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写真=ロイター/アフロ
「甘利さんは守る」盟友の危機に強気の安倍首相 株価も乱高下、国会審議は大揺れ必至
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/221102/012500152/?P=1
2016年1月26日 記者の眼 安藤 毅 日経ビジネス編集委員 日経ビジネス
1月21日発売の週刊文春が報じた甘利明経済財政・再生相の金銭授受疑惑が安倍晋三政権を大きく揺さぶっている。今週から審議が本格化する予定の2016年度予算案や、甘利氏が答弁を担当するTPP(環太平洋経済連携協定)関連法案審議への影響が必至のため、政府・与党内に懸念が広がっている。
■予算案・TPP審議への影響は必至
週刊文春によると、千葉県の建設会社が2013年に道路建設をめぐる都市再生機構(UR)との補償交渉で甘利氏側に口利きを依頼。見返りに総額1200万円を現金や接待で甘利氏側に提供したとしている。
「法に違反する行為はしていない。職責を全うする」。記者会見などでこう強調した甘利氏は世界経済フォーラムの年次総会(ダボス会議)に予定通り出席。今週中に会見を開いて調査結果を説明する意向を表明した。
降って湧いた敵失に活気づく野党は甘利氏の説明や独自調査などを踏まえ、疑惑を厳しく追及する方針だ。与党は今月29日から衆院予算委員会で2016年度予算案の実質審議を予定しているが、野党は甘利氏の対応次第では予算案の審議日程の引き延ばしも辞さない構えだ。
突然の「甘利ショック」に政府・与党幹部は頭を抱えている。今国会の会期は6月1日までだが、夏に参院選を控え大幅な延長は困難だ。
ただでさえ、政府は国会への提出を戦後最少の55法案に絞り込んでいる。予算審議が遅れれば、法案審議をさらに減らさざるを得なくなりそうなのだ。
特に影響が懸念されるのが、TPP関連法案だ。政府・与党は2016年度予算案が成立した後の4月以降、TPP協定案の承認と、農業対策を盛り込んだ関連法案の成立を急ぐシナリオを描いていた。参院選でカギを握る地方の1人区対策として農業重視の姿勢を一刻も早くアピールするためだ。
甘利氏は協定交渉の当事者で、自他ともに認める国会答弁の中心人物。だが、疑惑を十分に説明し切れないまま甘利氏が答弁に立てば、審議の停滞は必至だ。
TPP承認や関連法案の成立が大きくずれ込む事態となれば、参院選への影響も出かねず、安倍政権にとって痛手になる。自民のベテラン議員は「甘利さんでは国会審議はもたない。早く辞めた方がいい」と厳しい見方を示す。
2012年12月の第2次安倍政権の発足以降、「政治とカネ」を巡る問題が浮上するたび、首相官邸は政権への打撃を最小限にとどめようとスピード決着を図ってきた。
2014年10月に当時の小渕優子経済産業相と松島みどり法相をともに辞任させたのはその典型だ。だが、こうした対処とは異なり、今のところ安倍首相は甘利氏を続投させる姿勢を崩していない。
■甘利氏を強く慰留した安倍首相
政府関係者によると、記事が掲載される前の今月19日、国会審議への影響を懸念して辞意を表明した甘利氏を安倍首相が強く慰留したという。
「記事の内容に怪しい部分がある。甘利さんは守れると思う」。安倍首相は親しい関係者にこう漏らしている。
安倍首相が甘利氏を守り抜こうとしているのは、甘利氏が安倍首相の信頼する盟友であり、アベノミクスのかじ取りを担う政権の屋台骨だからだ。
甘利氏は第1次安倍政権で経済産業相として入閣。2012年に安倍首相が自民党総裁に返り咲いた総裁選では選対本部長を務めた。
第2次政権の発足以降は経済財政政策を取り仕切り、TPP交渉も担当。文字通り、アベノミクスの司令塔役を任じてきた。2013年末に舌がんの療養を理由に安倍首相に辞意を伝えたが、安倍首相の強い慰留で続投した経緯がある。
第2次政権発足以降、安倍首相は菅義偉官房長官、麻生太郎副総理・財務相、甘利氏の3閣僚を軸に政権を運営し、基本方針を決めてきた。
「俺と、菅と、甘利がしっかりしている限り、この政権は大丈夫だ」。麻生氏は親しい自民議員らに時折、そんなセリフを口にしている。
安倍首相を支えるキーマンの一人である甘利氏が閣外に去れば、安倍政権の生命線であるアベノミクスの推進力に陰りが出るだけでなく、政権内の微妙なパワーバランスに狂いが生じかねない。「今、甘利さんの代わりはいないというのが安倍首相の本音だ」と側近は解説する。
内閣支持率が回復傾向にあることも安倍首相を強気にさせている。今後、野党の追及を受けて多少の支持率低下を招いたとしても、政権の要を維持するほうが得策とみているのだ。
24日投開票の米軍普天間基地がある沖縄県宜野湾市長選で、政権が支援した現職の佐喜真淳氏が再選したことも、政権への批判を和らげるプラス材料と受け止めている。
だが、安倍首相の思惑通りに事が運ぶのかは見通せない。政府・与党内では甘利氏の調査報告を待って去就を巡る論議が進む見込み。政府関係者は「甘利大臣に不利な新たな事実がマスコミから出てきたり、野党の調査で明らかになったら、アウトだ」と危惧する。
■公明党の出方が焦点に
連立パートナーの公明党の出方も焦点となりそうだ。公明幹部は現時点では「甘利さんを交代させるリスクの方が大きい」と今後の推移を注視する構え。だが、政治とカネの問題は公明の支持層の関心が強いテーマだ。
「事態がさらに深刻化するようだと、参院選への影響を懸念する公明も甘利さんの更迭を求めるはず。選挙協力を取引材料にされるので、安倍首相もかばいきれなくなるだろう」。自民の閣僚経験者はこうした見方を示す。
悪いことは重なるもの。年明け以降の金融市場の混乱で円高・株安傾向が鮮明になり、アベノミクスの先行きに不透明感が漂ってきたことも政権にダメージを与えつつある。
市場関係者の間では、甘利氏の疑惑が政策運営への不安要素となり、株価乱高下の一因になっているとの見方も出ている。
日本は今年の主要7カ国(G7)の議長国だ。「強い経済」と、安定した政権基盤を背景に、5月末の主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)でリーダーシップを発揮し、世界経済の安定化などへ結束して取り組む姿勢をアピールする。その勢いのまま、参院選になだれ込む――。安倍首相のこんな基本戦略が揺らぎつつある。
すべては甘利氏の調査結果次第だが、野党の追及をかわせそうと判断した場合でも、甘利氏や政権側が丁寧に説明責任を果たす必要があるのは言うまでもない。
政治とカネを巡る問題は、「古い自民党」のイメージそのものだ。1つのつまずきが国民の不信感を呼び起こせば、安倍首相が実績として誇る経済・外交面の成果など、あっという間に吹き飛んでしまいかねないのだ。
「築城3年、落城1日。政府には常に国民の厳しい目が注がれている」
安倍首相は今年の年頭所感でこう強調している。政権中枢を直撃した今回の危機をどう収束に向かわせるのか。世論の動向を見据えた安倍首相の政治判断が注目される。
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