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酒井順子『子の無い人生』(角川書店)
「2人以上産め」校長も安倍首相も…“子育て右翼”が増殖中! 「子を産まない女は女にあらず」「保育園に頼らず自分で育てろ」
http://lite-ra.com/2016/03/post-2074.html
2016.03.17. 「2人産め」校長も…子育て右翼が増殖 . リテラ
「女性にとってもっとも大切なことは子どもを2人以上産むこと」──いま、波紋を広げている大阪市立茨田北中学校・寺井寿男校長による発言。先日、女優の山口智子が「子どもをもたない人生を選んだ」と告白し大きな共感を呼んだばかりだが、やはりこの国ではいまだ“子を産まない女は女にあらず”と見なす価値観が蔓延っているようだ。
事実、校長の意見に対し、ネット上では「真っ当な意見」「これが糾弾されるのはおかしい」「一部を切り取って文句言うな。全文紹介しろよ」などと擁護する声も大きい。
まったくふざけるな、である。まだ中学生の子どもたちに校長という立場にある者が「(出産は)仕事でキャリアを積む以上に価値がある」「子育てをした後に大学で学べばよい」などと女性の人権を完全に無視した説教を垂れることの、どこに擁護する点があるというのだろう。女性には、産む・産まないの権利、いつ産むか、何人もつかを決める自由(リプロダクティブ・ライツ)があることを知らないのだろうか。
しかも、こうした偏狭な空気が流れているのは、校長の暴言問題だけではない。例の「保育園落ちた日本死ね」にしても、安倍晋三首相や平沢勝栄に同調して「匿名で物を言うな」「“死ね”はヘイトスピーチだ」と論点をすり替えたり、挙げ句は待機児童解消を訴える署名を手渡した母親たちの抱っこ紐に「あれはブランド品」「保育所に文句つける前に生活切り詰めろ」などと攻撃する者まで登場した。
「少子化だから子はたくさん産め」と言い、産んだら産んだで「国に頼るな。自分たちでどうにかしろ」「保育園なんかに預けず母親が育てろ」と責める……。こうしたいまの日本に吹き荒れる異常さを、あるエッセイストは〈子育て右翼〉と表現する。『負け犬の遠吠え』(講談社)がベストセラーとなった酒井順子氏だ。
酒井氏は先日上梓した新刊『子の無い人生』(角川書店)のなかで、以前問題となった「やっぱり女性は家で子育てをして、男性は外で働く方が合理的ですよね」という長谷川三千子・NHK経営委員の発言や、曽野綾子氏の「出産したら(仕事を)お辞めなさい」という発言を引き、こう論じる。
〈昨今、世の中の右傾化が目立つと言われておりますが、これらの意見を聞いていると、子産み・子育ての世界においても右傾化が進んでいる気がするのでした。右寄りの人々というのはすなわち、保守的な体制を維持しようとする人達。そしてもし、女性が「子を産む機械」なのだとしたら(中略)世の右側に置いてある機械は、「この国の、そして私の家族の、未来永劫の弥栄のために、私は子を産まなくては。私個人の自己実現など、大した問題ではない。体制を維持するために私は、子育てに専念します」と思うことでしょう〉
この「子を産む機械」発言をしたのは、第一次安倍内閣で厚生労働大臣を務めた柳澤伯夫氏だが、安倍内閣からは例外なくこうした「子育て右翼」発言が飛び出している。たとえば2014年には、同じく第一次安倍内閣で外務大臣を務めた故・町村信孝氏が「40代で生まれる子と20代で生まれた子は育ち方が違う」と、まるで出産時の年齢によって発育に差がある、若いときに出産すべきと言わんばかりに発言。また、昨年には、菅義偉官房長官が福山雅治と吹石一恵の結婚について尋ねられ「ママさんたちがいっしょに子どもを産みたいというかたちで国家に貢献してくれれば」などと言い、“お国のために子を産み貢献しろ”というまさに「子育て右翼」の見本のような発言を残している。
そして、忘れてはならないのが、第二次安倍政権で導入しようとした「女性手帳」の存在だろう。〈医学的に30代前半までの妊娠・出産が望ましいことなどを周知し「晩婚・晩産」に歯止めをかける狙い〉(産経ニュースより)だったというが、このときからすでに安倍政権は“体制維持のための出産”と考えていることが明らかになっていたのだ。
しかも、このような「子育て右翼」内閣は、ただ“産めよ殖やせよ”と叫ぶだけで、少子化の根本的な問題──非正規雇用や低賃金などの不安定労働の解消、男性の家事・育児参加の推進、出産後の職場復帰・再就職の支援、社会保障の充実、待機児童やマタハラなどの解決──に真面目に向き合うことはない。これは世界的に見ても少子化対策として逆行したものだ。酒井氏も、このように述べている。
〈出生率が日本のように下がっていない先進諸国は、男女の平等を目指すことによって、出生率低下を食い止めています。家事や育児を男性も担い、子育て中の女性も働き易い制度と環境を整えることによって、男女ともに「仕事も家庭も」ということになっている。
子育て右翼の人たちの考えを推し進めるということは、日本を昔ながらの家族制度に戻すということですが、そのような手段で出生率を押し上げた国は、今までありません。日本や韓国のみならず、イタリアやスペインなど、伝統的な家族制度が根強く残る国ほど、出生率は低下していったのですから〉
そして酒井氏は、前述した長谷川氏について、〈件の、NHK経営委員の女性は、安倍首相と近い思想を持つ人物だということです〉とふれ、安倍首相の矛盾を指摘し、さらに隠された本音をこう想像する。
〈そんな安倍首相は、しかし女性の埋もれた力をもっと活用するという「ウーマノミクス」を推進しようとしているらしい。
って、いったいどちらに行けばいいの安倍さん。……と、私が子産み世代であれば、首相に問いただしたくなると思います。安倍さんは、本当は「女は家で子育てして男が外で働くってことにしておけば話はややこしくならないのに……、ああ面倒臭い」などと思いながら、しかし時流に逆らうことはできないから「ウーマノミクス」などと言っているのではないか〉
この酒井氏の見立ては、きっと当たっているはずだ。だから「保育園落ちた」ブログの切実な内容を突きつけられても「実際ほんとうに起こっているか、確認しようがない」と言ったり、肝心な場面で「保育所」をよりにもよって「保健所」と言い間違えてしまうのだろう。
もういっそのこと、安倍首相には「子を産み家で育てるのが女の仕事。子育てしながら働かざるを得ないというなら自己責任でどうぞ」と、その本音をぶちまけていただきたいものだが、もうひとつの問題は安倍的なる「子育て右翼」が跋扈している現状だ。
〈今後「子産みをせずんば女にあらず」という風にはなってほしくないなぁと、私は思う者。「女にとって最も重要なことは」とか「男にとって最も重要なことは」といった考えは、多くの人を生きづらくさせるのですから〉
酒井氏はこう言いながらも、同時に〈極端な少子化の反動として〉今後も〈子育て右翼の発言はさらに増えていく〉と危惧を述べている。
もしかしたら、大阪の中学校校長のような声がどんどん大きくなって、当たり前になってしまう時代がすぐそこまでやってきているのかもしれない。
(田岡 尼)
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