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トランプ的「公平」を突きつけられる日本 トランプの勝因と勝利演説の意味
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/8189
2016年11月10日 海野素央 (明治大学教授、心理学博士) WEDGE Infinity
今回のテーマは「トランプの勝因と勝利演説の意味」です。共和党ドナルド・トランプ候補は、激戦州の大票田である中西部オハイオ州、南部フロリダ州及び東部ペンシルベニア州の3州をすべて抑え、選挙人の過半数270を超えて勝利を収めました。本稿では、トランプ候補の勝因と勝利演説を分析します。
■トランプの勝因
これまで実施してきた戸別訪問に基づいてトランプ候補の勝因を挙げてみましょう。
第1に、白人労働者及び退役軍人を核としたトランプ支持者の熱意は、アフリカ系やヒスパニック系を中心にしたクリントン支持者のそれよりも確かに高かったと言えます。2008年米大統領選挙においてアフリカ系はオバマ候補(当時)に対して熱狂的でしたが、今回の選挙では同系は民主党ヒラリー・クリントン候補にエキサイティングしている様子はまったくありませんでした。
第2に、「隠れトランプ」の存在です。戸別訪問でクリントン陣営が標的としていた無党派層の中には、自分が人種差別者だとレッテルを貼られるのを回避するためにトランプ支持を表明しない白人の有権者がいました。クリントン陣営で働くボランティアの運動員は、戸別訪問でたとえ彼らがトランプ支持者である確率がかなり高くても「決めかねている有権者」に分類するのです。とういのは、トランプ支持であると言いきっていないからです。その結果、クリントン陣営が戸別訪問で回収したデータの「決めかねている有権者」の中に隠れトランプが含まれていたのです。同様に、各種世論調査も隠れトランプの有権者数を正確に把握できていなかったのです。
第3に、「変革」の議論においてクリントン候補はトランプ候補に敗れました。トランプ支持者の中には「変革」に投票すると主張する白人の有権者がいます。彼らはクリントン候補を「現状維持」「エスタブリッシュメント(既存の支配層)」並びに「インサイダー」と捉え、変革をもたらすことができないと信じているのです。
それらに加えて、最終盤における両候補の激戦州における訪問回数の相違をトランプ候補の勝因に挙げることできます。3回にわたって開催されたテレビ討論会が終了した翌日10月20日から投開票日前日の11月7日までの間に、両候補がどの激戦州を何回訪問したのかを調べてみますと、トランプ候補はクリントン候補の約2倍訪問していることが明らかになりました。トランプ候補は、東部ペンシルベニア州を落とした場合を想定して中西部ウィスコンシン州、ミシガン州、アイオワ州及び東部ニューハンプシャー州など他の激戦州をクリントン候補よりもこまめに訪問しています。リスク回避を行っていたのです。
トランプ候補は、最後の駆け引きにおいてもクリントン候補に勝利しました。投開票日の前日、クリントン候補は最後の演説を行う州に南部ノースカロライナを選び深夜から集会を開きました。一方、トランプ候補は当初ニューハンプシャー州を最終演説の州として発表していました。ところが、クリントン候補がノースカロライナ州で集会を終えるという情報を得ると、ニューハンプシャー州からミシガン州に飛び日付が変わった翌日まで支持者にメッセージを発信したのです。ノースカロライナ州の選挙人15をクリントン候補に取られた場合、選挙人16のミシガン州で相殺する戦略に出たのです。ここでも、トランプ候補はリスク回避ができていました。同時に、同候補は自分にはスタミナがあるというメッセージも送ったのです。
■勝利演説のポイント
トランプ候補は、勝利演説の中で国内外に向けてメッセージを発信しました。まず国内の結束を求めた後、勝利に貢献した白人労働者を意識して高速道路、橋、トンネル及び空港などのインフラ整備を行い雇用創出を優先すると主張したのです。続けて、トランプ候補に忠誠を尽くして18カ月の選挙戦を戦った退役軍人を賞賛し、彼らの問題にも取り組むと誓いました。
選挙戦で米国第一主義のスローガンを掲げたトランプ候補は「米国の利益を最優先し、すべての人と公平にやっていきます。他の国と敵意ではなく共通点、対立ではなくパートナーシップを見出していきます」と述べました。トランプ勝利にショックを受けている全世界に向けた最初のメッセージです。
一見、協調性を全面に出しているように解釈できますが、ポイントは「公平」です。トランプ候補には独自の「公平・不公平理論」があり、勝利宣言は他の諸国と公平に取引を行う決意なのです。政策議論において同候補の公平・不公平感に基づいた駆け引きに日本はかなり悩まされることになるでしょう。
■分断の選挙
今回の米大統領選挙は分断をさらに進めました。ことに、人種・民族における分断です。選挙期間中、トランプ候補はヒスパニック系及びイスラム系を標的とし、アフリカ系を侮辱する発言をしました。その狙いは、不法移民や文化的多様性に寛容でない白人労働者のモチベーションを高めることでした。
次に、ジェンダーの分断です。主としてトランプ候補は男性、クリントン候補は女性から支持を得ました。教育レベルによる分断も観察できました。高卒以下はトランプ支持、大卒以上はクリントン支持という構図も存在していました。さらに、共和党内のトランプ対主流派の分断は顕著でした。
戸別訪問を通じてトランプ候補を人種差別者であると断言する多くのアフリカ系やヒスパニック系の有権者に筆者は遭遇してきました。勝利演説でトランプ候補は国内の結束を呼びかけていましたが、困難であることは間違いありません。
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