http://www.asyura2.com/16/senkyo199/msg/573.html
Tweet |
[中外時評]危うい賃上げ継続 環境変化に後れ取る労組 論説副委員長 水野裕司
今年も前年を上回る賃上げへの期待が高まるなか、春の労使交渉が始まる。だが出だしから肩すかしを食った感がある。自動車、電機などの産業別労働組合から成る金属労協が決めた賃金改善(ベースアップに相当)の要求方針は、2015年の「月額6千円以上」の半分の「3千円以上」にとどまるからだ。
賃上げ要求が弱気になったのは、物価を踏まえて要求を組み立てているためだ。生鮮食品を除く消費者物価指数は原油安の影響で10月まで3カ月連続で前年比マイナス。15年の「6千円以上」の要求は物価上昇が裏付けになったが、今回は物価の伸び悩みから大幅な賃上げ要求は控えるかたちとなった。
賃上げで消費を刺激し、企業の投資を引き出して経済を元気にしようというときに、労組の方から要求を抑えるのは何ともわかりにくい。
1955年に「春闘」が始まって以降、物価を翌年の賃金に反映させる方式が定着してきたが、これが意味を持ったのはインフレ時代だ。時代の変化に合わせ要求方式も変えてしかるべきだが、慣行にとらわれているといえる。
変化に労組がついていけていない点はまだある。要求額の足並みをそろえる「統一闘争」もそうだ。企業の業績にばらつきがあると要求が低めに抑えられ、好業績企業では獲得できたかもしれない高めの賃上げを逃しかねない。
限界がみえるのが電機・情報産業の統一闘争。グローバル化やデジタル化の波に乗れたかなど経営の巧拙によって業績格差が拡大している。
統一闘争は業績が苦しい企業の経営者を賃金交渉の土俵に乗せる効果があるとされるが、過去には業績悪化でパイオニアやシャープが離脱した。統一闘争の機能は薄れ、堅調な企業の賃上げの足を引っ張っている懸念が強い。
自動車や電機大手がリード役になり、その賃上げを全体に波及させるというパターンも実態とのズレが生じている。自動車、電機の賃上げが波及しやすい製造業は就業者数が減り、サービス業の従事者が増えているからだ。
厚生労働省の雇用政策研究会は、経済成長が進まないなどの場合、30年には医療・福祉分野の就業者数(910万人)が製造業(874万人)を上回ると推計する。産業構造は刻々と変化しているが、製造業に比べて見劣りするサービス業の賃金水準の底上げは力強さを欠いている。
継続的に賃金を上げていくために労組には環境変化に柔軟に対応する力が求められる。企業によって戦う市場も戦略も収益力も多様化した今、横並びの要求ではなく、それぞれの企業の労組が賃上げの最大化に努めるしかない。
問われるのは上場企業で約100兆円にのぼる手元資金の活用など経営者の力量だが、企業の成長力を高めるために雇用改革などで労組が協力できるところは多い。
10年に8200万人弱の生産年齢人口(15〜64歳)は27年に7千万人を割るとされる。一方、企業の成熟分野からの撤退が進み、「社内失業」状態の社員が急増しかねない。リクルートワークス研究所は事業活動に活用されていない「雇用保蔵者」が、15年の401万人から25年に497万人に増える可能性があると予測する。
労働力不足は企業の成長を妨げ、余剰人員の増加は生産性を下げる。ともに持続的な賃金上昇には取り払わねばならない問題だ。両面の対策について、各企業の労組は賃金論議のなかで、経営側と意見を戦わせてはどうか。
社内失業対策は新しいスキル(技能)を身につける教育訓練の充実が基本だ。配置転換が進めば労働力不足を補う効果もある。社員が他企業に移って力を発揮する道も用意する必要がある。40代までを雇用契約の区切りとする制度も選択肢の一つになる。
労働力不足対策では長時間労働を改めて女性や高齢者が働きやすい環境をつくることが第一。重要なのは生産性を高める視点だ。非正規社員のスキル習得を支援し、待遇を改善しながら付加価値の高い仕事をしてもらうべきだ。
専門性の高い外国人など外部人材を採りやすくする人事制度改革も途上にある。年功制の廃止も管理職にとどまっている企業が多く、まだ甘い。大企業の初任給に業種や企業間の格差があまりないのも海外からは奇異に映る。
労使で議論すべきテーマは山積している。政府の賃上げ要請で「官製春闘」の呼び名が生まれ今年で3年目。労使で持続的な賃上げの環境を整えられないなら、政府が圧力をかける隙をつくるだけだ。
[日経新聞1月10日朝刊P.10]
投稿コメント全ログ コメント即時配信 スレ建て依頼 削除コメント確認方法
▲上へ ★阿修羅♪ > 政治・選挙・NHK199掲示板 次へ 前へ
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。