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この国は法治国家か “眠る巨悪”甘利元大臣を放置する異常
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/177654
2016年3月19日 日刊ゲンダイ 文字お越し
甘利(C)日刊ゲンダイ
「睡眠障害」とは便利な病気だ
真っ昼間の大臣室。業者からスッと差し出された「黒いカネ」をニタニタしながら、わしづかみで胸ポケットに入れる─―。テレビの時代劇に出てくる悪代官さながらの前代未聞の汚職事件が“野放し”にされている状況に法曹界がついに怒りの声を上げた。
UR(都市再生機構)をめぐる甘利明前経済再生担当相(66)の“口利きワイロ疑惑”で、全国の弁護士約350人が加盟する「社会文化法律センター」(東京)が16日、甘利と元公設第1秘書に対する「あっせん利得処罰法違反容疑」の告発状を東京地検に提出したのだ。
告発状によると、甘利と元公設秘書の2人は、2013年5月〜14年2月、URと補償問題を抱えていた建設会社の総務担当者から交渉が有利に進むよう“口利き”の依頼を受け、その見返りとして、甘利は大臣室などで計100万円、元秘書は計500万円をそれぞれ受け取った――と指摘している。
会見を開いたセンター代表の宮里邦雄弁護士は「金銭授受は明らかで、捜査機関により刑事責任が追及されるべきだ」と説明。さらに「(大臣辞任で)問題をうやむやにできない」とも言っていた。
サッパリ動く気配がみられない東京地検特捜部を見て、同じ司法の世界に身を置くプロの法律家として、これ以上、黙ってはいられなかったのだろう。告発状の提出は特捜部の尻を叩く「最後通牒」と言っていい。
■眠り続ける巨悪を放置する検察
法律のプロが黙っていられなかったのも当然である。立件、起訴に必要な「写真、録音テープ、証言」の“完オチセット”がそろっているのに、特捜部は強制捜査はおろか、甘利や元秘書の聴取すらしていないからだ。不動産登記の期ズレでいきなり3人の秘書を逮捕した小沢事件とは大違いである。
特捜部は甘利が「睡眠障害」を理由に国会を休んでいる――などとアレコレ言い訳するのだろうが、これじゃあ小沢一郎も怒るはずだ。小沢事務所のツイッターにも、こんな書き込みがみられる。
〈元TPP大臣は『更に二か月休養する』との自民党の説明。見事である。物語として完成されている。業者とURとの交渉に積極的に参加し、見返りに多額の利益供与を受けておいて未だ何の動きもない。誠に考えられない恐るべき事態。特権を持つ者は優遇される。そんな世の中で、一体誰が法律を守るのか〉
「まったくその通りですよ。このまま甘利前大臣の逃げ切りを許せば、この国は『法治国家』でも何でもなくなってしまう。安倍政権が声高に非難している中国や将軍様の無法国家と同じです。『巨悪は眠らせない』との名言を残した故・伊藤栄樹検事総長は『検察官は遠山の金さんのような素朴な正義感を持ち続けなければならない』と口グセのように言っていたものですが、まさに今、『眠り続けてトンズラしよう』と企んでいる巨悪が目の前にいるのに、なぜ特捜部は動かないのか分かりません」(司法記者)
「甘利疑惑はあっせん利得処罰法のどストライク」と断じる元検事の郷原信郎弁護士は本紙インタビューで「これだけの事件をやらないと、検察は何のためにあるのかということになる」と話していたが、巨悪に対して動かない検察組織なら解体した方がいい。
メディアが強気を助け、弱気をくじくデタラメ
「睡眠障害」は本当!?(C)日刊ゲンダイ
それにしても疑惑発覚後から一度も登院していない甘利の「睡眠障害」は果たして本当なのか。新聞・テレビがTPP交渉窓口だった甘利を「タフネゴシエーター」なんて散々、持ち上げていたのがウソのようだ。甘利本人も2013年11月5日の参院内閣委員会で、与党議員からTPP交渉に臨む決意を問われた際、自信タップリにこう答えていた。
「私は、かつて経済産業大臣としてWTO協議に臨みました。最終的に少数国会合で、7カ国の閣僚だけでの議論、10日ぐらい徹夜でやったこともございます」
徹夜同然の国際会議に10日間もブッ続けで出席したことを国会で得意げに語っていたのである。そんな男が突然の「睡眠障害」で3カ月も長期療養なんて、にわかに信じがたい。東京女子医科大東医療センターの山田和男教授(精神科)は「あくまで一般論ですが」と前置きした上でこう言った。
「『睡眠障害』は症状が幅広く、長期療養が必要と診断されるのは、うつ病など他の病気が併存した場合に考えられます。しかし、そうした例は若い時から続いているケースが目立ち、あの年齢で突然、症状が出て3カ月も休養が必要というケースはちょっと思いつきません」
もちろん、世の中には深刻な「睡眠障害」に苦しんでいる患者は少なくない。だからこそ、仮に甘利が特捜部の捜査や国会の追及を免れるために「睡眠障害」を“隠れみの”に使っているとすれば許し難い話だ。国会議員はもちろん、政治家として失格なのは言うまでもない。
■野党は甘利を「臨床尋問」すべき
いずれにしろ、甘利が本当に重病なのか確認する意味も含めて、野党は一度、甘利本人から疑惑についてきちんと聞くべきだ。甘利だって辞任会見で、“口利き疑惑”の追加調査の公表について「しかるべき時に」なんて言っていた。このままウヤムヤにされる前に甘利本人の証人喚問を求めるべきだろう。政治評論家の山口朝雄氏はこう言う。
「甘利前大臣の体調がどうしても優れないのであるなら、別に国会に招致しなくてもいい。もし甘利前大臣が入院しているならば、病院で『臨床尋問』すればいいのです。自宅でもいいでしょう。実際、衆院予算委は92〜93年、東京佐川急便事件などで、いずれも入院中だった故・金丸信元自民党副総裁や故・小針暦二福島交通元会長を『臨床尋問』しています」
甘利疑惑を真正面から取り上げていないのはメディアも同じだ。ゲス不倫で辞職した宮崎謙介前衆院議員や、ホモ買春疑惑の武藤貴也衆院議員をはじめ、政務活動費をちょろまかした前兵庫県議の野々村竜太郎被告などのスキャンダルは大々的に報じるのに、甘利についてはなぜかダンマリだ。元共同通信記者の浅野健一氏はこう言う。
「甘利前大臣は公人なのだから、メディアは『睡眠障害』の診断書は本当に正しいのか、どんな治療をしているのか、療養先はどこなのかを徹底的に調べて報じるべきです。野々村前県議や宮崎前議員の問題は厳しく追及し、辞職や起訴に追い込みながら、閣僚だった甘利疑惑はてんで騒がない。これでは整合性がつきません」
メディアは安倍政権ににらまれたくないと思っているのだろうが、まるで魔女狩り社会のようで異常だ。強きを助け、弱きをくじく。メディアがこんなテイタラクだから、安倍政権も甘利もノウノウとしていられるのだ。
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