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トランプ勝利 睡眠薬が必要だ
FINANCIAL TIMES
米国から移住するしかないかもしれない
2016年11月10日(木)
FINANCIAL TIMES
11月8日(現地時間)の朝3時に勝利宣言をするドナルド・トランプ氏(写真:AP/アフロ)
明日、ニュージーランドに飛ぼうと思う。筆者は本気だ。とにかく今は、米国から可能な限り遠く離れるのがよさそうだ。少なくともしばらくの間は離れるのがいい。それに、ニュージーランドのマールボロ地方(南島の北東部)のワインは素晴らしいと聞く。
ニュージーランドで、あのRBGに会えるかどうかは分からない。ラップで有名なグループのRBGのことではない。あの米連邦最高裁判事のルース・バーダー・ギンズバーグ氏のことだ。彼女は今年7月、もし共和党候補のドナルド・トランプ氏が大統領になったらニュージーランドに移住を考えると発言した。確かに公的立場にある人物としてはふさわしい発言ではなかった*。だが、今晩、米大統領選挙の行方を見つつも、そろそろ寝ようかという時間になって、ニュージーランドに移住したら彼女に会えるかもしれないというのは、現実的な話となってきた。
*7月15日にギンズバーグ氏はトランプ氏に謝罪した
ルース・バーダー・ギンズバーグ氏は1993年にビル・クリントン大統領に指名されて以来、今も83歳で現役判事を務める(写真:AP/アフロ)
1972年から米大統領選挙を担当してきた筆者が、記者人生の中でかかわらなかった大統領選は1984年と1988年の2回だけだ。今回の大統領選は、1980年に共和党候補のロナルド・レーガン氏が、現職のジミー・カーター大統領(民主党)を破って当選した選挙を彷彿させる。というのも投票日当日まで、世論調査では実にきわどい接戦になると予測されていたにもかかわらず、レーガン氏が圧勝したからだ。あの時、筆者は世論調査員たちは全員、クビだ、縛り首ものだと言ったのを覚えている。以来、筆者は世論調査の支持率には関心を払わないことにしてきた。
次期国務長官はギングリッチ元下院議長か
投票日当日の夜というのは、選挙キャンペーン中の候補同士の醜いやりとりや、まるで当たらない投票結果予測などすべて忘れてしまえるほど、「これぞ民主主義」という特別な雰囲気がある。今日もテレビ局各社が選挙区ごとの開票の状況を刻々と伝えていた。最もあてになるのは、右派にも左派にも買収されたことのないCNNだろう。CNNでは米国政治担当の責任者ジョン・キング氏が、選挙区ごとの開票結果の分析を伝えていた。
大統領選当夜の躍動感あふれる報道ぶりは実に楽しい。今日のCNNのキャスター、ウルフ・ブリッツァー氏による報道は、エネルギーあふれるケンタッキー・ダービーの様子を報じているかのようだった。大接戦のフロリダ州の開票状況では、「トランプ氏が半馬身リード。でも、今度はクリントン氏がアタマ一つ前に出ました。おっ、トランプ氏に鞭が入った…そこへクリントン氏が手綱を短く持ち直して追い上げます。さあ最後の直線に入った。あと200メートル、残るは(まだ開票されていないのは)デイド郡だけです」といった感じだ。キング氏が興奮気味のブリッツァー氏を抑えようとしたが、無理だった。
少なくとも、知ったかぶりをした専門家たちの話を聞いたり、様々な支持率の調査結果を見たりするより、選挙結果の実況中継を見ている方がはるかに状況が分かる。
この選挙結果を受けて次々に起こるであろうひどい事態が頭に浮かぶが、ウイスキーを飲めば忘れられるかもしれない。たとえば、次期国務長官にはかつて下院議長を務め、一時はトランプ氏の副大統領候補にもなったニュート・ギングリッチ氏(共和党)が指名されるかもしれない。それは、英国をEU(欧州連合)離脱に導いたあの英国の現外相ボリス・ジョンソン氏を不当に評価するに等しい。あるいはかつてニューヨーク市長を務めたルドルフ・ジュリアーニ氏が司法長官に就任するかもしれない。そんなことになれば、中世のスペイン宗教裁判が現代によみがえることになるかもしれない。
日本で学んだ「地方票を軽視してはならない」
こうした悪夢に加え、筆者が今回の選挙で何より衝撃を受けたのは、米国の農業に従事する人々がトランプ氏に投票し、勝利をもたらした点だ。トランプ氏自身は、恐らく牛と豚の見分けもつかないだろうし、彼が踏みしめたことのある草地といえばゴルフコースくらいだろう。だが、今回の州別の投票結果を見れば分かるが、共和党が制覇した中西部などの赤い州は、ほぼどこも人口が少ない(農業が強い)州ばかりだ。
もちろんトランプ氏に勝利をもたらしたのは、苦境が続く北東部のミシガン州、オハイオ州、ウィスコンシン州、ペンシルベニア州など「ラストベルト」と呼ばれるかつての工業地帯で暮らす人々による票も重要な一因だった。だが、とにかく威力を発揮したのはトランプ氏と縁遠い地方票だ。
筆者が東京特派員時代に学んだのは、決して地方票を過小評価してはいけないということだ。これで、米国の巨額に上る農業補助金にメスが入ることは確実にないと言っていいだろう。
クリントン家とブッシュ家は崩壊したということ
「英国のEU離脱が国民投票で決まったくらいだから、トランプ氏の当選もあり得る」と言われてきた点について言えば、多くの理由から英国民が離脱を決めた要因は米国には当てはまらないと考えていた。そう考えるさまざまな根拠があり、どれも筆者にはまっとうに思われた。しかし、我々のような不運なエリート主義者が歴史のかなたに葬り去ったはずと考えてきたナショナリズムや移民排斥主義は今も現実に存在し、まだ健在だったということだ。
今回の選挙で明白になったのは、クリントン家がここへ来て本当に崩壊したということだ。2008年の大統領選挙でも、ヒラリー・クリントン氏が民主党の指名候補をバラク・オバマ現大統領と争って敗れるなど誰一人予想していなかった。だが、今回も結局、クリントン氏が「負ける」などという可能性を誰も考えていなかったということだ。
ジェブ・ブッシュ氏は早々と今年2月に選挙戦から撤退した。つまり四半世紀の間、米国の政治を支配してきたブッシュ家とクリントン家は、まさにエドガー・アラン・ポーの『アッシャー家の崩壊』ではないが、ついに崩壊を迎えたと言える。ニュージーランドへの長いフライトの間、こんなことを考えていたら頭が痛くなりそうなので、フランスのオランド大統領が処方されたというフランスの睡眠導入剤でも飲めば、長時間のフライトに耐えられるかもしれない。
筆者のジュレック・マーティン氏は今はFTを離れているが、1966年から33年間、英フィナンシャル・タイムズで記者として主に米国を担当した。その間、82〜86年まで東京特派員として東アジアを担当した時期もある。97年にはジャーナリズムの分野で大英帝国勲章(OBE)を受賞した。
JureK Martin
(©Financial Times, Ltd. Nov. 9, 2016)
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