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日本経済転落回避に超緊縮財政修正不可欠ー(植草一秀氏)
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25th Feb 2016 市村 悦延 · @hellotomhanks
2月21日のNHK日曜討論では経済問題がテーマに掲げられた。
日銀によるマイナス金利政策の評価を中心に、日本経済の見通し、
採られるべき経済政策対応、そして世界経済の見通しなどについて論議が示された。
放送法は第4条で、
「放送番組の編集に当たつては」
「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」
との定めを置いているが、この条文に反する番組編集になった。
経済政策の対応としては、財政金融政策というマクロの経済政策と
各種規制改革等のミクロの構造調整策がある。
マクロ経済政策が中短期の時間軸で検討されるものであるのに対し、
構造調整策は中長期の時間軸で検討されるものである。
日銀のマイナス金利導入は中短期を視野に入れたマクロ経済政策であり、
今回の日銀の政策対応の是非が論じられたのは当然のことである。
これに対して、財政政策について、その必要性を主張する見解がまったく示されなかった。
他方で、マクロ経済政策の観点から消費税増税の再先送りを主張する見解が浮上する可能性があるが、
これを阻止することが重要であるとの主張だけが提示された。
財務省は霞が関の最強官庁である。
NHKも財務省を敵に回すことはできない。
NHKの番組編集が財務省の意向に沿って行われていると推察される番組内容になっていた。
日本の昨年10-12月期のGDP成長率は前期比年率−1.4%になった。
個人消費が落ち込み、日本経済の低迷持続が改めて明らかになった。
NHK番組は、冒頭でこの点を取り上げた。
その際に画面に映し出された成長率推移のグラフがある。
直近5四半期のGDP成長率の推移を棒グラフで表示したものである。
これと同じものを作成してみたのでご覧いただきたい。
昨年4−6月期に続いて、10‐12月期も年率−1.4%のマイナス成長になった。
しかし、グラフを見るとそれほど悲観する必要もない気になってくる。
この二つの四半期はマイナス成長になっているが、残りの四半期はすべてプラス成長。
とりわけ、2014年10‐12月期と2015年1−3月期の成長率は、それぞれ、+2.5%、+4.2%と高い。
2015年4−6月期と10‐12月期だけが例外的に小幅マイナスの成長率を記録したように見える。
NHKはそのように見えるグラフを作成したのであろう。
あるいは、政府から、このグラフを番組で使用するように指示があったのかも知れない。
そこで、もうひとつのグラフを作ってみた。
こちらは、2014年4−6月期から7四半期を表示するグラフである。
半年間、グラフの期間を延ばしたものだ。
これを見ると見え方がまったく違う。
2014年4−6月期が −7.9%
2014年7−9月期が −2.6%
の大幅マイナス成長になっている。
2014年度トータルの実質経済成長率はマイナス1.0%だった。
2014年度は安倍政権が消費税増税を強行実施した年度である。
この消費税大増税で日本経済は撃墜された。
4−6月期、7−9月期に生産は大きく落ち込み、
その反動もあって、10‐12月期、2015年1−3月期はプラス成長になった。
この反動によるプラス成長の部分からグラフを作成して視聴者に見せている点が、極めて作為的なのだ。
私は短期的な経済政策と経済変動の関係を詳細に分析してきている。
そのなかで、経済政策の過度の振れが、日本経済の重大な攪乱要因になってきたことを明示してきた。
そして、とくに、行き過ぎた緊縮のブレーキを踏みこむ政策が、
浮上しかけている経済を再墜落させることの危険を、常に事前に警告してきた。
その文脈で言えば、2016年度の安倍政権の財政政策が、強度の逆噴射政策になっている。
現在の日本経済の停滞、株価低調の背景には、この超緊縮財政政策がある。
この視点の問題提起が皆無であり、
ただひたすら、消費税再増税強行実施を推奨する発言者が、選別されて起用されたものであると推察される。
私の主張を正しく理解しない批判によく遭遇する。
私は、財政政策の過度のブレを常に問題にしている。
政策運営スタンスは、基本的には中立維持が望ましい。
ここで言う「中立」とは、マクロベースで、財政政策が景気を抑圧もせず、景気を刺激もしない状態を指す。
マクロベースでの財政政策の「中立」とは、分かりやすく整理するなら、
財政赤字を減少もさせず、増加もさせない予算執行をすることである。
これをベースにおいて、経済状況を判断して、裁量を加える。
財政政策の「裁量政策」の効果については賛否両論がある。
リーマンショックまでは日本の学界でも「裁量政策は効果がない」と主張する者が大半を占めた。
海外でそのような論調が多数を占めていたからである。
しかし、リーマンショックを受けて、米国が大規模な裁量的財政政策発動を行った。
そして、米国の経済学者が裁量的な財政政策の有効性を主張した。
すると、これまで裁量的な財政政策は無効であると主張してきた多くの日本人学者が、
裁量的政策は有効であると言い始めた。
これ位、いい加減な世界である。
そして、リーマンショック後は、裁量的な財政政策が短期的には有効であることを
認めざるを得ない状況が生まれたのである。
私は、むやみやたらな財政出動を唱えたことなど一度もない。
他方、財政収支を改善することは基本的に望ましいことも主張し続けている。
私が日本の経済政策運営で強く警告を発してきたのは、
日本経済がようやく少し浮上した、景気回復初期に、
政府が行き過ぎた緊縮のブレーキを踏むことについて、
その行き過ぎた緊縮政策が、せっかくの経済浮上の流れを破壊してしまう危険についてである。
1997年度の橋本政権の財政政策、2000年度、2001年度の森政権、
小泉政権の超緊縮財政政策を批判してきた。
むやみやたらに積極財政を主張してきたのではない。
もうひとつ、財政政策で常に主張してきたことがある。
それは、財政支出の内容を是正するべきことだ。
米国には財政支出の分類軸として、
裁量支出とプログラム支出
という区分がある。
プログラム支出は、制度によって政府支出が自動的に決定されるもの、
これに対して、
裁量支出は、毎年度の裁量によって支出を決めるもの
である。
プログラム支出の中心は社会保障支出である。
公的医療保険支出、年金、生活保護などは、プログラム支出に該当する。
これに対して、各種補助金、公共事業支出などが裁量的支出になる。
私の主張は、財政支出のなかの裁量支出を極小化し、プログラム支出を拡大するというものである。
各種利権と直結する裁量支出を切り込めば、日本の財政規模で、
国民に対する社会保障水準を大幅に高めることが可能になる。
北欧などと比較して、日本の最低保障水準は著しく低い。
多くの国民が貧困レベルで苦しんでいる。
財政支出の内容を全面的に刷新すれば、同じ予算で、
国民のナショナルミニマム=最低保障水準を大幅に引き上げることが可能になるのだ。
このような財政支出改革こそ必要だ。
同時に、税制においては、「能力に応じた課税」を軸に据えるべきである。
日本の税収構造は、過去25年間に、同じ国の税構造とは思えないほどに変質した。
25年前に、所得税27兆円、法人税19兆円、消費税3兆円
だった税収構造が、
2015年度には、所得税16兆円、法人税11兆円、消費税17兆円
に変化した。
消費税の特徴は、所得ゼロの国民からも超富裕層と同じ税率で税金をむしり取る点にある。
所得税(住民税を含む)は最高税率が55%である一方、
夫婦子二人世帯では、年収325万円までは所得税額ゼロなのだ。
日本財政の中身を変える必要性を強く訴えていた。
安倍政権はマクロの経済政策として、当初は
積極的な財政金融政策
を唱えて、2013年はこれを実行した。
しかし、2014年以降は、金融緩和と緊縮財政を組み合わせている。
金融緩和はインフレ誘導を目指すものとされてきたが、
インフレは企業と債務者には利得を与えるが、労働者、預金者には損失を与えるものである。
庶民にとって百害あって一利のないものだ。
その金融政策が行き詰まり、マイナス金利に突入したが、
政策決定後の金融市場は最悪の推移を示している。
いま必要なことは、超緊縮に振れている財政政策を少なくとも中立に戻すことだ。
もっとも重要なこの論点を欠いた討論番組を放送しても、まったく意味はない。
唯一の救いは、小幡績氏が日銀の政策対応を全面批判したことである。
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