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南シナ海、南沙諸島のミスチーフ礁で埋め立てを行う中国の浚渫船(昨年5月) U.S. Navy/Reuters
米ルビオ議員、南シナ海の領有権問題で対中制裁法案──トランプ新政権に行動を促す
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2016/12/post-6506.php
2016年12月8日(木)18時00分 エミリー・タムキン ニューズウィーク
<南シナ海、東シナ海の不安定化に加担した中国当事者に制裁を科す内容。対イランでは制裁延長、対ロシアでは外交官の行動制限など、強硬化する議会にトランプは呼応するか>
トランプ次期米政権が中国に対して強硬姿勢で臨むなら、議会から援護射撃を得られるかもしれない。
米大統領選で一時は共和党の最有力候補と目されたフロリダ州選出のマルコ・ルビオ上院議員は6日、中国が東シナ海と南シナ海を取り巻く周辺海域を不安定化させているとして、中国に制裁を科す内容の法案を提出した。中国は岩礁を埋め立てて人工島を建設し、この海域で領有権を主張する他のアジア諸国を締め出している。
「中国が法的根拠のない主張を繰り返し、世界の安全保障上重要な地域を軍事拠点化する行為は、許されるべきではない」
【参考記事】中国はなぜ尖閣で不可解な挑発行動をエスカレートさせるのか
ルビオが提出した制裁の具体的な内容は、資産の凍結や渡航禁止、査証(ビザ)の発給停止など。制裁の対象は、周辺国による領有権争いが続く南シナ海で建設や開発に携わった「中国人の当事者」、もしくは地域の安定を脅かす行為や政策に加担した関係先とされる。つまり、中国の沿岸警備隊や中国海軍の部隊、建設会社、遠く離れた海域を大型漁船で「警備」に当たる中国人漁民に至るまで、だれでも標的にできる。
■トランプ政権に強硬姿勢を促す
さらに法案は、中国の領土的野心にアメリカがより強硬な姿勢で応じるよう促す。中国の軍事拠点化に対抗してこの海域にイージス艦を派遣する「航行の自由作戦」については、継続と規模の拡大を主張。地域の安全保障を危険にさらす中国の「挑発」行為には、相応の対抗措置で臨むよう米政府に求める内容だ。
【参考記事】一隻の米イージス艦の出現で進退極まった中国
ただし、1人の賛同者もなく委員会に法案を提出したルビオが、今後議会でどれほどの支持を得られるかは不透明だ。この件について上院外交委員会のボブ・コーカ―委員長(共和党)と東アジア太平洋小委員会のベン・カーディン委員長(民主党)の両人にコメントを求めたが、執筆時点でまだ返答はない。
下院では7月に、トランプが次期CIA(中央情報局)長官に任命したマイク・ポンペオ(共和党)が、中国に対して「南シナ海の軍事拠点化と領有権の主張および東シナ海における挑発行為の停止」を求める決議案を提出したこともある。
ルビオの法案が、トランプと台湾総統との電話会談が入念なお膳立ての下で実現し、中国側がいら立っているタイミングで強硬法案が提出されたのは明らかだろう。トランプ自身、米大統領選中からツイッターで繰り返し、中国政府が為替操作で人民元を安値に誘導して米企業の競争を難しくしてきたと主張。南シナ海で「巨大な軍事複合施設」を建設しているとして中国をやり玉に挙げてきた。
外交政策に詳しい一部のアナリストは、中国を牽制する手段として今回の法案を歓迎した。米戦略国際問題研究所(CSIS)上級研究員で中国専門家のボニー・グレイザーは米フォーリン・ポリシー誌の取材に、「アメリカが南シナ海と東シナ海をめぐる中国の方針に影響を与える手段を多数握っていることを、中国側に知らせる」効果があると評価した。
たとえ法案が否決されても、次期米政権への合図にはなるとグレイザーは言った。領有権問題でアメリカが主導権を握り周辺諸国から信頼性を取り戻すためには、こういう方法もあると知らせることになる、というのだ。
だが外交シンクタンク「ニュー・アメリカ」の研究員で中国に詳しいチェン・ワンは、「政治的な色合いの強い」動きは中国の反発を招くと指摘した。彼によると、7月にオランダ・ハーグの国際仲裁裁判所が南シナ海の領有権問題で中国の主張を「根拠なし」としてフィリピンの完全勝利に近い判決を下して以来、中国側の動きは比較的抑えられている。だとすれば、ルビオが提案する制裁は中国側を当惑させるだけで、「米中の2国間関係とアメリカの国家安全保障にとって弊害でしかない」。
【参考記事】仲裁裁判所の判断が中国を追い詰める
■イラン制裁法の延長も
だが米議会が狙いを定めるのは、中国だけではない。上院で1日、今月末に期限を迎えるイラン制裁法を10年間延長する法案を賛成多数で可決した。下院では、駐米のロシア外交官が赴任地から40キロ以上離れた場所に出かけるのを制限する法案が通過し、上院の可決を待つ。ロシア政府は7日、もし米議会で法案が成立する事態になれば、アメリカの外交官に対して同様の報復措置を取る方針を鮮明にした。
ロシア外務省のマリア・ザハロワ報道官は、米政府当局が「互恵関係の原則という外交の基本」を思い起こす方が賢明だと述べ、米議会の動きを牽制した。
From Foreign Policy Magazine
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