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2016年01月04日
現代ビジネスに筆者は寡聞にして知らないが、ジャーナリスト・竹田圭吾氏の“ 2016年、国際情勢はこうなる 〜私たちが直面する「日本外交の課題」は何か ”というコラムを読んだ。特別トンチンカンなことは言っていない。様々な政界情勢の情報をまとめると、こんな具合のコラムになります、と云う見本のようなコラムだが、まあまあ纏まっているとも言える。池上彰の弟のようなコラムなので、まったく毒がない点は、長所であり欠点なのだろう。
竹田氏のコラムに触発されて、筆者の“国際情勢はこうなる、日本の外交は?”と云う観点を、2016年に限定せず、長期展望で、見立てを好き勝手に書いてみようと思った。無論、第六感に任せている面が多分にあるので、必ずしも説得力はない(笑)。
直近の2016年の世界は、おそらく、米国大統領選の年でもあり、大きく動けないイメージ中心の空中戦と膠着状態の一年になるのだろうと見立てている。おそらく、アメリカの大統領選は、共和党の有力候補が未だにトランプ氏状態となると、ヒラリー・クリントンがアメリカ初の女性大統領になる可能性が高いだろう。しかし、両議会は共和党が握っている状態が継続するので、ヒラリーが独自色を、どこまで出せるか、大きくクエスチョンマークがつく。同時に、米国内の格差拡大は止めようがないだろうから、覇権国家としての振舞いにもクエスチョンマークが濃厚に記される一年になる。
米国の力の源は、そこそこのアメリカンドリームを成就した「中間層」の分厚さにあったわけだから、その人口層が、1%の富裕層と99%の貧困層に分離されてしまったのだから、“衣食足りて礼節を知る”状況から、益々遠ざかるわけで、アメリカンデモクラシーの崩壊と、国力の低下は決定的色彩を強めることはあるが、弱める材料は殆どない。わが国でも「TPP」にバラ色を見ているのは経産省の一部役人くらいで、経済界の思惑もまだら模様になっている。アメリカが、貿易云々で利を得られるような健全性を既に放棄しているのだから、「TPP」などは、マスターベーションの類に分類される協定に過ぎないし、いつ議会承認が得られるか、まったく霧の中である。
覇権国と云う観点から観察すると、第二次大戦後の米国には、軍事力、政治力、経済力、文化的影響力など総合国力において圧倒的に優越が実存したので、自他ともに認める覇権国であっただろう。ソ連邦の崩壊と云う現象で、世界は、これでアメリカの覇権は揺るぎないものと宗教のように信じた時期が続いた。しかし、アイゼンハワーが言い残したように、軍産複合企業に気をつけろ、彼らがアメリカを滅ぼすと言った事は現実となり、意味のない地域における諍いに火をつけ、マッチポンプ方式で、正義の味方を自作自演している内に、国力を完全に費消した。好事魔多し、の典型例だ。
この軍産複合企業の飽くなき市場醸成要求に抗えなかったアメリカの政治は、双子の赤字を抱え、四苦八苦する羽目に陥るのだが、その弥縫策の限りを尽くした結果が、金融資本主義への猛烈な傾斜とグローバリズムである。軍産複合企業の欲望に応じるうちに、アメリカから生産性が失われ、ドル基軸で行い得る弥縫策の限りを尽くした。そして、政治力、文化的影響力を誇示しようとするあまり、アフガン、イラク、北アフリカ、ウクライナ、シリアと火付け盗賊の役割をサウジ、イスラエルを引き込む形で演じ、火消し役も買って出たのだが、お相手が悪すぎた。デモクラシーや自由主義とは異なる価値観を持っている連中を屈服させようとしたのだから、無謀過ぎた。
Wスタンダードが、何時までも通じると思ったのには、東西冷戦の終結を、アメリカンデモクラシーの勝利だと勘違いしたことから起きたのだろうが、取り巻き連中(日・韓・イスラエルを含む西側属国)も、揉み手しながら、親分親分と煽てたものだから、もう地球上に敵はいない。居るとしたら、宇宙人に違いないと思いこんだのだろう。覇権国の要素である軍事力や政治力は現存しているが、政治力は相当に傷ついているので、軍事力だけが残っていると言っても過言ではない。しかし、軍事力だけなら、ロシア・中国(核保有と使用意志)の軍事力も侮れないわけで、飛び抜けているとも言い難い。
グローバル経済戦略を企てたアメリカ経済だが、ドル基軸に頼り過ぎたのだろう。気がついてみたら、GDPで中国に抜かれるのは必然だし、インドにも抜かれるのが、必然になりつつある。では、経済力をアメリカよりも保持した中国やインドが覇権国になるかと考えると、社会構造的に、覇権国となるべき他の要素が欠落している。つまるところ、アメリカを含めて、どの国家も覇権国としての構成要件をこと欠く時代が訪れたと考えておくのが、世界の妥当な流れだと言える。
竹田氏が「連」というワードと「散」と云うワードを提供しているが、最終的な言い方をすれば「離合集散」と云う言葉が適時適切で、これから暫くの世界の歩き方は、決めつけて歩かない。常に「離合集散」出来るスタンスを、どれだけ保てるのかが、国のかじ取りをする人間の、最大の務めになるだろう。現状の日本で言えば、如何にして、中国・インド・ロシアと関係性を保つかが重要で、アメリカ基軸に身を委ねすぎることは、完全な間違いだろう。このスタンスと長期政権をごっちゃにして政権を維持しようという安倍官邸の片肺飛行は、20年以内に、ババを引いたと非難されることだけは確かだ。自らの首を覚悟で、ロシアに塩を送るくらいの芸当をやって退陣したら、名宰相と永遠に語り継がれるだろう。
≪ 2016年、国際情勢はこうなる
〜私たちが直面する「日本外交の課題」は何か
2015年の国際情勢を漢字一文字で表すとすれば、どんな字がふさわしいだろうか。ギリシャの財政難、ヨーロッパの難民危機、過激派組織「イスラム国」(IS)やテロとの戦いの苦難などを考えれば、それこそ「難」が無難だろう。 しかし、僕はむしろ「独」という字を選びたい。ミャンマー総選挙におけるアウン・サン・スー・チー率いる野党・国民民主連盟(NLD)の勝利は、無血の「独立革命」が成就されたと言っていい。
■ドイツの存在感が際立った2015年
アメリカとキューバの国交回復とイラン核交渉の合意は、キューバとイランが「孤独」から抜け出したという点で歴史的な意味を持っている。一方で、南シナ海で人工島の造成を急ピッチで進める中国の「単独行動主義」がますます目立ってきた。
そしてもちろん、「独」はドイツの独でもある。米タイム誌がパーソン・オブ・ジ・イヤー(今年の人)にメルケル首相を選んだように、2015年の国際情勢におけるドイツの存在感は際立っていた。
ドイツが突きつけた緊縮策に抵抗するギリシャの財政危機問題、シリアから押し寄せる難民について話し合う場の中心には常にドイツがいて議論を支配。 ウクライナ問題では対ロシア経済制裁でEUの足並みを揃えさせ、パリ同時多発テロ後のISへの空爆では本格的な軍事協力と第二次世界大戦後で最大規模の海外派兵を即決した。
ドイツのそうした極端なプレゼンスの膨張は、さまざまな問題にスピーディーに解決の糸口をつけたという点で評価され歓迎される一方、独善的、独裁主義的な手法との指摘も受けている。
フランスの経済学者トマ・ピケティは、敗戦国としての債務を第一次大戦後も第二次大戦後も結局は返済しなかったドイツに、ギリシャの債務減免を拒む 資格などあるのかと批判した。難民を大々的に受け入れて称賛を浴びたが、国内の地方自治体が悲鳴を上げ、メルケル首相の支持率が就任後最低にまで下がると今度は制限策を打ち出し、手のひら返しに国際社会はあっけにとられた。
ウクライナ問題とギリシャ債務問題への対処に同時に奔走した5月、メルケル首相がわずか一週間にモスクワ、ワシントン、ブリュッセルなど11都市、 行程にして計2万キロを飛び回るシャトル外交を展開したように、ドイツのアクションは鮮やかと言うほかない。しかしスペインの首相が「ドイツの植民地になるつもりはない」とまで語ったように、そこにはEUの分断を招くリスクも潜んでいる。
ミャンマーやキューバ、イランにおける変化は、孤独からの解放という意味で総じてポジティブな効果を見出すことができる。
それに対して、ドイツが突出することでヨーロッパの結束が乱れ、それがシリア問題、ユーロ圏の債務危機への今後の対処に微妙なブレをもたらせば、アメリカやロシア、イギリスだけでなく、日本や中国、国連やIMF(国際通貨基金)、世界銀行、NATO(北大西洋条約機構)にとっても頭痛のタネになる。
ドイツの「独」が単なる国名ではなく、孤独や独善を意味するものにもなりかねない。
■「連ならない」ことへの恐怖感が広がった
2015年の状況を踏まえると、2016年はどんな漢字一文字で表すことができるだろうか。考えられる文字は二つあり、そのうちの一つは「連」だ。
象徴的なのは、年の瀬にパリで行われたCOP21(国連気候変動枠組み条約締約国会議)の成功だ。二酸化炭素排出量の多い国々同士の間、物理的な影響が少ない国々と国土水没の危機にさらされる国々の間で妥協が生まれた。
京都議定書後のエゴにまみれた空白を埋めた点で歴史的と呼べる合意に達したことは、国際社会が「連なる」の重要性を強く意識し始めたことを示している。
パリ同時多発テロ後にフランスが呼びかけた対IS空爆への参加では、2013年のシリア空爆の際にはアメリカへの義理立てを断念せざるを得なかったイギリスが、今回は多くの野党議員も票決で賛成に回って空爆参加を即決した。良くも悪くも、連合体を形成することへのアクションのスピードが速まっている。
中国とて、AIIB(アジアインフラ投資銀行)の参加国に英仏独まで連なったことや、IMFがこれまでドル、ユーロ、ポンド、円に限っていた準備通貨に人民元を組み入れ、人民元が国際的な主要通貨としてお墨付きを与えられたことを思えば、金融界の重要な「連合」をマネージする国としての責任をさらに 厳しく問われるだろう。
TPP(環太平洋パートナーシップ協定)において、交渉が妥結に近づくにつれて慌てた韓国などで参加を求める議論が高まったのも、「連ならない」ことへの恐怖感が広がっている証と言える。
2016年は、そうした2015年の世界全体のパラダイムシフトがさらに加速する「連」の年になる可能性がある。
2016年を漢字一文字で表す文字を予想した場合、もう一つの候補は「散」だ。2015年に「独」と「連」で形容できる変化が著しかった結果として、その反動から分散、拡散、散乱が広がるというシナリオだ。
■分散と散乱のリスクをはらむシリアとIS
一皮むけばすでに分散と散乱が巣食っているのがシリアと対ISの問題だ。有志連合による空爆にはサウジアラビアも参加し、12月にはシリア情勢全体の解決に向けてアメリカとロシアが一致団結する姿勢を示してみせた。アサド政権に影響力を持つイランまで連なるという豪華布陣だ。
しかし内実は、サウジは自国からISへの人材と資金の流出を黙認しているし、ロシアが積極関与に乗り出したのも問題解決の主導権をアメリカに奪われるのを恐れてのことに過ぎない。
テロがパリやロンドンを直撃すれば、国民の反発を受けたフランスやイギリスはすぐさま空爆から離脱するかもしれない。IS包囲網の連合体は、いつでも散り散りになる可能性をはらんでいる。
連なることへの意識の高まりは一方で、そのリスクを顕在化させた。TPPが大枠合意まであれだけこじれたのは、連なることが「縛られる」ことを意味 すると感じ取った農家や自動車業界、中小国の政府が反発したからだ。アメリカなどで議会批准が危ぶまれていることを考えれば、まだまだ散乱の段階にあると言える。
COP21のパリ合意も、自主的な努力目標であるという点では不完全なものに過ぎない。排出量が膨大な国や経済規模の大きい国が努力を目に見える形で果たさなければ、COPという枠組み自体が今度こそ胡散霧消するだろう。
■オバマ政権が陥った「決められない政治」
もう一つ、国際情勢に不安定要素を拡散させそうなのが2016年11月に迫ったアメリカ大統領選の成り行きだ。
過去2回の大統領選でキリスト教保守派やティーパーティーに振り回されて敗北した共和党は、マイノリティー層有権者の取り込み、アングロサクソンの 党というイメージからの脱却という長年の課題を克服できず、イカれた発言を繰り返すドナルド・トランプに乗っ取られたまま予備選を終えようとしている。
過去2回のパターン通り、本選では中道の民主党候補(今回はヒラリー・クリントンが有力)が勝つにしても、トランプとその支持者の影響力は議会に残る。オバマ政権は議会との対立調整に手こずり、内政でも外交でも「決められない政治」に陥った。 その状況が続けば、アメリカの信用力と影響力はさらに低下し、国際情勢は地政学的なパワーが拡散する多極化の時代に突入して、問題解決プロセスは複雑化・スロー化を免れないだろう。
■日本は「連なる」ことへの意思を世界に示すべき
では、2016年が「連」の年になるにせよ「散」の年になるにせよ、日本は状況にどう向き合うべきなのだろうか。
地球を俯瞰する外交を掲げ、3年間で86の国と地域を訪れた安倍総理の姿勢は、日本のプレゼンスを格段に高めた点で評価されていい。長期政権が担保されているのも、日本に対する信用力をアップさせている。問題は、そうしたプラス材料が「連なる」ことにほとんど結びついていないことだ。
尖閣諸島への中国の挑発的な行動に対する日本の反応は、周辺国と日々緊張状態にある国々の目には甘すぎると映る。ウクライナ問題で対ロシア経済制裁 をためらわなかったことは、安倍総理とプーチン大統領の太いパイプを詰まらせ、北方領土問題解決への歩みを足踏みさせた点で外交戦略として疑問も残る。 TPP交渉をアメリカとともに牽引し、AIIBにはアメリカとともに参加しないのも、単なるアメリカ従属にしか見えないだろう。
日本はもう少し、目に見える形で「連なる」ことへの意思を世界に示すべきだと思う。例えばシリア問題では、テロの標的になる可能性を高めるだけの形式的な軍事後方支援ではなく、シリアやイラクの難民を3万人、日本が受け入れると宣言してはどうか。
日本は難民問題に無頓着というイメージとのギャップがあるため、国際社会からは歓迎され評価されるはず。財源が問題だが、受け入れる以上はスウェー デンやドイツのように語学習得、職業訓練、生活費支給を行わなければ意味がないので、難民1人当たり最低50万円はかかるだろう。
それでもトータルでは150億円で、イラク戦争時の派遣に970億円かかったことと比較すればずっと費用対効果が高い。反対する野党はいないだろうし、負担が大きいのは自治体だが、企業や個人による費用面・人材面・インフラ面での支援や寄付も日本の場合は大いに期待できる。
連なることで日本も当事者であるとはっきり示す、あるいは連ならないことで「散乱」の状況に臨機応変に対処する――。それを自らの判断と意思で行うことが重要だ。安倍総理と連立政権には、地球を俯瞰するだけでなく「ときに地上へ降りて難局に顔と口を出す」外交を望みたい。
*竹田圭吾(たけだ・けいご) 編集者/ジャーナリスト。1964年、東京都生まれ。慶應義塾大学文学部卒業後、スポーツ雑誌でアメリカのプロスポーツを取材。93年 に『ニューズウィーク日本版』に移り、2001年から10年まで編集長。04年以降、テレビのさまざまな情報番組やニュース番組のコメンテーター、ラジオ 番組のナビゲーターなどを務めている。Twitter: @KeigoTakeda ≫(現代ビジネス:オトナの教養―竹田圭吾・賢者の知恵)
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