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若者が担う民主主義とは 生き方反映、今年が正念場
東京大学教授 宇野重規
18歳選挙権が実現し、安全保障関連法に反対する大学生らのグループ「SEALDs(シールズ)」の活躍が目立った2015年。そう書くと、昨年は、若者による民主主義にとって大きな前進の1年であったように思える。とはいえ、本当にそう言い切れるのか。判断を下すためには、今年の展開を見てみる必要があるだろう。
今夏の参院選からさっそく18歳選挙権が施行される。とはいえ、年代別に見た場合、20代の投票率はけっして高くない。近年の国政選挙においても、30%台と低空飛行を続けている。ただでさえ数の少ない若年層が投票に行かないならば、ますますその声は政治に届きにくくなる。
SEALDsについても、真価が問われるのは今年である。昨夏の盛り上がりが瞬間風速に終わり、その後の活動がしりすぼみとなるならば、歴史の1つのエピソードとなってしまうかもしれない。学生を主体とする運動だけに、学業や就職活動が大切なのは言うまでもないが、今後どうすれば持続的に活動を続けていけるかが問われている。
●素朴な問題意識
若者と民主主義について考える上で、ヒントになりそうな本がある。まずは高橋源一郎/SEALDs著『民主主義ってなんだ?』(河出書房新社・15年)である。SEALDsのメンバーと作家の高橋源一郎による座談会は、SEALDsの活動がどのようにして始まり、彼らが何を考えているかをよく示している。
間違いないのは、SEALDsの活動が一朝一夕に生まれたものではないことだ。政治に対する素朴な問題意識をもった若者たちが、ぶつかりながらも、ユーモアと現代の若者らしいセンスをもって成長してきた結果が、この組織である。彼らの言葉には、独特な説得力と魅力がある。
「民主主義が終わっているなら、始めればいい」など、最たるものだろう。高みに立って民主主義を批判したり、逆に絶望のあまり「民主主義は終わった」と口にしたりする人は少なくない。これに対し、「また始めればいい」と言える感性がまずいい。民主主義は単なる制度ではない。人々が日々始めるのが民主主義だということを思い出させてくれる言葉である。
キャッチフレーズも、複数形の主語で「我々は平和を愛し」と声をあげるのではなく、「俺はムカついている」というように個人的な思いとして示す方がいい、という指摘も面白い。立憲主義の重要性を説く場合も、「テーブルの上で語るだけではなく、そのテーブル自体が何かも考えないといけない」という比喩が斬新である。
SEALDsの活動は教条的な原理から出発したものではない。何が真理かはわからないが、とりあえず素朴な疑問や危機感から出発し、試行錯誤のなかで、自らの言葉と活動を磨いていく。必ずしも一枚岩の運動ではないが、異なる立場を許容しつつ、多様な信念を実践のなかで検証していく。これはまさにプラグマティズムのスタイルといえる。
●哲学からの発見
近年あらためて注目を集めているプラグマティズムの思想について、若い世代の研究者による絶好の本が出た。大賀祐樹著『希望の思想 プラグマティズム入門』(筑摩書房・15年)は、しばしば思想なき実用主義として理解されるこの思想が、むしろ異なる信念の対立を乗り越えようとした、若き哲学者たちの生んだ思索の結果であることを教えてくれる。
南北戦争はアメリカ史上、もっとも悲惨な内戦であった。そこで傷ついた若者たちが、それでも自らの信念をもって行動していこうとしたとき、独善性を排し、あくまで現実の活動を通じて信念を問い直していくことを説いたのがプラグマティズムである。それは「生き方としての民主主義」を説く希望の思想であるという本書の主張は説得的である。
もちろん、国会前での運動だけが民主主義ではない。多くの若者はむしろ、自室やカフェにおいて、携帯電話やスマホに向かって自分の思いをぶつけているのかもしれない。それもまた民主主義であろう。
ネット上にちらばった多様な言葉やデータのなかにこそ、人々の民意が存在する。ルソーの思想を、現在のIT(情報技術)社会と結びつけて論じた東浩紀著『一般意志2.0』(講談社・11年)の問題提起は、いまだに新鮮である。
若者と民主主義は日々、進化しているのかもしれない。その行方を考える上で、これらの本はいずれも読んでおいて損はないはずだ。
[日経新聞1月10日朝刊P.19]
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