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またトランプに追い上げられているクリントン Carlos Barria-REUTERS
メール問題、FBIはクリントンの足を引っ張ったのか?
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2016/10/fbi-1.php
2016年10月31日(月)18時40分 カート・アイケンバウム ニューズウィーク
<コミー米FBI長官は、投票の11日前になってなぜ、証拠かどうかもわからないのにクリントン有罪の印象だけを与える電子メールの存在を明かしたのか。クリントンに勝たせたくなかったからなのか>
ヒラリー・クリントンが国務長官だったときに私用メールアドレスを公務に使っていた問題で、FBIのジェームズ・コミー長官は新たなメールが見つかったと先週金曜に発表した。それがクリントンの不正を示す証拠になるのかどうかもわからない段階、しかも大統領選挙が11日後に迫ったタイミングのこの発表に、ワシントンは大混乱に陥った。
【参考記事】クリントンの私用メール問題はまだ終わらない
FBIの発表は様々な(誤った)憶測を呼んだ。多くの共和党議員は、新たに発見されたメールはクリントンが法を犯した証拠になるかもしれないと言う一方、民主党は投票の2週間前にこうした情報を公開するのは、共和党員のジェームズ・コミーFBI長官の党派主義から出た行動だと批判した。
【参考記事】ク「メール全件削除」に出たヒラリー、疑惑はかわせたのか?
共和党の大統領候補ドナルド・トランプは、これでクリントンが「今まで見たことももないほどの規模で」腐敗していることがわかったと言う一方、クリントン陣営はFBIが新しく発見したという電子メールをすべて有権者の前に明らかにせよ、と主張した。そうすればクリントンは潔白が証明され、FBIの失態がはっきりするというわけだ。
■証拠はまだない
真実は、皆が思うほど劇的なものではない。新たに見つかった電子メールは捜査の間にクリントンが隠していたものでもなく、何らかの不正の証拠でもないと、ある法執行当局者は本誌に語った。それどころか、それらの電子メールはクリントン宛でもクリントンからですらないという。FBIが捜査を「再開した」とメディアが書き立てているのも間違いだ。この捜査はそもそも終わってないし、継続中のケースに新たな証拠が加わるのはよくあることだ。
肝心のFBIのジェームズ・コミー長官は28日の夜、新たに浮上したメールに機密情報が含まれていたかどうかを捜査中だと公表したきり、口を閉ざしたまま。いったいどういうことなのか。
【参考記事】ク米大統領選、本命ヒラリーを悩ます「メール」スキャンダル
新たなメールは、民主党のアンソニー・ウィーナー元下院議員がノースカロライナ州在住の未成年の少女にみだらなメッセージや写真などを送ったという、クリントンとは無関係の事件の捜査に絡んで発見された。ウィーナーは、クリントンの最側近フーマ・アベディンの元夫。FBIは、ウィーナーがアベディンと共有していたパソコンを押収。アベディンが送受信したメールが新たに浮上し、当局が捜査を進めている。
新たなメールが見つかったのには、アベディンのメール管理のあり方が災いした。彼女は4つのメールアカウントを使用していた。1つ目は機密扱いではない国務省のアカウント、2つ目はクリントンの私用メールアドレス、3つ目はYahooだ。そして4つ目がウィーナーのメールアドレスに関連するもので、捜査記録によると、彼女は元夫が下院選に立候補した際に選挙活動を支援する目的で使用した。クリントンが公務にも私用サーバーを使用していたことを把握していなかったアベディンは、4月のFBIによる事情聴取の中で、私用アカウントを使用したのはクリントンの友人とのやり取りなど個人的な事柄に限っていたと説明した。公務に関する連絡は、国務省が割り当てたメールアカウントを主に使用していた。
クリントンはメールを電子端末の画面上より印刷して紙で読む方を好んだため、本文や添付ファイルを印刷して外交文書用郵袋で外交保安局のエージェントが彼女の事務所か自宅に届けていた。一方、アベディンは多くの国務省職員と同様、省内のネットワークの使い勝手が悪いと感じており、大量の文書を印刷するのに手間取っていた。そのため時折、送受信したメールを国務省のメールアカウントからYahooかクリントンの私用サーバーへ転送し、そこから印刷していた。
■側近がクリントンの窓口に
アベディンはクリントンが目を通す必要がありそうなメールを受信するか、クリントンが印刷用にメールを転送してきた場合にも、基本的にこの方法で対処した。FBIの捜査官にも、大量のメールを読まずに印刷することが多かったと証言した。その理由の一つは、国務省の職員らがアベディンをクリントンに通じる「窓口」だとみなし、クリントンに見てほしいメールがあればとりあえず彼女に送っていたためだと、捜査記録に記されている。可能性としてはこの過程で、クリントンの機密メールがやりとりされたかもしれない。
政府関係者は、アベディンが印刷用にメールを転送していたことが、ウィーナーの事件で押収されたパソコンで新たなメールが見つかる結果を招いたと話す。アベディンが問題のパソコンを使って、クリントンとメールを送受信していた証拠はある。ただしその中にFBIの捜査対象になったメールは一つもない。
FBIは日曜、新たに発見した電子メールの捜査令状を取得した。捜査対象になったメールが機密文書に相当しなければ、訴追は免れる。ただし、この時点で捜査が始まるだけでも、選挙戦を優位に進めていたクリントンにとっては大打撃だ。
コミーが28日に米連邦議会の上下両院8委員会に送った書簡によると、彼が新たなメールの存在を知ったのは前日の27日だったという。彼がすぐ公表に踏み切ったのは誤った判断とはいえ、共和党に肩入れしたからではない。彼は9月に議会で「捜査が完了し、訴追に相当しない」と証言しており、新たな捜査について告知を怠れば偽証になってしまう。その結果、コミーは議会に対して出来るだけ早く以前の証言を修正し、捜査を進める義務があると考えたのだ。
だがコミーの判断は結果として、政治的に中立というFBIの評価を傷つけたかもしれない。FBIの職員へのメモで、コミーは議会への手紙を「針の穴を通すような」際どい技だったと言った。進行中の捜査についての詳細は明かさずに自らの証言を訂正しなければならないからだ。だがそれによって、コミーの発表は政治家たちに勝手に色づけされて噂だけが独り歩きすることになってしまった。
真実の一部だけを明かして残りは隠そうとしたことで、コミーは大統領選の帰趨を左右しかねない誤解を招いた。もしこれを正さなければ、FBIの歴史でも最悪の汚点として記憶されかねない。
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