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北の核、拉致で振り返る 戦後政治の一つの「イフ」
http://mainichibooks.com/sundaymainichi/column/2016/02/07/post-633.html
サンデー毎日 2016年2月 7日号
倉重篤郎のサンデー時評 連載85
国会がつまらない。野党に気迫と知恵がない。安倍晋三首相以下閣僚陣はさぞかし楽チンだろう。
そんな中、一瞬だけ安倍氏が気色ばむ場面があった。テーマは、北朝鮮による日本人拉致問題。民主党議員が、拉致被害者の蓮池(はすいけ)薫さんの兄、蓮池透さんによる新著『拉致被害者たちを見殺しにした安倍晋三と冷血な面々』(講談社)をネタ本に、安倍氏を責めた。
曰(いわ)く。安倍氏は拉致問題を利用してのし上がったのではないか。
また曰く。薫さんら拉致被害者5人を、2002年日本に一時帰国後、北との約束違反を覚悟のうえそのまま日本にとどめ置くことにした、その決断をしたのは安倍氏ではなく、兄の透さんではなかったのか......云々(うんぬん)である。
これに安倍氏は猛反発。「本の引用だけで、私の名誉を傷つけようとしている。極めて不愉快」と色をなし、「(当時の状況としては)北に戻すという流れだったが、私は断固として反対した。私が言っていることが違っていたら国会議員を辞める」とまで語った。
安倍氏には一貫して批判的な私だが、このやりとりについては安倍氏に軍配をあげたい。確かに安直な質問だし、被害者を北に戻さないという決断も当時官房副長官だった安倍氏が軸になっていた。被害者家族内では透さんが言い出したのかもしれないが、政府中枢の最終決断では安倍氏の主張が大きな影響力を持ったのは事実だ。
ただ、ここからが安倍氏と違うところだ。私は北との約束を守り被害者たちを一度北に戻してでも、当時両国間で合意した平壌(ピヨン ヤン)宣言に基づき日朝国交回復を進めるべきだった、といまだに思っている。
あの時のことを振り返りたい。小泉純一郎政権下の02年9月17日のことだ。小泉首相が電撃訪朝し金正日(キム・ジヨンイル)総書記と首脳会談。金氏が初めて拉致の事実を認めて謝罪、「拉致被害者は5人生存、8人死亡」という事実を明らかにし、それを受けて、日本の対北経済支援と核問題の包括的解決を軸に国交正常化交渉を再開する、という内容の平壌宣言に署名した。
それは、日本外交の大きな成果であった。拉致問題について知らぬ存ぜぬであった独裁国家の無謬(むびゆう)の最高権力者をしてその咎(とが)を認めさせただけではない。東アジア地域の安全保障上の最大の不安定要素だった北の核問題について包括的に協議する場を設けることができ、かつ、経済支援という形で朝鮮半島全体に対する最終的な戦後処理が進む。日本にとってはある意味一石三鳥の独自外交であった。
◇対北強硬路線以降のナショナリズムが安倍首相を支えている
ここには、当時の田中均(ひとし)外務省アジア局長の1年間にわたる濃密、戦略的な事前折衝があった。米国の干渉にくみしない小泉首相の存在感があり、日本からの経済支援によって国家再生を果たし、体制保障の確約を日本を通じて米国から取り付けたい、とする金王朝の大いなる悲願があった。米中露の超大国も核問題進展に期待した。
その意味では東アジアに安定をもたらし、日本の戦後を終わらせる千載一遇のチャンスであった。にもかかわらず、小泉政権は交渉開始という次のステージに進むことができなかった。まずは、一時帰国とされた5人の被害者を北に戻す、という両国の了解事項をチャラにした。次に、8人の「死亡」が既成事実化するのを恐れ、交渉入りする選択肢を自ら封じた。
その背景には、すさまじいまでの対北強硬世論があった。拉致被害者とその家族を聖域視し彼らには指一本触れるべからず、とでもいう不自由な言論空間が広がった。お手柄のはずの田中氏が「8人死亡」を引き出した外交官としてののしられ、メディア各社は批判を恐れ口をつぐんだ。
その強力な世論を追い風にしていたのが安倍氏であった。福田康夫官房長官や田中氏には平壌宣言履行に未練があったはずだ。ただ小泉首相が安倍氏の路線を選んだ。拉致問題を最優先にせよ、という世論を重視し、結果的に核問題解決、戦後処理の道を捨てた。
実に惜しい選択をした、と思う。拉致被害者を犠牲にしていい、とはいわない。交渉にさえ入っていれば、「8人死亡」問題はその中で事実関係をさらに確認できたはずであるし、何よりも日本主導で東アジアの戦後の終結、新しい安全保障の枠組み作りに寄与することができた。その場合は年明けの「水爆実験」騒動が起きたかどうか。今さら「イフ(もしあの時そうであったら)」の話をしても詮無きこと、と言われそうだが、歴史における「イフ」ほど政治報道にとり大事なことはないと思っている。政治にとって大局とは何か、が問われた局面だった。
安倍氏がその風で首相の座についた、とは言わない。ただ、その対北強硬世論が安倍氏の政治家としての育ての親となり、近隣諸国との関係における日本中心・排外主義的世論としていまだに安倍氏を支えていることは間違いない。
安倍氏はそろそろ自ら敷いた路線の決着をつける時が来たのではないか。あれから14年。拉致問題は一歩たりとも進んでいない。一昨年合意した再調査も暗礁に乗り上げている。「拉致被害者の全員帰国」とする安倍氏の要求水準と北側の回答があまりにもかけ離れており、公表に至っていないようだ。拉致問題が前進しないことが、並行協議している日本人妻の帰国、遺骨返還といった他事業進展の妨げになっている、とも聞く。
もしそうだとすれば、これは拉致被害者とその家族、その他関係者に対する政治の不作為である。北から事実を引き出し検証する。どのような真実もしっかりと受け止め、この問題を最終解決に導き戦後処理まで歩を進める。「水爆実験」を奇貨として北を非難しているだけでは政治とは言えない。
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