対北朝鮮、きしむ中韓 韓国、国連決議へ日米に軸足 中国、制裁慎重で近隣外交乱れ 2016年2月13日05時00分 朝日新聞 韓国の朴槿恵(パククネ)政権が対北朝鮮で積極外交を展開している。尹炳世(ユンビョンセ)外相は訪問先の独ミュンヘンで米中ロ英独の外相らと会談し、国連安全保障理事会の制裁決議に協力を求める。外交の軸足を近年の中国重視から、日米との協力強化へと移しつつある。一方、中国は周辺国外交を北朝鮮にかき乱された形で、難しいかじ取りを迫られている。 尹外相は11日、中国の王毅(ワンイー)外相と会談し、長距離弾道ミサイルを発射した北朝鮮への対抗措置として、韓国政府が南北協力事業である開城(ケソン)工業団地の操業を全面中断したことを説明。「中国も安保理常任理事国として責任ある役割を果たしてほしい」と要請した。 同日の講演では、「北朝鮮のように予測不可能な政権による核兵器開発は、核テロリズムという悪夢のようなシナリオが現実になる」とも述べ、危機感を訴えた。 これに先立ち、尹外相は9〜10日に米ニューヨークを訪れ、国連の潘基文(パンギムン)事務総長や安保理理事国の国連大使と会談し、今回が北朝鮮に対する「最後の決議」になるよう厳しい対応が必要だとの考えを強調した。 ■読めぬ正恩政権 韓国が積極外交を展開するのは、金正恩(キムジョンウン)政権の出方が予測しにくくなり、信頼関係を築くことができない以上、態度を根本的に変えさせる必要があるとの考えからだ。 そのためには国際社会の協力が欠かせず、カギを握る北朝鮮の後ろ盾で最大の貿易相手国でもある中国を動かしたいという思惑がある。韓国は近年、「中国傾斜論」が取りざたされるほど対中関係を重視してきたが、韓国側の再三の要請にもかかわらず、中国は厳しい内容の制裁決議に慎重な姿勢を崩さない。 こうした背景もあり、韓国は日米との協力を重視し始めている。米国の高高度迎撃ミサイルシステム「THAAD(サード)」の韓国配備をめぐっては中国が懸念を表明していたが、7日に公式協議に入ると発表した。 日本との軍事情報包括保護協定(GSOMIA)についても、韓国内では日本との軍事協力に反発もあるものの、機運が高まっていることは間違いない。 ■迎撃配備を警戒 中国外務省によると、王氏は11日の尹氏との会談で、国連安保理でできるだけ速やかに新たな決議をまとめることを「支持する」と述べたが、「制裁自体が目的ではない」として、厳しい制裁を求める日米韓との温度差を改めて示した。 むしろ力点を置いたのは、韓国が米国とTHAAD配備に向けた公式協議を始めることへの懸念だ。王氏は「中国の戦略的安全保障上の利益を損なうのは明らかだ」と、強い言葉で牽制(けんせい)した。 中国外務省は北朝鮮がミサイルを発射した7日、駐北京・北朝鮮大使を呼んで抗議したが、同じ日、駐北京・韓国大使も呼んでTHAAD配備問題について抗議の申し入れをした。北朝鮮には使わなかった「厳正な立場」という言葉を用いるなど、この問題に神経をとがらせている。 中国は「THAAD配備が韓国の中国に対する失望といらだちの表れ」(中韓外交筋)と理解している。習近平(シーチンピン)指導部が朴政権と築いた緊密な関係が北朝鮮によるミサイル発射で揺らぎ、「韓国を日米側に追いやってしまった」(政府シンクタンク研究者)との声が出る。 習指導部は米国との摩擦が強まる中、近隣国との安定した関係を重視してきた。その模範例だった中韓の戦略的関係が損なわれるダメージは大きい。「北朝鮮を過度に追い込まない」という原則的立場を保ちつつ、韓国とどのような妥協点を見いだすか。中国は難しい判断を迫られている。 (ミュンヘン=東岡徹、北京=林望) ■<考論>核開発への認識、各国共有を 薮中三十二・元外務事務次官 北朝鮮をめぐる危機が高まるたびに国連安保理は決議を出してきた。だが、関係国が北朝鮮の動きを忍耐の名の下に様子見を続けてきたため、濃縮ウランの開発は進み、4度目の核実験を阻めず射程1万2千キロとされる弾道ミサイルを発射するまで深刻化した。 今回も、カギを握る中国が「北朝鮮を過度に刺激してはならない」という言葉を繰り返している。新たな安保理決議も「足して二で割る」内容になるのではないかと心配だ。 重要なのは、中国を含めた関係国が北朝鮮の核・ミサイル開発がどんな段階にあり、それが東アジアの平和と安定をどう脅かしているのかという共通認識を持つことだ。この土台がなければ、議論はかみ合わないままだろう。 機能不全に陥っている6者協議の再開準備として北朝鮮を除く5者協議で、地域の安全保障や核不拡散の観点から北朝鮮問題を徹底議論してもいい。極めて深刻な状況だという結論が導き出されれば、中国が今のような姿勢をとり続けるのは難しくなるだろう。被爆国でもある日本は指導力を発揮してほしい。 (聞き手・武田肇) http://www.asahi.com/articles/DA3S12207243.html
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