴木 寛(民)552,694票 【大阪府選挙区:4人区】 東 徹(維)1,056,815票 柳本卓治(自)817,943票 杉 久武(公)697,219票 辰巳孝太郎(共)468,904票 参院選を睨んで民主党と合流しても…… メリットは何もないという現実 こうして見るとわかるように、中選挙区においては与党と野党が仲良く議席を分けあうことになる。つまり、参議院においては都市部の民意よりも「地方の一人区」こそが勝敗を分けるのである。 >>後編『一大新勢力「民進党」への期待が一向に高まらない3つの理由 (下)』に続きます。 http://diamond.jp/articles/-/88546 一大新勢力「民進党」への期待が一向に高まらない3つの理由(下) >>。ハ上)より続く
そして、東京・大阪で民主党は議席を獲得できてない。東京では共産党と無所属が野党枠をとり、大阪では共産党と「維新」が野党の議席を獲得している。つまり、参院選において民主党が勝てる見込みは全くない。一方の比例においても、民主党は労働組合の元幹部ばかりであるから、民主党はただの「労組党」になってしまう。2013年の参院選で民主党の比例で当選した議員はたった7人だが、そのうち6人が労働組合の組織議員という状況である。 【民主党】 1. 271,553票磯崎哲史(自動車総連) 2. 235,917票浜野喜史(全国電力関連産業労働組合) 3. 235,636票相原久美子(自治労) 4. 191,167票大島九州男(経営者、市議会議員) 5. 176,248票神本恵美子(日本教職員組合) 6. 167,437票吉川沙織(情報労連・NTT労働組合) 7. 152,212票石上俊雄(電機労働組合) つまり、橋下徹氏の立場に立てば、民主党と合流することにメリットなどないことになる。いっそ「第三極」の座を狙うか、小さくまとまって関西から与党にプレッシャーを与える存在になる方が、政治権力を維持することができる。 橋下徹なき旧「維新の党」と労働組合出身者以外選挙に勝てない民主党が合流したところで、弱者の寄り合い政党でしかない。衆参で717議席中151議席の勢力になったと誇示したところで、結局次の選挙で大敗が確実視されている限り、期待は集まらない。 自民党がバラバラでも批判を受けないのは「強い与党だから」であり、野党がバラバラだと批判されるのは、実は政策や思想が問題なのではなく、「弱者の集合体」でしかないところにクリティカルな原因があると言えよう。 「サヨク」のレッテル貼りをされた 民主党が目指すべき世界とは? そして、最後に挙げるべき第三の理由が、やはり民進党の掲げる政策の問題である。端的に言えば、旧民主党の人気がなかなか上がらなかった原因の1つに、「民主党=サヨク政党」というレッテル貼りがされたことがある。 筆者は、政治を右翼−左翼、保守−革新といった安易な二元論で語る論調が嫌いである。現実の政治はそんな風に簡単に整理できるものではない。ここで筆者が言う「サヨク」とは、人々の不満につけこみ社会不安を煽り、現実離れした理想を掲げ、ひたすら「税金をよこせ」とあたかもお金が天から降ってくるかのごとく政府に乱暴な要求を行う姿勢、とでも定義しようか。民主党はもはや「サヨク」のレッテルを貼られてしまった。たとえ党名を民進党に変えたところで、この評価は変わらないだろう。 たとえば、最近の例で言えば、山尾志桜里衆議院議員が、ネット上で話題になった「保育園落ちた日本死ね!!!」と題した匿名のブログを国会で紹介して話題になったが、これが典型的な民主党のパフォーマンススタイルだったと思う。 子どもが保育園に入れないだけで 「日本死ね」は言い過ぎでは? 筆者としては、匿名ブロガー自身には全く非はないと思っている。言葉は荒いが本当に苦しかったのだろうと同情するし、そもそも匿名の単なる愚痴に過ぎないし、極端に表現せねば読んでもらえないという気持ちは、筆者もネット記事を書いている身なのでよくわかる。むしろこれだけのブームを起こしたのは、あっぱれとも言える。 ただし、冷静に考えれば、自分の子どもを保育園に入れられなかったからと言って、憲法上の権利が侵害されているわけでもなく、「日本死ね」は言い過ぎである。かれこれ十数年にわたって待機児童解消は大きな政治課題の1つとすでに認識され続けており、自治体も必死で保育所を増設している。そして、ここ数年、待機児童数は減少傾向にあり、ここ十年ほど出生率は上昇傾向にあったのも事実なのだ。こうした事実に目を向けることなく、安易に不満を煽ることで必要以上に社会不安を高めてしまえば、ますます悪循環に陥るだけだ。 また、「年金がもらえない」と騒げば、本当に年金保険料を支払わない人が増えてしまう。現実は、確かに高齢者の増加によって国民の負担は増えるものの、みんながきちんと払っていれば、額が減ったとしても破綻するリスクは低い。 「世代間格差」という批判もよく耳にするが、年金を削減することが若者への配分を増やすこととは必ずしも言えない。若者だっていつか年をとるわけで、自分たちが将来もらえる年金を減らすことに他ならないのだから、世代間格差はより広がることになる。それに、明治、大正、戦前、戦後と人々は皆それぞれの時代において、様々な課題に直面しながら生きてきたのであって、今の若い世代が前世代と比べて著しく不遇な時代にあるとは筆者は思わない。 さらに、「日本人は1人800万円の借金がある」と叫べば、人々はお金を使わなくなってしまう。実際は、生まれたての赤ちゃんに800万円を請求する人は誰もいない。単に政府債務を人口で割っただけの数字に何の意味もない。 社会不安を煽って支持を得る 頼りない野党が陥りがちなワナ 日本の政治の舵取りが難しいのは、日本が成熟社会を迎え、人口減少・高齢化が明らかとなり、色々な意味で「下り坂」の時代となり、多くの人々が閉塞感や不満を持っているからである。こうした社会情勢を背景に、野党は社会不安を煽り、自党の支持につなげようとしがちになる。共産党のような万年野党ならそれも結構だが、本気で政権を奪取しようとする政党にしては、実に頼りない。 政治には常に利害が絡む。保育園に入れなかった人からすれば、死活問題だろう。筆者も大学時代、保育士を目指した時期があったし、保育所でアルバイトをした経験もあるから、母親の気持ちには同情もする。だが、感情論に引きずられず、ファクトをもとにしっかりと政策方針を打ち出し、政治や行政の仕組みを理解した上で実現していく。この力こそが政権担当能力である。残念ながら、今の民進党にこの能力があるとは思えない。とはいえ、「実際本当に起こっているか、確認しようがない」という答弁もデータを見れば明らかなのでいまいちな発言であることは否めないが。 前述の匿名ブログをきっかけに、新党は保育士の賃上げ法案を提出する意向のようだ。だが、国が全国の保育士に1万円ずつ配るなど、愚策以外の何物でもない。保育所の問題は、はした金をばらまけば解決する問題ではない。たとえば、規制緩和で民間企業参入を促進させ、保育士人材を幅広く獲得するとともに、財源を地方へ移譲し、地方ごとの事情によって保育所増設を可能にしてやることが必要である。さらに言えば、これは家庭や地域のあり方、特に都市部に住む人々の生き様を見直すべき、実に根深い問題だと思う。 そもそも、動物としての本能である子どもを作り育てるというシンプルな営みが困難になっていること自体、おかしな話なのだ。総理大臣や政治・行政に助けを求めるのも一つの手だが、現代人が自らの生活・価値観を見直す契機にもならねばならないし、政治家も有権者に媚びるだけでなく、そうした厳しい意見も伝える存在でないといけないと思う。 ぜひ民進党には、万年野党ではなく、新時代の未来を描く政策立案能力を、自民党と切磋琢磨できる存在になってもらいたい。 根っこにあるのは政党不信 政界の「再編」よりも「一新」が必要? ここまで色々と書いてきたが、筆者個人としては、日本の政治が二大政党に近づくのは良いことだと思う。与党に対してプレッシャーをかけられる存在があるのは、議会制民主主義においては大切なことだ。 また、「選挙のための野合だ」という批判もあるが、「選挙のため」で何が悪いのかと思う。国民にウケのよい政策を打ち出すのも選挙のためだ。選挙こそが民主主義の根本なのだから、政党の枠組みが選挙のために変わって何が悪いのか、と筆者は思う。 ところが、どうしても自民党の対抗軸が育たない。有権者の信頼を得られる野党がなかなか生まれない。この問題の根底にあるのは「政党不信」だ。 この政党不信を抜本的に解決するには、一度、現存の政党をすべてガラガラポンして、新しい政治家を国会に送るべきだと思う。野党が合従連衡を繰り返していても、あまり意味がない。日本の政界再編は、自民党を割ってこそ初めて意味がある。言い換えれば、政界再編とは決して「野党再編」ではないということだ。 小沢一郎も渡辺喜美も橋下徹も、もともとは自民党を割ったところにその凄味があった。野党ばかりが分裂や合併を繰り返しても、同じような顔ぶれの人間が同じようなことを繰り返しているようでは、政治不信は回復しない。 単に「新しい党をつくりました」ではなく、参院選で勝つための具体的な戦略が欲しい。これがないと、結局「弱い者同士の野合」と揶揄されて終わりだ。また、政策も単なる政府批判やキャッチコピーではなく、現実を見据えたものでなければならない。そして、民進党が本当に支持を受けるためには、もっと新しい顔ぶれを仲間に巻き込まねばならない。候補者の選定・育成・評価をしっかりとやるべきだ。 いずれにせよ民進党が誕生し、日本の政界は再び新たな政界再編のステージに突入した。しかしながら、人々が求めているのは政界「再編」ではなく、政界「一新」なのかもしれない。 http://diamond.jp/articles/-/88595
[32初期非表示理由]:担当:要点がまとまっていない長文
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