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ローリングストーンズが日本をどさまわって稼ぎはじめたのは、ビートルズ来日から
四半世紀近くたった平成２年の話で、もう中心人物は５０に手が届く年齢だった。
まだやってたんかい。
もうそことき、ストーンズは私にとって過去の歴史でしかなかった。あのイギリスの
人たちはあくまであの愚鈍な彼らの玩具だ。
しかしその数年前には、「オレのストーンズ」だった頃もあり、中学時代の私に
とってはローリングストーンズが世界の中心だった時期も半年ほどは続いたのだ。
プリミティブ・クール。そう、ミックジャガーのセカンド・ソロ・アルバムがでて、
はじめての来日公演が現実化する軌跡となったあの夏の終わり。私は勉強もスポーツも
恋愛も遊興もなにもしていない植物人間のような中学生だったが、それでも
ローリングストーンズがいたのだ。どちらかといえばキース派だったのだが、
キースのファーストより先にでて発売日に手にしたミックのセカンドアルバムに夢中に
なった。
大阪。
ミックは大阪城ホールに来ることがきまった。これだけ人がみたくなったことは
なく、ライブ初体験はイギリス人のオッサンに捧げることが嬉しくてしかたなかった。
しかし、引きこもりの障害を持つティーンにとっては「大阪に行く」ことが現実の
展開の中では起こりえないことなのだった。私は結婚をした相手にもそのときの心境を
事細かに説明してみたのだが、全く理解されることはなかった。
ミックジャガー大阪公演を伝えるローカルTVのニュースをみていると、団塊世代の
グループにもかかわらず学生風の客も並んでいて、レポーターはその中でも若い男を
つかまえてインタビューをした。
彼は学校帰りの高校生だった。制服が事実上ない神戸の甲陽学院の生徒で、
「この場にいれることだけで光栄です」などとオタクズレした人格をさらけ出していた。
「高校生だって！」と大袈裟に驚くくだらない大人たち、俺は中２なんだって。
人込みにまぎれてこんなもの見に行かなくていいんだよ。今ならそう言える。
本当に世界の音楽を理解して自分の世界観に取り入れることのできる人間というのは
こういう種類の凡人達とは混じりえないものだ。自分の部屋で取り組めばいいさ。
今ならね、そういう。
しかし、当時は、もう自分が一生なにもできず、現実から遮断されたまま
負け犬の人生を送るしかないのだと終わった感にとりつかれるありさまだった。
結局、ローリングストーンズ熱はそこで消滅してしまい、レッド・ゼッペリンを
聴くようになってからはもう二度と戻らない過去の一点に封印された。高校に入って
周囲の同世代がストーンズとか言い始め、グループも来日したりしたが、
もう「子供の音楽」でしかなくなっていたので、気にさえならなかった。
その後、中島らもが「中学時代にローリングストーンズにはまって人生が
かわった」などと恥じらいもなく主張しているのをきいても、ば〜〜かと冷笑的
だったし、寺山修司が「ローリングストーンズ―ズーをきいて血が湧きたたないなら
男じゃないズーズー」と家出の勧めを説いても「ドモリ出歯亀はうるせーよ」と一喝した。
ミックジャガーに傷心させられてローリングストーンズに背を向けたことで
失ったことは、成長期の健全な男子が育むべき不良魂というか反骨心だったのではないか、
そういう思いに駆られることが時々ある。自分の中にあるワルの精神というものは、すべて
その後パンク音楽の無力な自虐性の中へと消化されてしまったような気がするのだ。
中年になった元・ミックに捨てられた男は、今一度、人として男として自分に足りない
ものをストーンズの音楽に振り返ろうとしている。
そういうわけで、ローリング・ストーンズ選曲スレを書いてみた。
私にとってローリング・ストーンズとは、決してサティスファクションや
スタート・ミー・アップにあるような大衆扇動のテーマ曲で総括はされない。
黒人R&Bの物真似みたいなものでも違う。
彼らの最大の魅力とは、そのヨーロッパの渋い知性が反映された背徳の美、
反逆アートの姿にある。それはゴダールでなくとも、寺山修司でなくとも、
当時の彼らを目の当たりにした誰もがひきつけられるだけの知性だったのでは
ないかと思う。ゴダールがお手本にしたのはミケランジェロ・アントニオーニが
撮ったヤードバーズのライブだったが、ヤードバーズも新思潮を生み出す鋭気には
溢れていたが、ストーンズやビートルズに比較されうる知性・文学性が欠けていた。
私の選ぶローリング・ストーンズはビートルズにもゼッペリンにも表現できなかった
渋い知性の集大成である。
Mother's little helper
Take it or leave it
Jigsaw Puzzle
19th nervous breakdown
Torn and Frayed
Blue turn to grey
余談１それにしてもHonky tonk Womanは時代の最高傑作だと物知り顔で言っていたのは
景山民夫か村上龍かどっちだったか。どちらにしろセンスの悪い人は静かにしましょう。
余談２自称Lucky in Loveのミックジャガーは名代のプレイボーイとして知られ、
なかなか深みのある人選であることが”公式”記録としてはあがっている。それだけに
最近になって余生のカウントダウンがはじまったシャーロット・スチュワートによって
暴露された週末飛行には苦笑するしかなかった。いくらなんでも大草原の小さな家に出てくる
ローラの先生はないだろうが。
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