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政治介入を許さないためにメディアはまず自らを律せよ
http://www.videonews.com/commentary/160326-01/
2016年3月26日 ニュース・コメンタリー ビデオニュース・ドットコム
政治介入を許さないためにメディアはまず自らを律せよ
高市早苗総務相が放送局の電波停止の可能性に言及したことに抗議するため、田原総一朗さんらテレビの著名なキャスターやコメンテーター5人が3月24日、日本外国特派員協会で記者会見した。
ところが、「権力の言論への介入は許さない」、「政治家の発言は現場の萎縮を招く」と安倍政権批判を展開するキャスターたちに対して、会場の外国特派員等からは、なぜ政治家がその程度の発言ををしただけで日本のメディアは萎縮してしまうのかについて疑問があがったほか、「日本のメディアと政治との近すぎる関係」や「記者クラブ制度」に対する批判までが飛び出すなど、会見自体はやや予想外の展開となった。
会見を行ったのは田原氏のほか、TBS「NEWS23」のアンカーを務める岸井成格、テレビ朝日「ザ・スクープ」のキャスター鳥越俊太郎、テレビ朝日などでコメンテータ−を務める大谷昭宏、同じくテレビ朝日コメンテーター青木理の5氏。
岸井氏は、「高市総務大臣の発言は黙って聞き逃すことのできない暴言。謝罪して撤回するのか、このまま開き直るのか、非常に重大な局面だ」と危機感を露わにした上で、「最も大事なことは、ジャーナリズムとして政権がおかしな方向に行ったときはそれをチェックし、ブレーキをかけるのが最終的な使命。それが果たせなかったとすればジャーナリズムは死んだもと同じ。その役割を果たしたことがひょっとして偏向報道だと言うのであれば、これと真っ向から対決せざるを得ない」と語った。
田原氏は政治家が圧力発言があると「局の上層部が萎縮してしまう」と指摘し、鳥越氏も「番組企画はすべて事前に編成や経営幹部にチェックされるようになってしまった」と、高市発言のメディアに対する影響の大きさを指摘した。
しかし、質疑応答が始まると、会場から厳しい質問が相次いだ。
前ニューヨーク・タイムズ東京支局長のマーティン・ファクラー氏は「圧力というが、日本では中国のように政権を批判すると逮捕されるわけではない。なぜ、日本のメディアはこんなに萎縮するのか。どのような圧力がかかるのか、そのメカニズムを教えて欲しい」と質問した。
これに対し岸井氏は「政権側の今のやり方は非常に巧妙。正々堂々と言ってこない」「日本のメディアが一斉に反発できなかったのは、まさかあんな暴言が出るとは想像もしなかったから」などと回答するが、具体的な圧力の中身やその程度で萎縮しなければならない理由については明確な回答がなかった。
そこで、次にビデオニュース・ドットコムの神保哲生が、「なぜあの程度のことでそこまで萎縮しなければならないかについては、まだ明確に答えてもらえていない。NHKは人事や予算が国会に握られているから(政治家に対して弱腰なのは)まだわかるが、民放や新聞社はそんな発言は本来、放っておけばいいだけではないか。これまで日本のメディアは政府と持ちつ持たれつの関係に身を置くことで、さまざまな特権を享受してきた。だから政治に何か言われると無視できないのではないか」と質した。また、その後、香港フェニックステレビの李E(リーミャオ)東京支局長も、「そもそもみなさんは記者クラブ制度をどう考えているのか。また、日本の場合は電波を少数のメディアが握っているため規制を受けている。この放送法の枠組みをどう思うのか」と続いた。
これに対して岸井氏は「自分は記者クラブ制度に助けられて取材をしてきたので言いにくいが」と前置きをしつつも、「ここにきて非常に弊害が目立つようになってきたことは間違いない。結論は廃止したほうがいい」と答えた。鳥越氏も「閉鎖的な記者クラブは廃止すべきだ」と続いた。
ビデオニュース・ドットコムでは15年前の開局時から一貫して日本のメディアと政治の関わりを問題視してきた。記者クラブ、再販、クロスオーナシップ、そしてここに来ての軽減税率と、メディアが様々な特権と引き換えに、政治に取り込まれているのではないかという問題意識がその前提にあった。
ここにきて安倍政権がメディアに対する介入の姿勢を明確に見せるようになったことについても、ここまでは安倍政権が強権を発動しているわけではないことから、むしろメディア側が圧力に対して脆弱な立場に身を置いているところに問題の本質があるとの立場を取ってきた。
その考えは基本的に今も変わらない。いやしくもジャーナリズムを名乗る以上、政治との間に明確な一線を引き、緊張感のある関係を維持しなければ、権力監視の役割など務まるわけがない。政権幹部との頻繁な会食などはもってのほか。記者クラブや懇談などを通じ政治家と「肝胆相照らす」関係になることは、ジャーナリズムにとっての自殺行為だ。
どこの国でも権力は政治や言論をコントロールしたいし、あの手この手を使い、それを試みる。それ自体は珍しいことではない。だからこそ、メディア側はそれに太刀打ちできるよう、日頃から独立した立場を守っておかなければならないのだ。
しかし、安倍政権がこれまでの歴代政権と比べて、メディアコントロールに並々ならぬ意欲を燃やしていることもまた事実だ。「紙や発言だけ」とは言え、現在の政治とメディアの関係の下でそれがメディアに対してどれだけ萎縮効果をもたらすものかを十分熟知した上で、非常に計算した発言を繰り返している。この事実を甘くみてはならないし、こうした圧力に対して徹底的に対抗しなければならない。安倍政権の言論に対する姿勢に、根本的な問題があることは指摘するまでもない。だからこそ、今こそメディアはこれまでの政治との持ちつ持たれつの関係を悔い改め、自らの身を律して政治と対峙しなければならないのだ。
記者クラブ制度については、会見の中で青木理氏が重要な指摘をしている。
「公共機関の中にああいう形でクラブというメディアの拠点があるのは決して悪いことではないと思う。公開性、多様な参加ができるような改革は必要だが、記者クラブを廃止することでジャーナリズムの根っこが壊れてしまうのは問題だと思う。」
問題の本質を突いた重要な指摘だ。何かに問題がある時、問題箇所を直すために、他のいいものまで一緒に壊してしまい、後で後悔することは多い。問題は記者クラブという部屋が各省庁内にあり、そこに記者が常駐していることではなく、そこへのアクセスを国内の新聞社とテレビ局と通信社だけが独占していることにある。記者クラブ制度に問題があるのではなく、閉鎖的・少数独占的な記者クラブの在り方に問題があるのだ。
記者クラブにしても再販にしてもクロスオーナーシップにしても、その少数独占は政府から認められた特権であることを認識しなければならない。それは癒着以外の何物でもない。日本のメディアはその特権故に、極端に政治家や官僚に対して脆弱な立場に自らの身を置いていることを改めて自覚して欲しい。
政治からちょっかいを出された時に、それを蹴飛ばせるような立場を守るためには、日本のマスメディアはまず特権を放棄し、政治との癒着関係を解消しなければならない。そしてそれは単に記者クラブ制度を廃止することではなく、制度を維持しつつ、それを外国記者や他のメディアやフリーランスに対しても開放すればいいだけの話だ。
記者クラブは元々、戦前の日本で、メディアが連帯を汲んで政府に情報の開示を要求したことに、その起源がある。本来は政府に対抗するための組織だったものが、いつのまにか一握りの特定の事業者の利権となり、政治に取り込まれてしまった。今や本来の趣旨とは真逆の、メディアが政府に対して自らの身を弱い立場に置く原因となっている。
安倍政権は、日本の大手マスメディアが、どれだけ権力の介入に脆弱かを、身をもって証明してしまった。時の政権のメディアに対する影響力の強さがわかってしまった以上、今後の政権がそれを利用しないわけがない。安倍政権はメディアに対して、自分たちのアキレス腱がどこにあるかを教えてくれたのだ。メディア側はこの機会を活かさない手はない。
期せずして外国特派員協会のキャスター会見で浮上した、外国特派員たちが日本における政治とメディアの関係に対して日頃から抱いている違和感の中身を、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。
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