(変わる安全保障)南スーダン、緊迫PKO 遅れる新政権樹立・武装兵満載のトラック往来 2016年2月21日05時00分 朝日新聞 アフリカ・南スーダンに展開する国連平和維持活動(PKO)は、現在、日本が唯一参加しているPKOだ。同国では現政権と反政府勢力との事実上の内戦状態が続いている。安倍政権は、昨年成立させた安全保障関連法で、自衛隊のPKOでの任務や武器を使用できる範囲を大幅に広げるが、赴く先は戦闘と隣り合わせだ。 ■自衛隊350人、危険避け活動 大音量のサイレンを鳴らして走るパトカーを先頭に、兵士を満載したトラック6台が主要道を駆け抜けていく。 南スーダンの首都ジュバ。写真を撮ろうとレンズを向けると、すぐさま現地助手に制された。「今はやめた方がいい。やつらは気が立っている」 「やつら」は頭に色鮮やかなバンダナを巻き、赤いTシャツを着るなど派手な身なりをしている者もいるが、現地助手は「間違いなく政府軍。今は臨戦態勢だ」と言い切った。 トラックの荷台のへりに腰掛けた兵士は総勢百数十人。自動小銃を外側に構え、市民に目を光らせていた。 南スーダンは、豊富な石油資源などの利権をめぐって、キール大統領とマシャル副大統領(当時)が激しく対立。2013年7月にキール氏がマシャル氏を解任すると、キール政権とマシャル氏が率いる反政府勢力との間で軍事衝突が起こり、200万人が住む場所を追われるなどの内戦状態に陥っている。 現政権と反政府勢力は昨年8月、内戦状態の終結を目指して和平合意を締結。記者がジュバに入った翌日の1月22日には、暫定の統一新政権が樹立されるはずだった。その数日前には、マシャル氏の護衛を目的とした反政府勢力の精鋭部隊数百人が北部からジュバ入りしていた。 反政府勢力と政府軍は、戦闘を通じて殺し殺された関係だ。市民の中にも、反政府勢力に家族や友人を殺された人たちが少なくない。ジュバは激しく対立する両勢力がにらみあう、緊張した雰囲気に包まれていた。 ところが、反政府勢力を率いるマシャル氏は期限の22日を過ぎてもジュバに入らなかった。大統領府内には「和平合意は失敗した」との観測が流れ始めた。 市民らは再びジュバが不安定化することを恐れ、商店で食料を買い占めたり、銀行から預金を下ろそうとしたりしていた。女性(58)に聞くと、「約2年前の戦闘では知り合いがたくさん死んだ。もう戦闘はたくさんだ」と話した。 南スーダンPKOには、自衛隊員約350人が参加。国連と協力して情報収集を進め、危険を回避しながらジュバ周辺の道路の整備作業などに当たっている。記者は1月27日に取材をする予定だったが、国内の治安状況の悪化などを理由に、国連から中止を通告された。 2月17日には南スーダン北東部にある国連施設内の民間人避難施設が武装集団に襲われ、少なくとも18人が死亡した。北部を中心に情勢は不安定化しており、新政権が樹立されるかは予断を許さない状況が続いている。(ジュバ=三浦英之) ■武器携える新任務、先送り 安保法3月施行予定 「情け容赦ない戦闘が続き、当事者は伝統的避難所、国連の基地まで攻撃している。まさに内戦が続いている」 2月4日の衆院予算委員会。共産党の志位和夫委員長は、南スーダン情勢について1月21日に国連人権高等弁務官事務所などが発表した報告書を引用し、安倍政権の姿勢をただした。 岸田文雄外相が「武力紛争が発生しているとは考えていない」と答弁すると、志位氏は「政府軍と反政府軍がともに民兵を動員し、区別がつかない。自衛隊が戦後初めて殺し殺されるという危険が現実になると強く危惧している」と指摘した。 日本は1992年以降、カンボジアや東ティモールなど13のPKOに自衛隊員ら延べ1万人以上を派遣。停戦監視や道路整備などで実績を積んできた。 ただ最近のPKOは、こうした伝統的な任務から、文民保護のために武器使用も辞さない「積極的PKO」に変容している。南スーダンPKOもこうした流れの中にある。 安倍晋三首相は4日の衆院予算委員会で「PKOの変化を踏まえ、我が国は世界の平和と安全に一層取り組んでいく」と答弁し、積極的PKOへの参加に前向きな姿勢を強調した。ただ、積極的PKOに関わっていくことは、それだけ自衛隊の危険が増すことになる。 昨年成立した安保法により、自衛隊のPKO派遣部隊の任務に「駆けつけ警護」が新たに加わる。宿営地から離れた場所で武装勢力に襲われた民間人や他国軍兵士を武器を持って助けに行く任務だ。自衛隊が武器を持って検問や巡回に当たることも可能にした。 つまり、安保法が適用されれば、南スーダンPKOの自衛隊部隊が「文民保護」のために武器を使用する可能性が出てくる。事実上の内戦状態の中で、自衛隊の任務や武器使用の範囲が広がれば、それだけ隊員らの危険は高まる。 安倍首相は昨年、「訓練を含めた対応体制を早急に整備するためにも、一日も早い法制の整備が不可欠」と主張。「時間をかけて議論すべきだ」との根強い世論の反対を押し切って安保法成立を急いだ。しかし、南スーダンに派遣した部隊への対応は、首相の言葉とは違っている。 安保法にはなお世論の反対が残る。野党は今国会で安保法廃止法案を提出した。そうした中で南スーダンの部隊が安保法に基づく新たな任務につけば「安全保障問題に注目が集まり、この夏の参院選の結果に影響する」(政府関係者)。安保法は3月末に施行される予定だが、安倍政権は新たな任務を南スーダンで行うのは、参院選後まで先送りする方針だ。(二階堂勇) http://www.asahi.com/articles/DA3S12219947.html
|