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[この一冊]最後の「天朝」(上・下) 沈志華著 中国と北朝鮮 不満と摩擦の歴史
中朝関係は従来「唇歯の関係」「血で結ばれた関係」と形容されてきた。本書はその神話を新たに発掘された膨大な史料を駆使して見事に打ち砕いた労作であり、中朝関係史に関する第一級の学術研究書である。
著者は世界的に知られた中国の冷戦史研究家であり、これまでも通説を覆すような研究成果を数多く発表してきた。中朝関係は中国にとって最も敏感な2国間関係のひとつだけに、本書は中国では未出版であり、日本での出版が最初である。著者の学者魂とその勇気に敬意を表したい。
本書は1920年代から70年代までを扱っている。両国建国以前の20年代から40年代にかけての中朝共産主義者とソ連の複雑な関係や、中国共産党と朝鮮人革命家との「即(つ)かず離れず」の関係分析も興味深いが、圧巻は建国以後の中朝関係の部分である。
50年に始まる朝鮮戦争は金日成が早くから企図し、それにソ連のスターリンが引っ張られ、最後に毛沢東が引きこまれ、中国軍の参戦まで余儀なくされた。その間、朝鮮人民軍の中国軍への指揮編入問題や、中国と北朝鮮内部の延安(中国)派との癒着などから、金日成の対中不満は増大した。
その後、金日成は独裁体制を強化し、それに不満を抱いた延安派とソ連派を排除し(八月事件)、チュチェ(主体)思想のもとで自主性を強めていった。これに怒った毛沢東はソ連と組んで金日成に圧力を加えた。
50年代末以降、中ソ対立が激化すると、金日成は中ソに対する等距離外交により「漁夫の利」を得る策に出た。中国は北を引き留めるため、大躍進後の経済困難のなかでも経済支援を続けた。
特筆すべきは62年の中朝国境交渉である。ここで毛沢東は、それまで中国側が占有していた長白(白頭)山の最高峰とカルデラ湖の天池の半分以上を北朝鮮に譲り渡した。70年代初頭の米中和解後、北朝鮮の反発を防ぐために中国は援助を拡大した。
ことほど左様に、中国は一貫して「尻尾が犬を動かす」ように北朝鮮に振り回されたが、それは毛沢東が宗主国の皇帝として周辺地域を統治しようとする「天朝」意識の産物であった。これが本書の表題につながる。
今日、北朝鮮の核・ミサイル問題に関して、世界は中国の北に対する一定の影響力を前提に議論を進めている。本書で描かれた70年代までの歴史を見るかぎり、その前提だけでよいのかとの疑問を抱かざるをえない。
(朱建栄訳、岩波書店・各5800円)
▼著者は50年北京生まれ。68年解放軍入隊。中国人民大学などを経て、05年華東師範大学歴史学部の終身教授に。16年6月から同大周辺国家研究院長。専門は冷戦史など。
《評》防衛大学校長 国分 良成
[日経新聞11月20日朝刊P.21]
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