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トランプが敗北しても彼があおった憎悪は消えない
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2016/11/post-6179.php
2016年11月4日(金)10時40分 ロバート・E・ケリー(本誌コラムニスト) ニューズウィーク
<米共和党を変質させた史上最も危険な大統領候補トランプは、選挙後のアメリカに醜悪な置き土産を残す>
選挙のたびに、これは「われわれの世代にとって最も重要な選挙だ」と論じるのが、アメリカの政治アナリストのお決まりのパターンだ。いつもなら大げさだと言うところだが、今回の大統領選に限っては認めていい。
共和党のドナルド・トランプはアメリカ史上最も危険な大統領候補だ。白人至上主義を掲げ、共和党を極右政党に変えつつある。16年の大統領選はトランプの大統領としての適性を問う国民投票と化した。とすると投票日が迫るなか、いま一度この人物の言動を振り返る必要がある。
トランプは自分を見つめることも感情を抑えることもない。衝動のままに振る舞うだけだ。あきれるほどに無知だが、事実を知ろうとしないばかりか、事実の重要性が分かっていない。
嘘のうまさにかけては天才的だ。ただし、すぐにボロが出る。彼に性的暴行を受けたと告発している女性は十数人いるが、その1人について、彼は一度も会ったことがないと主張。その舌の根の乾かぬうちに、何十年か前に飛行機でトランプとその女性のやりとりを見たという「目撃者」を引っ張り出して身の潔白を証明しようとした。
これはうっかりミスではない。トランプ側の目的は疑いを晴らすことではなく、有権者をけむに巻いて疑惑をもみ消すことだ。
【参考記事】クリントンよりトランプの肩を持ったFBI長官
トランプは病的なまでに他者を利用し虐待する。「トランプ大学」はだまされやすい顧客から法外な授業料を取り、怪しげな投資ノウハウを伝授する詐欺まがいのビジネスだったという。
女は粗末に扱えば言うことを聞く――そう豪語してはばからないトランプ。その言葉どおり、見知らぬ女性の体を触ったと自慢したくせに、被害を訴えられると、「あんなブスは触る気にもならない」と相手を侮辱した。
おまけにテロ対策として、豚の血に浸した銃弾でイスラム教徒を銃殺する手もある、などとうそぶく始末。アメリカの国益と国際的な評価をこれ以上損なう発言があるだろうか。
■「第2のトランプ」の脅威
トランプの政策は空疎なばかりか矛盾もしている。富裕層への増税を叫んだかと思えば大幅減税を約束し、外国に駐留する米軍を撤退させるとわめいたかと思えば、石油を収奪するために恒久的に駐留させると断言する。いったい何が本音なのか。
彼の発言に一貫性や意味を求めても無駄だ。これらは政策ではないどころか、熟慮したアイデアですらない。その場で相手を言い負かすか、争点をはぐらかすための発言にすぎず、用が済めば忘れられる。
トランプ支持者の集会は暴力的な発言が飛び交うストレス発散の場だ。多くの場合、ジャーナリストが血祭りに上げられる。取材陣は支持者たちに「売国奴」「破壊分子」などと罵声を浴びせられながら、警官に守られて柵で囲まれたスペースに入る。そして1時間か2時間、トランプの罵りに耐え、会場にみなぎる殺意に震え続けた揚げ句、再び警官に守られて柵から出て車に向かう。
これを見ても、トランプが言論の自由を脅かす存在であることは疑う余地がない。最も恐ろしいのは、トランプが大統領になったら、大衆の敵をつくり、憎悪をあおる彼の才能が別の犠牲者を生むことだ。黒人、イスラム教徒、ユダヤ人、女性などがターゲットにされかねない。
【参考記事】<写真特集>究極の選択をするアメリカの本音
たとえ選挙に敗れても、トランプがあおった不満や憎悪はなくならない。アメリカ社会に広がった毒素は再びポピュリズムの政治家に利用されるだろう。
トランプの支持者の間には「盗まれた」選挙への怒りがくすぶり続ける。しかも恐ろしいことに、この国では誰でも軍隊並みの武器を手に入れられる。
世界最大の政治ドラマの舞台で恥をかいたトランプは、今まで以上に支持者たちをあおり、熱狂的なトランプコールを求めるだろう。脚光を浴び続けるためなら、何だってやる男だ。
だがそれ以上に怖いのは、今から4年後にもっとしたたかで自制心のある「第2のトランプ」が登場し、トランプの見果てぬ夢をかなえることだ。
[2016年11月 8日号掲載]
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