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南シナ海でトランプ米国を迎え撃つ習近平国家主席率いる中国軍。
「トランプ米国 vs 習近平中国」はどうなるか?軍事から経済まで完全予測《前編》中国専門ジャーナリスト福島香織、緊急寄稿!
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20161119-00003779-besttimes-pol
BEST TIMES 11/19(土) 9:00配信
米大統領選は大方のメディアの予想を裏切ってトランプの勝利に終わった。トランプ政権がスタートするのは来年1月20日以降なので、新政権の対中政策がどのようなものになるのかは今のところ不明だ。
だが、中国共産党当局はおおむねトランプ政権を歓迎している。というよりヒラリー・クリントン政権よりまし、と判断しているというべきか。この傾向は、中国国営メディアの報道ニュアンスを見れば、選挙のかなり前から顕著であった。
では、中国は何を期待してトランプ政権をヒラリー政権よりましだと考えたのか。実際に中米関係はどのような局面を迎えると予想されるのだろうか。
トランプ当選の速報は、米AP通信やNHKよりも環球時報のネット速報のほうが小一時間ほど早かったように思う。そのぐらい、中国メディアも米大統領選の行方を注視していたのだ。そしてその日のうちに習近平は国家主席名義でトランプ氏に祝電を打った。その祝電の内容は次のようなものだ。
「最大の発展途上国家、最大の発展国家、世界の二大経済体として、中米両国は世界の平和安定を維持し、グローバルな発展反映を促進するという点において、特殊な重要責任を担っており、広汎な共同利益を保持している。中長期的に健全で安定的な中米関係を発展させることは両国人民の根本利益に合致し、また国際社会の普遍的な期待でもある。私は中米関係を高度に重視し、あなたと一緒に努力していくことを期待し、衝突せず対抗せず、相互に尊重し、Win-Winの原則を守り、両国の二国間において、地域において、グローバルな各領域において協力試合、建設的な方法で意見の対立をコントロールし、中米関係を新しい起点から推進してさらに大きな発展を得て、さらに両国人民、各国人民の幸せをつくりあげましょう」
半分以上リップサービスだとしても、米国との関係を改善したいというサインを先に中国から出していることは大きい。
ちなみに2012年12月26日に第二次安倍政権が発足した当日、当時の温家宝首相は祝電を打たなかった。尖閣諸島国有化問題で、日中関係が先鋭化していたからだ。速報の速さといい、賀電の速さと言い、中国当局がトランプ政権の登場になにがしかを期待していることは間違いない。
共産党中央ハイレベルと人脈を持つ筋によれば、その理由は主に四つという。
まず一つ目は、トランプがTPPに反対であるという点。ヒラリーもTPP反対を選挙運動中に打ち出していたが、ヒラリーのTPP反対は選挙に勝つための妥協であり、その本音はTPP賛成派であると中国はみている。だがトランプは、オバマの政治的遺産であるTPPには絶対反対すると思われている。TPPは、中国にしてみれば経済的中国包囲網の形成を目指しているのだから、それがご破算になることは歓迎すべきことだ。
二つ目に、トランプ政権は日米同盟やNATOとの関係をオバマ政権ほど重視せず、結果的にアジアリバランス政策が後退する可能性が強いとみている。復旦大学米国研究センターの呉心伯教授はドイツ華語メディア・ドイチェベレに次のように語っている。「トランプ政権下は、為替の問題や貿易赤字問題については、中国に一層の圧力を加え、貿易摩擦あるいは貿易戦争を引き起こす可能性はある。だが、地政学政治と戦略方面においては、トランプ政権のほうがおそらく調整しやすい。オバマ政権のように、アジアリバランス政策によって西太平洋の地縁政治競争を引き起こすようなことはないだろう。この一点についても、トランプ政権の登場は中国に利する」
中国軍事科学院中米防務センター前主任の姚雲竹も環球時報に対し「もし、トランプが(選挙運動中に発言したように)同盟関係をこれまでの政権のように重視しないのだとしたら、アジアの安全保障の枠組みに大きな変化が起きる。この過程で権力と実力の真空が形成され、各国がこの状況をもとに調整に出てくるだろう」とみている。
中国人民大学国際関係学院副院長の金燦栄もよく似た意見を言っている。「現行のアジアリバランス政策はオバマ政権の政治的遺産だ。トランプはオバマに反感を持っており、そのまま継承することはないだろう。共和党はもともとその党綱を見ても、欧州とアジアの利益に関してはバランス重視で、民主党のほうがアジア太平洋に入れ込んできた。共和党は軍需産業利益重視だが、アジア、欧州、中東、バルカン対応を、もっとバランスよくやるのではないか。少なくともオバマ政権のように軍事力の六割をアジア太平洋に傾倒するようなことはないのではないか」(環球時報)。
中国の国際政治の専門家たちの予想が当たれば、アジアの米軍のプレゼンスが縮小し、中国が軍事的プレゼンスを強化できるまたとないチャンスとなる。
三つ目はトランプの本質は「打交道(取り引き、駆け引き)」ができるビジネスマンだとみられている。つまり、信念や理想で動くのではなく、利害で判断して行動する。とくに西側的な自由や人権といった価値観を振り回して、経済的政治的利益を損なうような真似はしない。中国サイドはフィリピン大統領ドゥテルテもこのタイプであると考え、接近してきた。
もちろんトランプは選挙運動中には米国の経済利益のために、中国に対し関税の引き上げや為替操作国認定を行うなどと言っており、あたかも中国に対し経済貿易戦争を仕掛けかねないような印象も持たれるが、「彼は物わかりのいい人間だ。もし(対中経貿戦争が)米国の利益を損なうとわかれば、その政策を調整してくるだろう。恐れることはない。一、二年しのげば、必ずその過程で、条件が成熟し、対立は緩和される」(現代国際関係研究院米国研究所長・達巍、環球時報)といった楽観論が少なくない。
また、トランプの資金的バックであるトーマス・バラックの運営するコロニー・キャピタルは2004年から中国に積極的投資を行っている。またトランプホテルチェーンの中国展開の話も進められている。このことから、米国も中国経済の破綻は困るのだという見方が楽観論の根拠だ。
実際、トランプ政権の安全保障問題の顧問となるジェームズ・ウルジーは香港英字紙サウスチャイナ・モーニングポスト紙に「オバマ政権がAIIB(アジアインフラ銀行)への参加を見送ったことは戦略的誤りであった」と語り、習近平政権の「一帯一路構想(現代版シルクロード構想)」に対するトランプ政権の反応は「ずっと温かな」ものになる、としている。ちなみにウルジーは今年2月にも、中国の専門家たちとフェニックステレビの討論番組に出演、このときに、AIIBやシルクロード構想への参加にいわゆる敷居はない、との説得を受けていた。
「一帯一路構想」は、ありていにいえば、中華経済圏のアジア、ヨーロッパに向けた拡大、中華グローバリズム戦略の一環であるから、それを「温かな」反応というなら、オバマ政権が頑として抵抗していた米国が中華グローバリズムと世界を二分するG2時代構想に対して、トランプ政権は受け入れる用意があるのではないか、と中国側が期待しても不思議ではない。
四つ目は、トランプの当選は、いわゆる米国的民主主義の敗北であり、米国式グローバリズムの衰退であるとみており、民主主義など欧米的な普遍的価値観を否定し、中華グローバリズム拡大の野望を抱く中国にとっては愉快であるということ。
シンガポール国立大学の東アジア研究所長の鄭永年が今年3月にシンガポール聯合早報に「トランプ主義と米国民主主義の苦境」という題でトランプ現象についての論評を寄稿している。
「トランプは米国エリート階層が打ち立てたルールを無視して、過激な言論によって米国の政壇上のポリティカルコレクトネスの教条を端に追いやった」「米国はずっと自分を民主主義の典型モデルだと考え、民衆は国家の“イデオロギー”の制約を受けて、自分たちの国家が最高であると信じてきた。少数の冷静な学者を除けば、ほとんどの人たちが民主主義の疲弊について反省することはなく、民主的な政治的運動を行わない政治家など存在しなかった。民主主義を世界に拡大し、民主化すればそれでよし、と考えた」その結果「グローバル化が米国民主主義の内部均衡、政治と社会のバランスを崩してしまった」として、今の米国民主主義の混乱を説明している。
さらに言えば、在米政治学者のフランシス・フクヤマがフィナンシャルタイムズに「トランプ勝利は世界秩序の分水嶺となる」という寄稿をしている。「トランプの選挙中の意外なほどのヒラリー攻撃は、米国政治の分水嶺というだけでなく、世界秩序全体に対する分水嶺となる。われわれはまさに新たなポピュリズムとナショナリズムの時代に突入したようだ。この時代において、前世紀の50年代から構築されてきた自由主義的な秩序が憤怒の大衆に攻撃を受ける。世界はナショナリズム競争のリスクに陥る可能性も同様に大きい。それが事実ならば、1989年のベルリンの壁が崩れたときと同様の重大な時代の転換のシグナルとなるだろう」
※新刊『赤い帝国・中国が滅びる日』重版出来記念。福島香織、緊急寄稿!
著者略歴
福島香織(ふくしま・かおり)
1967年、奈良県生まれ。大阪大学文学部卒業後、産経新聞社大阪本社に入社。1998年上海・復旦大学に1年間語学留学。2001年に香港支局長、2002年春より2008年秋まで中国総局特派員として北京に駐在。2009年11月末に退社後、フリー記者として取材、執筆を開始する。テーマは「中国という国の内幕の解剖」。社会、文化、政治、経済など多角的な取材を通じて近くて遠い国の大国≠ニの付き合い方を考える。日経ビジネスオンラインで中国新聞趣聞〜チャイナ・ゴシップス、月刊「Hanada」誌上で「現代中国残酷物語」を連載している。TBSラジオ「荒川強啓 デイ・キャッチ!」水曜ニュースクリップにレギュラー出演中。著書に『潜入ルポ! 中国の女』、『中国「反日デモ」の深層』、『現代中国悪女列伝』、『本当は日本が大好きな中国人』、『権力闘争がわかれば中国がわかる』など。最新刊『赤い帝国・中国が滅びる日』(KKベストセラーズ)が発売即重版、好評発売中。
写真:アフロ
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