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オバマが報復表明、米大統領選でトランプを有利にした露サイバー攻撃
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2016/12/post-6558.php
2016年12月16日(金)19時00分 マイカー・ゼンコー ニューズウィーク
<やはりプーチンはトランプを勝たせようとしていたのか? ロシアからの米大統領選に対するサイバー攻撃と選挙操作を目的とした介入について、米情報機関はほぼ確実にあった、としている。昨日にはオバマが、それはプーチンの指示だった可能性もあるとした上で、報復を訴えた。トランプはロシアの関与について、頭から「ばかげている」と全面否定。逆に情報機関の無能ぶりをあげつらって全面戦争を挑んでいる> (写真はCIA本部。過去に失敗があったからといって、ロシアが米大統領選に介入したという米情報機関の声を無視していいのか)
前代未聞だ。
バラク・オバマ米大統領は2016年の選挙プロセスにロシアが介入した疑いについて「全面的に再調査」し、退任前に報告するようかねてから情報機関に命じていた。つまり、トランプ勝利の正当性に疑問符が付いたということだ。それに対してドナルド・トランプ次期大統領側は、ロシアの介入に関する情報機関の報告を頭から否定し、情報機関の能力にまで難癖を付けている。米情報機関に公然と喧嘩を売っていることになる。
こうした対立は悲劇を招きかねない。ホワイトハウスが情報機関の分析を信用せず、無視すれば、対外的な危機に十分に備えられないことは歴史が証明している。
まずは対立の経緯を見ておこう。国土安全保障省と国家情報長官室は10月7日、合同声明を発表し、次のように断定した。
「最近発生したアメリカの個人と政治団体を含む組織のメールアカウントへの不正アクセスとメールの公開はロシア政府の指示によるものだと、我々は確信する......これらの盗みと公開はアメリカの選挙プロセスに干渉する目的で行われた......その規模と機密性の高さから、ロシアの官僚機構の最上層部がこれらの活動を命じたと見てほぼ間違いないと、我々は確信している」
その後の分析もロシアの関与を裏付けている。ワシントン・ポストは10日、情報筋の話として、CIAが提出した「部外秘アセスメント」の内容を伝えた。CIAはこのアセスメントで、「ロシアはただ単にアメリカの選挙制度の信頼性を損なうためではなく、ドナルド・トランプを当選させるために2016年の選挙に介入した」と結論付けている。「これは(CIAだけでなく)情報機関全体の分析だ。ロシアの目的は特定の候補者に肩入れすること、トランプの当選を助けることだった。これは一致した見解だ」と、米政府高官は語っている。
■ロシア政府犯行説ほぼ確実
ニューヨーク・タイムズも「情報機関」が「高い確度」で結論付けた事柄として、「ロシアは大統領選の後半戦でヒラリー・クリントンの足を引っ張り、ドナルド・トランプにテコ入れするために密かに工作を行った」と伝えた。ロシアに指示されたハッカー集団は共和党全国委員会のサーバーにも侵入したが、そこから盗んだ情報は公開されなかったという。ロシア軍参謀本部情報局(GRU)のスタッフが「ハッキング活動を監督した」と見られている。
【参考記事】トランプが煽った米ロ・サイバー戦争の行方
【参考記事】トランプはプーチンの操り人形?
情報機関の用語では、「高い確度」はほぼ80〜95%の確率を意味する。情報機関の分析では100%または0%の断定は許されない。諜報活動の性質上、常に断定を避けた報告を行うため、白か黒かをはっきりさせたい政治家はいら立つし、曖昧さにつけ込んで疑惑をもみ消す政治家もいる。
いい例がトランプだ。「今年の人」に選んでくれたタイム誌とのインタビューでは、ロシアが「介入したとは思えない」と断言。ただし、サイバー攻撃についてはこう付け加えた。「ロシアかもしれないし、中国かもしれず、ニュージャージー州の誰かかもしれない」 その後トランプの政権移行チームは、「アメリカの選挙に外国が介入したとする主張について」という異例の声明を発表、その冒頭でCIAをあからさまに誹謗した。「彼らはサダム・フセインが大量破壊兵器を保有していると言った連中だ」
その2日後、トランプはFOXニュース・サンデーに出演し、ロシアの介入について「バカげている。言い訳にすぎない。信じない」と否定。誰がサイバー攻撃をしたか、情報機関は「分かっていない」と断言した。「ロシアなのか、中国なのか。彼らには何にも分かっていない」 さらには「ハッキングというのは面白いもので、現行犯で捕まらなければ、後からは絶対に捕まらない」と、無知と不見識をさらけ出した。
■米スパイコミュニティーに喧嘩を売ったトランプ
トランプの言い分を要約するとこうなる。「ロシアは選挙に介入しなかったし、介入するならロシアに限らずどの国でもできたはず。情報機関は実態を把握していないだけ。今更サイバー攻撃を調査するのは不可能で、後の祭りだ」。つまりトランプに言わせると、たとえ米政府の手にかかっても、ロシア政府の関与を断定することはできない。情報機関の分析とは正反対の結論を、トランプ自身はすでに出しているわけだ。
【参考記事】常軌を逸したトランプ「ロシアハッキング」発言の背景
コメンテーターは一斉に、ロシアの関与の可能性に疑義を唱えている。彼らの反論は大きく分けて2つある。1つは、アメリカの情報機関の分析には信用できないという主張だ。根拠に挙げるのは、02年10月に国家情報評価(NIE)が根も葉もない情報に基づいて導き出したとされる報告「イラクは大量破壊兵器を開発している」の大失態だ。
悪名高い02年版のこの文書は、完成までにいくつものミスが重なった。上院情報特別委員会の調査によると、通常なら編纂に3カ月間は確保したいところを、当時の情報機関は問題の文書をたった20日間で承認までこぎつけた。CIAは事後報告書で「NIEは3つの異なる草稿チームの分業で出来上がり、雑多な分析結果を取り入れながら、それぞれが独立したセクションを受け持っていた」と指摘した。大量破壊兵器に関するアメリカ諜報機能委員会はこれを「NIEの主要な欠陥」だと批判した。「サダム・フセインの過去の言動を盾に人目を引く仮説を並べ立て、自分たちの主張を正しいと見せかけたが、実際には何の価値もないような情報を垂れ流した。そのせいで誤った判断に導いた可能性もある」
しかし過去に重大な結果を招いたとはいえ、1つのNIEだけを見て情報分析全体の力量を評価するなら、今後どんな情報機関も信じられなくなるだろう。2002年10月以降に公表されたNIEは数百件に上る。そのうち我々が目にしたことがあるのは、07年12月に公表された「イランの核兵器開発」に関する機密報告書ぐらいだろう。02年版のNIEが議会にイラク戦争を承認させるべく拙速に作成されたのに対して、07年版はイランの核施設を軍事制圧もしくは攻撃するというブッシュ政権の計画を中止に追い込んだ。「2003年秋の時点でイランは核兵器開発計画を停止したと、高い確信を持って判断する」と公表し、後に断定した。
昨今の米大統領選へのロシアの介入を主張する情報機関の分析を信じるかどうかは、NIEの02年度版と07年度版のどちらを判断基準にするかで決まりそうだ。
2つ目の反論は、米政府はロシア政府が実際に大統領選に関与したことを示す「証拠を把握していない」という主張だ。だが情報機関にしてみれば、ロシアの関与を認める分析結果の根拠となった証拠は示さないのが当たり前で、今後も公表しないはずだ。そんなことをしてしまえば、情報源や証拠をつかむために用いた情報収集の手法が見破られてしまう。ある米政府高官が米紙ロサンゼルス・タイムズに語ったように、そうした特定の情報を明らかにすれば、今後の情報収集能力に支障をきたす可能性がある。
■オバマには機密解除の権限がある
すでに公開された文書であれ、議会での公聴会や一般的なインタビューであれ、情報機関がその手の証拠を公の場で開示するなど、ほぼあり得ない。興味がある人はCIAのウェブサイトにある電子閲覧室を使えば、機密扱いから全てもしくは一部解除された1700以上のNIEの文書に目を通すことが出来る。公表日やキーワード、地域、テーマなどから簡単に検索できる。ただし、CIAらしい語調の分析結果は読めても、固有名称や明らかな指揮命令系統、或いは一連の証言などの「証拠」になる部分をそのまま閲覧できるのは稀で、ほとんどの文書で重大な証拠につながる部分は白枠で抜かれている。
バラク・オバマ大統領には、自らの意向でどんな文書でも機密解除する権限がある。先週情報機関に指示した調査結果が出揃えば、オバマがそれらの取扱いについてとりわけ積極的かつオープンな姿勢で臨むことを期待する。
オバマは昨日、米大統領選へのサイバー攻撃による介入について、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が指示したと示唆。その上で、ロシアに対する報復を誓った。「外国政府がアメリカの選挙の公平性に手を加えようとするなら、行動する必要がある」言った。だがオバマに残された任期は短い。1月20日以降は、なぜか情報機関を毛嫌いしているらしいトランプが、真実を追い求める者にとっての相手だ。
From Foreign Policy Magazine
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