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大前研一「教育格差社会、米国の光と影」
2016.11.21(月) biblion
知的好奇心をくすぐる読み物サイト「biblion」から選りすぐりの記事をお届けします。
(写真はイメージ)
【第6回】
今、日本の「教育」が行き詰まっている。日本の高度成長を支えた、「正解」をいかに早く覚え、再現するかという従来の教育は、「答えのない時代」を迎えた今、うまくいかなくなった。日本の国際競争力を高める人材を育成する上で、障害となっているものは何か。21世紀の教育が目指すべき方向は何か。
本連載では、世界からトップクラスの人材が集まる米国、職業訓練を重視したドイツ、フィンランドの「考える教育」など、特色ある教育制度を取り入れている先進国の最新動向から、日本の教育改革の方向性を導き出す。
(前回の記事「学校制度に見る先進国エリート養成法」はこちら)
下がり続ける米国の就学率
これまで述べたように、米国のトップ大学は非常に優れたシステムを持っています。
しかし、そういう学校がある反面、国全体としては問題が多いということを示しているのが図-12です。左側の図を見ていただきたい。
現在55〜64歳の人が高校生だったころ、米国民の高校卒業率は世界一でした。ところが、現在25〜34歳の人が高校生だった時代になると、卒業率は世界で10番目まで落ちています。同様に、大学卒業率も3番目から13番目まで下がっている。
それから幼稚園の就学率、学校に通う前に幼稚園などに通う子供の割合ですが、先進国の平均81%に対し、米国は69%です。大学中退率も、米国は54%と非常に高いです。
入学することができても、学生数がインフレ気味ですから落第して卒業することができず、途中でドロップアウトする人間が半数以上いるのです。
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本コラムは「biblion」の提供記事です。
教育格差が、収入格差につながる「富の循環」
次に、収入別のテストスコアを見てみましょう(図-13の左側)。
1943年生まれの米国人のうち、一番収入の多い10%の人たちのテストスコアは、一番収入の少ない10%の人たちのスコアに比べ、72%の成績でした。貧しい人たちの方が、お金持ちよりも成績がよかったのです。
しかし、2000年生まれになると、逆転しています。収入の多い人たちのテストスコアが、少ない人たちのスコアの127%、つまり、お金持ちのほうがいい教育を受けられるので、結果的に成績がよくなる。今の米国には、ボトムから這い上がってくる人たちがいなくなってしまったということがこの図から分かります。
図ー13の右側を見ていただきたい。教育レベルによる収入の違いが、いかに顕著かということが分かります。高校に行かなかった人は週給451ドル、大学を出た人が1053ドルで、大学院まで行った人は1332ドル。このような収入格差が、さらに子供の教育格差、成績格差にもつながっています。
米国では、お金持ちはいい教育を受けてますます収入が多くなり、貧しい人は十分な教育を受けられずその子供も貧しくなる、「富の循環」が起こっているのです。
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世界中の誰もが無償で受けられるオンライン講座
これらの問題に対し、米国をはじめとする世界のトップ大学は、誰もが無料で受講することのできるオンライン講座に取り組んでいます(図-14)。
MOOC(Massive Open Online Course)とも呼ばれ、世界中にさまざまな講座がありますが、単なるオンライン講座では受講者のモチベーションを持続させることが難しく、あまり効果は上がっていません。
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唯一例外があります。初等・中等教育を行うカーンアカデミーです。サルマン・カーンはインド系米国人で、米国でヘッジファンドマネジャーとして大成功した後、そのお金で無料の遠隔教育システムを立ち上げました。
1単位10分程度で、生徒が分かるまでやってあげる。学校の教室でカーンアカデミーの講義を活用する場合、躓いている生徒には、理解が進んだ別の子供が教える。そうやってテストをクリアすると、次の授業に進めるという仕掛けです(図ー15)。
今、米国だけではなく、カザフスタンやロシアなど世界中の子供たちが、無料でこの授業を受けています。インターネットに接続できる環境があれば、世界中どこにいても、無償で高水準の教育を受けることができるのです。この構想に感動したビル・ゲイツのビル&メリンダ・ゲイツ財団をはじめ、グーグルや有名投資会社なども、カーンアカデミーに多額の寄付をしています。
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(次回へ続く)
※本連載は大前研一さんの著作『日本の未来を考える6つの特別講義』より、国際競争力を高める人材を育成するための日本の教育改革について解説したものです。
大前研一 日本の未来を考える6つの特別講義
¥2200
大前研一が主宰する企業経営者向け講義を約400ページというボリュームで書籍化。経営層のみが参加できる特別な講義で語った、「人口減少」「地方消滅」「エネルギー戦略」「教育」・・・という避けて通れない「問題」とその「解決策」に迫る。各種メディア・シンクタンクによる調査データに加え、自身の海外視察を含めた独自ソースから読み解く「日本の問題」とは何か?
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◎本記事は「編集者が目利きする読み物サイトbiblion」の提供で配信しています。biblion では「ビジネス」「社会」「教育」「働き方」といったジャンルでしっかり読める記事を書籍編集者がお届けします。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/48430
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