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2016年02月23日
「新・二都物語」は『赤旗』のヒット
■戸塚章介(元東京都労働委員会労働者委員)
『赤旗』本紙の連載小説「新・二都物語」が2月18日付の第377回で完結した。これが無茶苦茶面白かった。作者は芦辺拓。あれは1月末頃だったかな、新松戸の本屋で同じ作者の文庫本を見つけた。「殺人喜劇の13人」(創元社 創元推理文庫 税込1080円 453頁)。10日位で読了した。
浅はかながらおれは芦辺拓という推理作家を知らなかった。「1958年大阪府生まれ。同志社大学卒。86年『異類五種』で第2回幻想文学新人賞に佳作入選。90年「殺人喜劇の13人」で第回1鮎川哲也賞を受賞し、デビュー。著作は『綺想宮殺人事件』『スチームオペラ』『奇譚を売る店』『時の審廷』『異次元の館の殺人』『金田一耕助vs明智小五郎ふたたび』など多数」(文庫の作家紹介)。
話を「新・二都物語」に戻すが、とにかく奇想天外、話がどこへ飛ぶか分からない。小説の醍醐味は次はどうなるんだろうと興味しんしん頁をめくること。この小説は完璧に読者の期待にこたえている。関東大震災のさなか、ひょんなことから主人筋の男を殺した柾木謙吉が、その男になりすましてイギリスに留学する。
もう1人の主人公は大阪の地元銀行の倅水町祥太郎。世界不況の影響で取り付け騒ぎになり銀行は潰れる。おっとりした遊び人と思わせておいて実はこの男が意外なしっかりもの。実業家としての才能を発揮する。活動屋になって成功したかと思ったら撮影所の火事ですっからかん。中国の上海に渡る。
イギリスから帰った謙吉はお役人になり映画の検閲官に。しかし上層部のいいなりにならないため満州の新京に飛ばされる。新京と上海、戦争の激しくなる中国大陸を舞台に2人の主人公はすれ違いのままそれぞれの生きざまをへて敗戦という終局を迎える。その後の主人公2人の運命や如何に・・・。
甘粕大尉が実名で出てきたり、李香蘭らしき女優が顔を出したり、虚実入り混じってストーリーは展開する。中でも悲惨なのは上海で祥太郎の小間使いをしていた中国人の少年。八路軍の将校になって中国解放に貢献するのだが、例の文化第革命のとき「親日分子」の汚名を着せられて粛清されてしまう。
昭和の時代、日本人が中国でしたことは何だったんだろう。国家的規模で言えば「侵略」に違いないだろうが、日本がつくった満州の兵器工場で働いていたおれの親父も含めて、1人ひとりの日本人はどんな気持ちで中国という国に接していたのだろうか。そんなことを考えさせられた小説だった。いずれにせよ「新・二都物語」は最近の『赤旗』のヒットであることは間違いない。