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NHKクローズアップ現代キャスター国谷裕子さん(C)朝日新聞社
NHK「クロ現」国谷キャスター降板と後任決定の一部始終
http://bylines.news.yahoo.co.jp/kawamotohiroshi/20160213-00054354/
2016年2月13日 15時0分配信 川本裕司 | 朝日新聞記者、WEBRONZA筆者
23年間にわたりNHKの看板報道番組「クローズアップ現代」のキャスターを務めてきた国谷裕子さんが3月17日を最後に降板する。続投を強く希望した番組担当者の意向が認められず上層部が降板を決断した背景には、クロ現をコントロールしたいNHK経営層の固い意思がうかがえる。
クロ現は4月から「クローズアップ現代+」と番組名を一部変え、放送時刻も午後10時からと深くなる。後任のキャスターにはNHKの女性アナナウサー7人が就くと、2月2日に発表された。ただ、7人の顔ぶれが決まるまで、「ニュースウオッチ9」の大越健介・前キャスターが浮上したり、最終局面で有働由美子アナの名前が籾井勝人会長の意向を反映する形で消えるなど曲折があったという。
複数のNHK関係者によると、黄木紀之編成局長がクロ現を担当する大型企画開発センターの角英夫センター長、2人のクロ現編集責任者と昨年12月20日すぎに会った際、国谷さんの3月降板を通告した。「時間帯を変え内容も一新してもらいたいので、キャスターを変えたい」という説明だった。
センター側は「国谷さんは欠かせない。放送時間が変われば視聴者を失う恐れがあり、女性や知識層の支持が厚い国谷さんを維持したまま、番組枠を移動させるべきだ」と反論した。しかし、黄木編成局長は押し切った。過去に議論されたことがなかった国谷さんの交代が、あっけなく決まった。
国谷さんには角センター長から12月26日、「キャスター継続の提案がみとめられず、3月までの1年契約を更新できなくなった」と伝えられた。
国谷さんの降板にNHKが動きを見せたのは、昨年10月下旬にあった複数の役員らが参加した放送総局幹部による2016年度編成の会議だった。
編成局の原案では、月〜木曜の午後7時30分からのクロ現を、午後10時からに移すとともに週4回を週3回に縮小することになっていた。しかし、記者が出演する貴重な機会でもあるクロ現の回数減に報道局が抵抗し、週4回を維持したまま放送時間を遅らせることが固まった。
報道番組キャスターや娯楽番組司会者については、放送総局長の板野裕爾専務理事が委員長、黄木編成局長が座長をそれぞれつとめ部局長が委員となっているキャスター委員会が決めることになっている。番組担当者からの希望は11月下旬に示され、クロ現の場合は「国谷キャスター続投」だった。現場の意向を知ったうえでの降板決定は、NHK上層部の決断であることを物語っている。
現場に対しても「番組の一新」という抽象的な説明しかなかった降板の理由について、あるNHK関係者は「経営陣は番組をグリップし、クロ現をコントロールしやしくするため、番組の顔である国谷さんを交代させたのだろう」と指摘する。
その伏線となったのは、2014年7月3日、集団的自衛権の行使容認をテーマにしたクロ現に菅義偉官房長官に出演したときの出来事だった。菅長官の発言に対し「しかし」と食い下がったり、番組最後の菅長官の言葉が尻切れトンボに終わったりしたためか、菅長官周辺が「なぜ、あんな聞き方をするんだ」とNHK側に文句を言った、といわれる一件だ。
この件について、籾井勝人会長は7月15日の定例記者会見で、菅長官を出迎えたことは認めたが、「官邸からクレームがついた」という週刊誌報道については「何もございませんでした」と否定した。
国谷さん降板を聞いたNHK幹部は「官邸を慮(おもんぱか)った決定なのは間違いない」と語った。
クロ現のある関係者は「降板決定の背景にあるのは、基本的には忖度だ。言いたいことは山ほどある」と憤りを隠そうとしない。
国谷さん降板に利用されたのが、クロ現で2014年5月に放送された「追跡“出家詐欺”」のやらせ疑惑だった。15年11月6日に意見書を公表した放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送倫理検証委員会がフジテレビ「ほこ×たて」以来2件目という「重大な倫理違反」を認定した。
同じ内容の番組が、クロ現で放送される1カ月前に関西ローカルの「かんさい熱視線」で取り上げられていた。ところが、NHKの委員会名称は「『クローズアップ現代』報道に関する調査委員会」と、「かんさい熱視線」は対象としないかのように決められていた。
全聾の作曲家ではなかったことが発覚した問題で、NHKが14年3月に発表したのは「佐村河内氏関連番組・調査報告書」だった。最初に取り上げた番組は12年11月の「情報LIVE ただイマ!」、最も反響が大きかったのは13年3月の「NHKスペシャル」だった。また、93年にNHKが唯一やらせを認めたNHKスペシャル「奥ヒマラヤ 禁断の王国・ムスタン」では「『ムスタン取材』緊急調査委員会」となっていた。こうした例にならうなら、「クローズアップ現代問題」ではなく「出家詐欺問題」になるのが妥当といえた。
調査委員会の名称について、11月18日の定例会見で板野裕爾放送総局長は「とくに意図があるわけではない」と述べたが、クロ現を標的にした狙いを感じた向きがあったのは確かだ。あるNHK関係者は「委員会の名前については上層部の指示があった、と聞いている」と話す。
テレビ離れのなか、NHKも視聴率ダウンに直面している。4月からの新年度編成では視聴率の向上が大きな狙いだ。
その対策として考案されたのが、高齢者を中心に一定の視聴率をあげる19時からの「ニュース7」が終わる19時30分からの番組として、クロ現に代わり娯楽番組を並べ視聴者を逃さない作戦に出る。新年度の放送番組時刻表によると、月曜以降、「鶴瓶の家族に乾杯」、「うたコン」(新番組)、「ガッテン!」(同)、「ファミリーヒストリー」といった番組を20時台、22時台から前倒しした。高視聴率を誇る朝の連続テレビ小説の直後に放送される「あさイチ」も視聴率が好調といった手法をまねた、といわれている。
関係者によると、国谷さんの後任選びは難航。降板が決まった直後は、政治部出身の解説委員や大越前キャスターが浮上したが、「ニュースウオッチ9」のメーンキャスターが男性であることから、「男性キャスターが続くのは」と立ち消えに。
1月28日のキャスター委員会で女性アナ8人にいったんは決まった。ところが、発表前日の2月1日、報告を受けた籾井会長は8人に入っていた有働アナの起用に難色を示したという。最終的に久保田祐佳、小郷知子、松村正代、伊東敏恵、鎌倉千秋、井上あさひ、杉浦友紀の7人になった。
4日の定例記者会見で、「『クローズアップ現代+』のキャスターから有働アナを外すよう指示したのか」の質問に、籾井会長は「現場が決めたこと」と否定。重ねて「会長として意見や示唆は言わなかったのか」と問われると、「週4日で7人いれば十分と思う。(『あさイチ』に出演する)有働アナは夜もやると大変」と述べた。
番組タイトルは一部変更だが、現行の「クロ現」とは番組の構成や内容が大きく異なりそうだ。
川本裕司
朝日新聞記者、WEBRONZA筆者
大阪府出身。1981年、朝日新聞社入社、学芸部、社会部などを経て2006年から現職。放送、新聞、インターネットなどメディアと社会のかかわりをテーマに取材している。最近の連載記事として「原発とメディア」(12年2-3月)や「秘密保護法案」(12年10-12月)。10年から朝日新聞デジタルの解説サイト「ウェブロンザ」でも執筆。著書に「ニューメディア『誤算』の構造」、共著に「テレビ・ジャーナリズムの現在」「被告席のメディア」「新聞をひらく」「新聞と戦争」。
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