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甘利大臣が口利きしたURは「役人のパラダイス」! 国交省はこんなウソで民営化を避けてきた
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/47542
2016年01月25日(月) 高橋 洋一 現代ビジネス
■「ゲスの呪い」
甘利経済再生相の進退問題が、今国会で急浮上した。発端は、独立行政法人都市再生機構(UR)との補償に関して、建設会社から口利きを依頼され、その謝礼として甘利事務所が現金100万円を受け取っていた、と週刊文春が報じたことだ。それに関して「政治資金規正法違反」「あっせん利得処罰法違反」の疑いがあがっている。
今回の騒動は、「ゲスの呪い」ともいわれている。ゲスの極み乙女。とかかわった有名人に災厄が降りかかるというものだ。ボーカルの川谷氏と交際していたベッキーはCM打ち切りで大打撃、解散騒動が起こったSMAPも昨年9月に川谷氏が作詞作曲したシングルを発売している。甘利氏も昨年5月、「マイナンバー」をPRする記者会見で、ゲスの極み乙女。の歌を口ずさんでいたためだ。
いずれにしても、甘利氏が辞任するかどうかが問題になっているが、もし、URが政府関係法人でなかったなら、甘利事務所も口利きをできなかっただろうと考えると、なんとも残念である。今回問題になっているあっせん利得処罰法違反では、URのような政府関係法人は、口利きの対象として明確に規定されているからだ。
これまで何度も「URの民営化」は検討されていた。自民党政権ではもちろんのこと、民主党政権時代にも、だ。しかし、そのたびにURはしぶとく生き延びてきた。この意味で、行革に熱心に取り組んできた甘利氏も無念だろう。
そもそもURとはどのような組織か。独立行政法人という名を冠している政府の99.8%子会社である(0.2%は地方自治体)が、その性格は役員構成をみればよくわかる(http://www.ur-net.go.jp/aboutus/yakuin.html)。
理事長は上西郁夫氏。民間出身となっているが、副理事長には元国土交通省国土政策局長の花岡洋文氏が役員出向で入っている。また、理事長ポストは代々、旧建設省の次官クラスの天下り先になっていた。
さらに、理事長、理事10名のうち半分の5名が役人の役員出向である。役員出向は民主党政権になってお墨付きを得たもので、国家公務員のまま出向という位置づけだから、「天下りではない」との屁理屈になる。
本来はURの経営責任を担うべき役員なのに、本籍を国交省に残したままの出向とは奇妙ではないか。「国交省の植民地政策ですか」(本音はそうだ)と皮肉りたくなる。
役員出向は役人のままURに出向するのであるから、URは役所そのものといってもいい。だから、政治家やその秘書が口利きをしやすくなるのだ。民営化されていれば、というのはそういう意味である。
■URは「役人のパラダイス」だった
URの歴史をみると、81年に住宅・都市整備公団、99年に都市基盤整備公団、04年に都市再生機構と看板を替えてしぶとく生き残ってきた。またURは、経営陣が事業失敗の責任もとらずにパラダイスを謳歌してきたことでも悪名高い。
2000年代の初めにURはニュータウン事業に失敗、9000億円の赤字を出したことがある。驚くことに、当時の財政投融資特別会計にあった「埋蔵金」で密かに穴埋めが行われた。金融テクニックを駆使したうえ、人事上の目立った処分もなかったので、マスコミにも騒がれずに、密かに危機を切り抜けたのだ。
URは都心一等地に高額賃貸マンションを所有しており、国の事業として必要なのかどうかという批判が根強い。何度も民営化が検討されてきたが、そのたびに上手くかわしてきた。
民主党時代の2010年4月の事業仕分け第二弾でも「市場家賃部門は民間に移行」となり、具体的には賃貸住宅や関連施設の維持・管理などを行う賃貸住宅事業について、高齢者・低所得者向け住宅は自治体または国へ、一般の市場家賃部門の住宅は民間へ売却するとの結論が出された。
しかし、その後、URには巨額な借金があるから民営化はできないという理由で、国交省は抵抗した。かくして2010年10月の事業仕分け第三弾では、議論の対象から外され、国交省の方針がそのまま政府の方針になったのだ。結果として官僚たちの大勝利だ。
ただし、こうした官僚の粘り腰でURが生き残ったのは、自民党政権下でも同じだ。2007年の福田政権でも、URは民営化寸前まで押し込まれたが、それを跳ね返している。
■ここでもウソをつく役人たち
国交省の使う手口はいつも同じである。「借金がある」というのだ。だが、この説明はおかしい。URの16年度末バランスシート(貸借対照表)をみれば、12兆8000億円の負債に対し資産が13兆8000億円もあって資産超過なのだ。負債だけ強調して資産をいわないのはフェアではない。
ここまで読めば、昨年筆者が書き、今でも読まれている「「日本の借金1000兆円」はやっぱりウソでした〜それどころか…なんと2016年、財政再建は実質完了してしまう! この国のバランスシートを徹底分析」(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/47156)とまったく同じ構造であることがわかるだろう。
借金1000兆円で増税が必要と国民に思わせて、裏では官僚がしっかり資産を抱え込んで離さない。資産の多くは天下り先である独立行政法人などへの貸付金や出資金で、天下り先への事実上の資金提供なのだ。だが、絶対に手を触れさせまいと借金だけ強調する。
そして、民営化できないというが、その真の意味は「民営化したくない」である。ここは、官僚任せではなく、実は政治家が判断すべきものだ。
バランスシートを見ても、民営化の可否はある程度判定できるが、実は民営化の判定に有効なツールとして、財務省が公表している「政策コスト分析」というツールもある。私が旧大蔵省理財局時代に米行政管理予算局のPolicy Cost Analysisを参考にして導入したものだ。
これはキャッシュフロー分析で時価評価のバランスシートを作る作業に似たものだ。試算されている数字の意味をいえば、結果がプラスなら税金投入が必要だが、マイナスになると逆に税金投入なしで儲かって事業ができる可能性があるということになる。
2015年度の財務省の政策コスト分析結果はマイナス3兆2000億円で、民営化可能と示唆されている。この結果は、国交省が言うように高齢者向けに政策的な住宅供給を続けたとしても、高家賃の賃貸住宅事業でそのコストを補って余りあるのだ。
■政局もいいが、これを機会に民営化を
URの負債12兆8000億円のうち12兆円は出資金と財投からの借入金、つまり国からみれば資産なのだ。URを民営化すると、国の借金12兆円と国の出資・貸付金12兆円は両落ちになって、国の借金は帳消しになる。なので政府関係法人の民営化は財政健全化に欠かせないのだが、官僚は天下り先を失うので猛反対する。
しかも、民営化すれば、民間活力のアップで成長戦略にもなる。なにより、今回のような、政治家の口利きを未然に防止することにもつながる。
週明け、国会は甘利氏の口利き問題で、辞任の大合唱になるだろう。2月4日、ニュージーランドで開かれるTPP交渉調印式に甘利氏が出席するという情報もあるが、出席するなら、「花道」となるだろう。なにしろ閣僚の外遊は国会マターであるので、外遊後の段取りができてからでないと無理だからだ。
ただ、そうした政局ではなく、冷静に政策を語りたい筆者としては、この機会に、URを含めた政府関係法人の民営化を断行し、財政健全化、成長戦略、政治家の不正予防、官僚の天下り根絶という、「一石四鳥」をやってはどうだろうか。民営化に反対する政治家は、ひょっとして「口利き」を続けたいからではないか、と国民は考えるべきだ。
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