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もう1つのニックネームこそふさわしい米国新国防長官
歴戦の勇士、マティス氏を登用するトランプ次期政権の狙いとは
2016.12.8(木) 北村 淳
トランプ氏、次期国防長官に「狂犬」マティス氏を指名
ワシントンの議会公聴会に出席するジェームズ・マティス中央軍司令官(当時、2011年3月1日撮影、資料写真)。(c)AFP/Chris KLEPONIS〔AFPBB News〕
ドナルド・トランプ次期米大統領がジェームズ・マティス海兵隊退役大将をトランプ政権の国防長官に指名した。
アメリカ海兵隊関係者からはもとより海軍関係者や陸軍関係者からも、この人選には大いなる支持が集まっている。アメリカの法律には「退役軍人が7年以内に長官職に就任するには7年の期間が必要である」という規定があるが、特例を連邦議会が許可する手続きは順調にクリアしそうである。
ただし、オバマ政権寄りのメディアなどでは、マティス大将に名付けられた「狂犬」というニックネームを強調して抵抗を示す風潮も見受けられなくはない。
「狂犬」というニックネームの由来
反トランプ陣営のメディアなどは、「『狂犬』マティス海兵隊退役大将」という表記をことさら濫用し、トランプ次期大統領が国防長官に指名しようとしている人物が「乱暴」「危険」であるというイメージを植え付けることに躍起になっている。
たしかにマティス大将が現役時代に、アフガニスタン戦争やイラク戦争においてテロリストや叛乱分子に対して強硬な発言を繰り返していたことは事実である。
そして、イラク戦争最大の激戦と言われているファルージャの戦いで第1海兵師団司令官として激戦を勝ち抜いたという戦歴が有名なため、その後の強硬発言と相まって、「極めてタフでしぶとく戦う軍人」という意味合いで「狂犬」というニックネームがつけられた。
国家への忠誠を第1のモットーに据えているアメリカ海兵隊が、飼い主に忠実な生き物とされる犬にたとえられるのは、実は目新しいことではない。最も有名なのは第1次世界大戦期に誕生した「悪魔の犬たち」という海兵隊のニックネームである。
第1次世界大戦後期、フランス軍を中心とした連合軍とドイツ軍が硬直状態に陥っていたフランス戦線に投入されたアメリカ海兵隊は、有名な「ベローの森の戦闘」をはじめドイツ軍と数々の死闘を繰り広げた。多大な犠牲を払いながらも次々とドイツ軍部隊を打ち破ったアメリカ海兵隊部隊の頑強さにドイツ軍は畏敬の念を抱き、アメリカ海兵隊を「悪魔の犬たち」と呼んだ。
それ以来、海兵隊自身もこのニックネームを用いるようになり、忠実でしぶとい犬であるブルドックを海兵隊の公式マスコットとした。現在に至るまで、海兵隊は公式マスコット犬を代々正式に任命しており、独自のマスコット犬を任命している部隊も少なくない(写真)。
マスコット犬パジェット2等兵をアメリカ海兵隊に授与する英国王立海兵隊(1927年)
君塚陸幕長(2012年当時)にプレゼント(骨)をもらう海兵隊公式マスコット犬チェスティXIII伍長
(* 配信先のサイトでこの記事をお読みの方はこちらで本記事の写真をご覧いただけます。http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/48582)
一般社会とはかけ離れていたイラクの戦地の状況
以上のような経緯でマティス大将には「狂犬」というニックネームがつけられたわけだが、敵、それもアフガニスタンやイラクにおけるテロリストや叛乱分子に対する強硬な発言をもって「乱暴」あるいは「危険」な人物とのイメージを抱くのは誤りである。
第1海兵師団司令官であったマティス大将(イラク戦争当時は少将)直属の指揮官としてファルージャでの先鋒部隊であった第1連隊戦闘団を率いたトゥーラン中将(イラク戦争当時は大佐)が直接筆者に語ったところによると、ファルージャはじめイラクの戦地では毎日が“OK牧場の決闘”のような状態だったという。
つまり、大きな戦闘が発生していない“平穏な日々”においても、司令部や兵舎から一歩街路に出ると、至近距離から叛乱分子による発砲を受けるため、こちら側も必死に撃ち返すという日々の連続であったというのだ。
それだけではない。海兵隊と共同で戦っていたイラク国軍将兵などがテロリストや叛乱分子に拉致され、残虐な拷問を受けて殺害されてしまう事件も少なくなかった。トゥーラン司令官と共にテロリストや叛乱分子と戦っていたイラク国軍部隊の指揮官であったスレイマン大佐という有能で勇敢な人物は、テロリストに拉致され、残虐に拷問されたあげく首を切り落とされ道ばたにうち捨てられてしまった。その残虐行為の一部始終がビデオに撮られ、トゥーラン司令官のもとに送りつけられたというのだ。
このような残虐行為を平気で行うテロリストや叛乱分子と戦わなければならない海兵隊将兵に向けて、海兵隊のリーダーが「敵に対する過激とも思える発言」をすることは、一般社会では異常に映るかもしれないが、日常とはかけ離れた戦場のスタンダードに照らせば、なんら異常ではない。むしろこれからそのような戦場に身を置かねばならない戦闘員たちにとっては心強い言葉となるのである。
イラク戦争の戦場で海兵隊員たちに訓示するマティス大将(当時は少将)
もっとも過去半世紀以上にわたって、極めて幸いなことに“人が人を殺すことが異常ではない戦場”に自衛隊を送り込んだ経験がない日本社会では、このような論理は極めて奇異に受け取られるかもしれない。
しかしながら、海兵隊に限らずアメリカ軍は、恒常的に世界各地で戦闘を継続している。そして、トランプ次期政権は大統領選挙期間中「IS撃滅」を公約としてきた。つまり、場合によっては海兵隊や陸軍の地上戦闘部隊もISとの戦闘に投入される可能性が生じてきたのである。
実際に戦闘を経験したことがない軍事組織の長と違って、トランプ次期政権下のアメリカ軍を束ねる国防総省のトップは「狂犬」と呼ばれるくらいタフな人物でなければ務まらないのだ。
もう1つのニックネーム「戦う修道士」
マティス海兵隊退役大将は「狂犬」というニックネームがある一方で、「海兵隊員の中の海兵隊員」「海兵隊と国家に全てを捧げてきた男」とも称されている。
マティス大将の右腕として活躍した上記トゥーラン中将によると、マティス大将の人物像を一言で表現するならば「極めて冷静沈着で学者肌の人物」ということである。
現に、米軍においてマティス大将のニックネームとして「狂犬」よりも浸透しているのが「戦う修道士」である。
トランプ次期大統領に批判的なメディアが、「戦う修道士」よりも「狂犬」を多用しているため、日本のメディアでも「戦う修道士」というニックネームは用いられてはいないようだ。しかし、実際には「狂犬」以上に普及している「闘う修道士」というニックネームを併記しないようでは、メディアによるイメージ操作とみなされても致し方ない。
マティス大将は歴戦の勇士としてだけではなく、読書家としても有名であり、とりわけ古今の戦史に精通していることは幅広く知られている。また、トゥーラン中将が言うように、剛毅なだけでなく沈着冷静な人柄でもあるうえ、人生の全てを海兵隊と戦史や戦争論の研究に掲げてきたストイックな生活態度(さらに彼は独身である)から、かつてのテンプル騎士団、ドイツ騎士団、聖ヨハネ騎士団などに属した騎士=修道士になぞらえて「戦う修道士」のニックネームで呼ばれているのである。
同盟国も防衛力強化が求められる
トランプ次期大統領がマティス退役海兵大将を国防長官に据えるということは、トランプ次期政権にとっては選挙公約とも言える「IS殲滅」のための本格的戦闘が開始されることを意味している。そのため、トランプ政権発足後当面の間は、アメリカの軍事的関心は中東方面に集中することになるであろう。
一方で、本コラムでもたびたび紹介しているように、ランディ・フォーブス議員がおそらく海軍長官に就任するため、中国海軍の拡張戦略に対抗するべくアメリカ海軍再建の努力もIS撃滅戦と平行して推し進められるものと思われる。
海軍再建には莫大な予算と長い時間が必要である。しかし、予算は限られており、悠長に時間をかけているわけにもいかない。そのため、ますますアメリカにとっても同盟関係が重要になる。ただしその同盟関係は、相手の同盟国が、自国の経済規模に応じた防衛力を手にしていることが前提になることを日本は改めて心得ておくべきである。
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