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歴史を繰り返させるな 真の争点を見極めたい
http://mainichibooks.com/sundaymainichi/column/2016/03/06/post-703.html
サンデー毎日 2016年3月 6日号
倉重篤郎のサンデー時評 連載89
あるアジアの島国の話である。
19世紀後半の帝国主義時代、いち早く欧米流のシステムの導入に成功し、隣の大国のように列強の侵略を受けることもなく、むしろ、近隣の半島国家を併合、大陸にまで進軍し、欧米列強と肩を並べた国があった。ただ、行き過ぎた自己過信と軍部の暴走とそれを抑え切れない民主主義の未熟が、その国を歯止めなく軍事的に膨張させ、ついには列強・国際秩序から完膚なきまでに叩(たた)きのめされた。
その国、すなわち日本のことであるが、戦後は非戦を決意、日米安保条約と憲法9条を巧みに使い、この70年間自国からは一人も戦死者を出さない、という平和国家を実現、一方で、国民的エネルギーを経済活動に振り向け、焼け跡国家を世界第2位の経済大国にまで成長させた(現在は第3位)。
この成功体験は、戦後史のエポックとして語り継がれよう。ただ、日本も国際環境の激変の中で、その路線に修正を迫られている。
最初の試練は1990年の冷戦終焉(しゆうえん)、バブル経済崩壊という形で訪れた。2度目の試練は、21世紀にかけて中国の台頭、人口構造の非可逆的変化という形で現出した。
これら試練が求めるものは、安全保障面では、ソ連に代わる中国という仮想敵に対し、軍事、外交、歴史認識、ナショナリズムでどう総合対処するか、その中で日米同盟、9条をどう再定義するか、であり、経済面では、資産デフレに人口減デフレが加わった、それこそアリ地獄のような構造デフレにどう対処するか、であった。
2009年の民主党政権と12年の安倍晋三政権では対照的な政策を打ち出した。
民主党は安保では、東アジア共同体という親中国外交と、日米安保の対等化という従米路線の修正を提起し、経済では、人口問題に着目し若年層世代への予算の傾斜配分、財政再建路線に乗っかって新たな国民負担(増税)を求めた。ただ、その離米主義が米の怒りをかい、増税が国民からの反発を呼び、何よりもその統治能力の低さで政権はあえなく沈没した。
◇近現代史のなかの認識、未来への洞察、日本の今を大きく議論せよ
一方、安倍政権は、民主路線を引っ繰り返した。安保面では、中国に対する排外的ナショナリズムを容認し、それを奇貨として9条の解釈変更を含め日本の軍事的能力をさまざまな角度から強化(国家安全保障会議創設、特定秘密保護法制定、武器輸出促進、防衛予算増、安保法制改編)、日米安保については対米後方支援(兵たん)の世界的展開を約束し従米路線を一層推し進めた。経済では、財政再建路線を棚上げし、デフレ脱却のみを目標に、日銀が国債購入を通じて金をジャブジャブに提供する異次元金融緩和作戦を展開、ついにはマイナス金利にまで踏みこんだ。
安倍政権が民主党政権と違うのはその統治能力の高さである。党内に異論、反対があってもそれを内部抗争にしない。安保では中国の台頭に不安を覚える国民に対しそれなりの回答を出し、経済では円安、株高により、空前の企業収益を上げさせ、税収も増やした。
この二つの路線をどう評価するか、が夏の真の争点ではないか。
私は安倍政治に批判的だ。つまり、この政権は本質的課題に正面から向き合っていないし、未来への洞察も欠いている。政治本来の役割である国民に対し説明を尽くして負担を求めることもしない。
本質的課題とは経済でいえば人口デフレである。この20年間に労働者人口は1000万人減り、高齢者は逆に1000万人増え、全人口も08年をピークに毎年50万人の勢いで減り始めた。労働者が減れば生産力が減退、高齢化はそれに輪をかけ、人口減は消費力を縮み上がらせる。このデフレの真因に歴代自民党政権は無策だった。
アベノミクスもそのメッキがはがれつつある。麻薬的な効果を持つ金融緩和で企業収益は改善させたが、それを投資と賃金に再循環できない。人口デフレの壁を越え切れないのである。それに比べ、民主政権は子ども手当創設、高校授業料無償化という問題意識はあった。今後は、政治家や企業幹部の半分を女性にするとか、移民大量受け入れといったデフレの根幹に踏み込んだ抜本策が争点となる。
安保でいう本質的課題とは、非戦という戦後政策の核心を維持しつつ中国の台頭とどう向き合うか、である。日米同盟への過度の依存を慎み、軍拡競争を回避するためにも、双方のナショナリズムをどう抑え、歴史認識をどう交換し、外交的努力をどう優先するか。日本独自の視点からスタートすべきだった。民主政権には実現能力はなかったが、構想はあった。安倍政権は初めから日米安保強化という選択肢しか念頭になかった。
未来への洞察とは、現行政策の延長線上に何が起きるか。徹底したシミュレーションであらゆるリスクに対し、考え得る必要な体制を整備することである。にもかかわらず経済では、異次元緩和の出口策が準備されていない。議論することすら封じられている。日銀が国債を買わなくなった時(出口)に何が起きるか。そのメルトダウン的被害をどう最小限に抑えるのか、こそ透明化すべきことである。民主党はその際に自分たちに政権が回ってくることも想定し準備をしておく責務がある。安保では、この従米路線の行きつく先に戦後初の戦死者が出ることを冷徹に予測しておくことである。
ここで冒頭に戻る。歴史は繰り返す、ではないが、どうも安倍政権の「自己過信」と「暴走」と「民主主義の未熟」が最近気になってしょうがない。口利き疑惑、イクメン不倫、失言追及で国会論戦の土俵が縮みつつある中、日本の近現代史で今がどういう局面なのか。真の争点は何なのか、という大きな議論に立ち戻ってほしい。
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