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習主席弱腰の裏に米国「親中派」重鎮の助言 編集委員 中沢克二
2016/12/7 6:30
中沢克二(なかざわ・かつじ) 1987年日本経済新聞社入社。98年から3年間、北京駐在。首相官邸キャップ、政治部次長、東日本大震災特別取材班総括デスクなど歴任。2012年から中国総局長として北京へ。現在、編集委員兼論説委員。14年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞
米次期大統領、トランプは台湾総統の蔡英文と歴史的な12分間の電話会談に応じた。電話口では蔡英文に「プレジデント(総統)」と呼びかけ、総統就任を祝した。トランプはツイッターで「台湾のプレジデント(総統)から大統領選の勝利を祝う電話があった。ありがとう」と報告している。
米大統領や大統領選の当選者が、台湾トップと会談した経緯が公になるのは実に1979年の米中国交樹立、米台断交の後、初めてだ。しかもトランプと台湾総統府の双方が電撃的に公表してしまった。台湾問題で常に目を光らせてきた中国が事前にストップをかけられなかった経緯は、中国内で大失態と受け止められている。米オバマ政権までの常識では考えられない事態だけに油断があった。
トランプ側は「台湾と米国の間の経済、政治、安全保障の緊密な結び付き」を確信したとし、そこに「政治」を含めている。さらにトランプは「米国が数十億ドルの武器を台湾に売っているのに台湾から祝意の電話を受けるべきではない、というのは興味深い」と発信し、一部の批判に反論した。
■米台電話会談は「習指導部の大失態」
真綿で首を絞めるように台湾が活動できる国際空間を徐々に狭める。それが長年、中国がとってきた基本戦略だ。最近は中国の圧力で国際民間航空機関(ICAO)から台湾が締め出された。だがトランプは、中国が操る真綿を取り払う挙に出た。
しかも、大統領就任前という絶妙なタイミングを選んだ。従来の米中の枠組みを崩したわけではない。首相の安倍晋三も総統選前の蔡英文と永田町で接触したとみられている。トランプは安倍の上を行く巧妙な策をとった。
意表を突くトランプの行動は当然、中国を激怒させたはずだ。だが、その後の事態の推移は、きわめて興味深い。中国の反応は従来と比較すると、あまりに弱々しい。
「台湾側の小細工であり、国際社会がつくり上げた『一つの中国』の枠組みを変えることは全く不可能だ」。翌日、中国外相の王毅が記者の質問に答えた。公式声明である。奇妙だ。蔡英文を批判し、中国の立場を主張しているが、トランプ本人を批判する文言は一切ない。
謎を解くカギを握る米国人がいる。先に北京を訪れた米元国務長官のキッシンジャーである。トランプ対策に悩む国家主席、習近平は93歳の老戦略家の助言に真摯に耳を傾けた。71年、ニクソン政権の大統領補佐官だったキッシンジャーは極秘の任務を帯びて訪中した。
パキスタンでいったん姿を消し、ヒマラヤ山脈の上空を超えての北京入り。それは手の込んだ外交劇だった。その成果が米台断交と米中国交正常化である。中国は、この大恩人を「親中の古い友人」と見なし、長年、大切にしてきた。
そのキッシンジャーは11月17日、ニューヨークのトランプタワーでトランプと会っている。米中関係筋によると、勝利の高揚感の中にいたトランプは、キッシンジャーを前にしても、選挙中の公約は基本的に実行していくと強い態度を口にしたという。
今回、キッシンジャーを中国に招いたのは中国人民外交学会である。新中国が成立した49年、外交も統括していた首相の周恩来が、中国の敵対国の内部も含めて親中派を増やすために設けた組織だ。トランプ当選を受けて、習は12月2日、北京で「老朋友(古い友人)」キッシンジャーと会談した。
注目すべきは、その前日、「反腐敗」運動の司令塔、王岐山もキッシンジャーと会ったことだ。王岐山の現在の担当とは無関係である。引退した米国の老政治家に中国の最高指導部メンバー2人が連日、会うのは極めて異例だ。
■キッシンジャー氏は「協力的に」と助言
そこには理由があった。王岐山は2013年まで、経済・金融担当の副首相として米国とのパイプを担っていた。キッシンジャーとも繰り返し会っており、「気心が知れている」(中国外交筋)。
王岐山は会談の際、足元がおぼつかないキッシンジャーの右手をしっかり握って、笑顔で先導した。習も信頼する米国通の王岐山が今回のキッシンジャー訪中のキーマンだ。翌日の習・キッシンジャー会談の露払いとして、トランプ対策を事前に相談していたのだ。
キッシンジャーは、習と王岐山にどんなアドバイスをしたのか。米中双方に伝手(つて)がある国際関係筋によると、それは「協力的に対処すべきだ」という助言だった。トランプが予想が難しく、中国には強気な以上、はじめからトランプ政権と事を構えるべきではない、という主張だ。
今回のキッシンジャー訪中を巡って、北京市共産党委員会の機関紙、北京日報傘下のインターネットニュースが「特殊な使命を帯びていた」と紹介した。報道管制が厳しい中国であえてこうした報道があることには、政治的な意味がある。
習は11月14日、トランプと電話会談をした。このニュースは中国国内で大きく扱われ、今後の対米関係への期待を中国国民に抱かせた。だが、この期待を大きく裏切ったのが、トランプと蔡英文の電話会談だ。「蔡英文を相手にせず」という態度だった習の体面は丸つぶれとなった。
トランプはなお攻め込んだ。12月4日にはツイッターで「(中国は)我々に南シナ海の真ん中で大規模な軍事複合施設を建設していいかどうか了承を求めたのか。私はそうは思わない」と指摘した。中国による南シナ海の軍事基地化を批判したのは当選後、初めてだ。
経済でも圧力が増す。中国の為替操作に絡み「通貨切り下げや(米国が中国に課税していないのに)中国に入る我々の製品に重税を課すことについて中国は我々に了承を求めたのか?」と非難した。
それでも習は今のところ様子見の姿勢だ。裏にはキッシンジャーのアドバイスがあった。中国外務省もトランプの意図に関して「推測はしない。具体的な政策、言行にだけ立場を示す」と、極めて慎重な物言いを続けている。
後日談がある。訪中から米国に戻ったキッシンジャーは12月5日、米中関係全国委員会主催のイベントで、トランプ・蔡英文電話会談への中国指導部の冷静な対応を高く評価した。
「現時点で中国指導部の冷静な対応に非常に感心している。これは冷静な対話が可能かどうか見極めようとする決意の表れに見える」。キッシンジャーが自らの習への助言の成果を確認した発言だろう。
とはいえ「習・王」の異例の弱腰には、対トランプで苦慮する胸の内が透ける。いま習は「クリントンの方が面倒は少なかった」と思っているに違いない。これに絡む中国外交の内側を知る識者らの面白い分析を紹介したい。
「習近平は何をするかわからないトランプが怖い。今はとにかく各国の大使館や、国内研究機関を総動員し、情報収集と戦略の練り直しに専念している。」
「(中国外相の)王毅らはトランプ・蔡英文電話会談を許してしまった失敗を批判されている。特に、習近平と距離がある面々からの圧力が強い。蔡英文ごときにうまくやられている。こんな声が内部で高まりかねない」
■台湾問題が権力闘争の材料になりうる?
これは台湾問題が中国の激しい権力闘争の具になる恐れがあるとの指摘である。中国が「核心的利益」とする台湾問題は極めて敏感だ。台湾の蔡英文政権の支持率は5月の就任当初に比べ落ちているが、トランプとの電話会談の実現という外交的勝利で復活する可能性も出てきた。
習の権力基盤は、別格の指導者を指す「核心」に位置付けられた後も盤石でない。なお王岐山が指揮する「反腐敗」運動を通じて、政敵をたたき続けなければいけない状況だ。対抗勢力にとって、台湾問題の失態は習に圧力をかけるチャンスでもある。
17年の最大のイベントは、中国共産党大会の最高指導部人事だ。台湾問題はその前段の権力闘争にまで影響を与える恐れがある。この面でも「習・王」コンビはうかうかしていられない。
(敬称略)
http://www.nikkei.com/article/DGXMZO10334370W6A201C1000000/?dg=1
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