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破綻しているアベノミクスを「この道しかない」と言う総理のオツムー(田中良紹氏)
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14th Jan 2016 市村 悦延 · @hellotomhanks
国会では平成27年度補正予算案の審議が始まった。
衆議院の委員会審議を見ていると、
安倍総理は安保法の審議の時と同じように野党の質問からズレた答弁を繰り返し、しかも終始ケンカ腰である。
本人のオツムはそのようにできているのかもしれないが、
それに拍手を送る自民党議員を見ると、
かつて自民党を担当した政治記者としてはため息をつきたくなる。
政治のスケール感、政治の持つ深みがまるで違う。品性が感じられない。
そして危惧するのは、既にアベノミクスは破たんしているのにそれを認めず、
逆に胸を張る総理の虚勢である。
「アベノミクスの成功でバブル期を上回る雇用環境が生み出された」と言い、
さらに「この道しかない」と言い切るのは、
かつての大本営が「退却」を「転戦」、「全滅」を「玉砕」と言い換えて確実に負ける戦争を継続したのと
良く似ている。
大体が「この道しかない」と言いきるのはオツムのよろしくない人間に多い。
賢い人間は様々な選択肢を用意し、
一つの方向が無理だと分かれば速やかに第二、第三の道をめざして一つに固執しない。
フーテンは長らく米国議会を見てきたが、議論を見ていて最も興味深かったのは、
彼らはどんな問題でも「A案、B案、C案、D案」というように必ず複数案を示し、
それぞれのメリットとデメリットを並列する。「この案しかない」とは決して言わない。
それを言えば議論にならず、複数案のメリットとデメリットが並列されて初めて議論は成立する。
ところが日本の国会は政府与党と野党が正反対の主張をして平行線をたどり、
最後は数の論理で政府与党が押し切る。これが最近の傾向である。
しかし昔はそうではなかった。昔の自民党は政府案に対する活発な議論をまず党内で行い、
そこでは当選年次も役職も関係なく侃侃諤諤の議論が保証される。
従って国会に提出される法案は与党内で揉まれ、次に国会で野党の要求を聞いて修正する。
昔の自民党は法案に必ず野党の要求を受け入れる「のりしろ」を残した。
国会は野党の顔を立てる場と位置付けられていた。
米国議会が必ず複数案を比較検討するのは、
おそらく子供の頃からの教育による。フーテンはかつて会社を経営したが、
そこに幼少から米国で教育を受けた社員がいた。
会社が新しい備品を購入する際、彼は必ず複数案を示してそのメリットとデメリットを並列した。
日本で教育を受けた社員は最善と思われる備品だけを推薦する。
経営者としては複数提示された方が比較検討できて判断しやすい。
政治でも複数の案を議論してもらった方が国民は納得できる。
おそらく民主主義に対する考えの違いもそういう所にある。
日本は世の中を白か黒で判断し正しい政策を求める。
米国では世の中を灰色と考え、灰色の濃さの違いを説明する事が大事だと教える。
正しい政策があるのではなく、誰かに良い政策は誰かに悪い。それを子供の頃から考えさせるのである。
さて安倍総理は国会でアベノミクスの成果に胸を張る事に必死だ。
中でも「地方の有効求人倍率がバブル期よりも上回ったのは
アベノミクスによる景気回復のおかげだ」と言ったのには驚いた。
雇用の改善は景気が良くなったからではない。団塊の世代が退職し、
人口減少に歯止めがかからないため、日本は構造的な人手不足に陥っている。
地方には若者が都会に流出するという事情もある。
それを「景気回復のおかげ」と見るオツムをフーテンは疑う。
まともな国家運営に向いたオツムではない。
アベノミクスが華々しく登場した時、
米国のローレンス・サマーズ元財務長官は「3年経てば評価が分かる」と言った。
フーテンはトリクルダウン経済を世界で最初にやったチリのピノチェト政権が
最初は「奇跡」と誉められたが3年経つと失速した例を示し、同様に「3年経てば分かる」とブログに書いた。
そして3年が経った。日銀の金融緩和で円安と株高は進んだが、
しかしリーマンショック後の不況は民主党政権時代に回復していたと内閣府は発表した。
景気回復がアベノミクスによると見るには無理がある。
経済成長率も民主党政権時代の平均プラス1.7%に対し平均でプラス0.9%と下回る。
そしてアベノミクスの目標であった物価上昇と輸出増加は実現していない。
しかし大企業の収益だけは過去最高となった。原油安と円安効果のおかげである。
ところがそれが賃上げや設備投資に回らない。大企業は将来を楽観しておらず、
だから貯め込む一方になり、全く前向きになっていない。
構造的な人手不足は完全雇用を成し遂げ賃上げ要因になる筈だが、
それがパートや高齢者の短時間労働者を増やすだけになっている。
そして毎月10兆円の長期国債を買い続けてきた日銀の異次元緩和も弾切れになってきた。
しかし「この道しかない」という総理の下では2%インフレを達成するまで国債購入を続けるしかない。
その結果長期金利が上昇すれば日本の財政は巨額の赤字を抱えて破たんの淵に追いやられる。
つまりアベノミクスは都合の良い数字を都合よく解釈して最後は将来世代にツケを支払わせるのである。
安保法成立後に支持率を上昇させるために打ち出した「新・三本の矢」は、
出生率1.8%や介護離職者ゼロなど実現不可能な「努力目標」を打ち出したが、
しかしそれはアベノミクスが企業重視だけでは駄目だと考えたための方向転換である事を物語っている。
問題はそれがきちんとしたアベノミクスの検証もないままに行われようとしている事だ。
こっちでうまくいかなくなると何故うまくいかなかったかを考えずに場所だけをあっちに移す。
そして「この道しかない」と言い募る。
そのやり方は負けるべくして負けた戦前の軍部とまるで同じとフーテンの目には映っている。
日本の戦後政治は戦争の反省も踏まえ、それほど単純かつ低レベルではなかった。
しかし「この道しかない」と野党にケンカ腰になる総理を見ていると、
「戦後は遠くなりにけり」との感慨を抱いてしまうフーテンである。
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