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「フォーリン・アフェアーズ リポート」2016年7月号
P.18〜21
トランプ・サンダース効果と次期大統領 ―― アメリカの貿易政策と外交はどう変化するか
How Populism Will Change Foreign Policy
リチャード・フォンテーヌ
センターフォーアメリカンセキュリティ会長
ロバート・D・カプラン
センターフォーアメリカンセキュリティ シニアフェロー
ドナルド・トランプとバーニー・サンダースはアメリカ社会のムードとアメリカ人が何を望んでいるかについておおむね適切に理解している。現在のアメリカ人は、終わりのない外国での戦争にうんざりし、格差に苛立ち、ビジネス・政治エリートたちに不信感をもっている。貿易を敵視し、対外介入を嫌がっている。したがって、次期大統領は貿易をめぐってはより強固な社会的セーフティネットを準備して、国際貿易批判に対する防波堤を築く必要がある。外交領域では、介入して泥沼に足をとられても、一方で行動を起こさなくても大きなコストを抱え込むことになる以上、相互に関連する慢性的な危機にうまく対処できる政策を形作らなければならない。いずれにせよ、2016年のアメリカの政治を特有なものにしているトレンドが、近い将来に終わることはなく、むしろ現状はその入り口であることを認識する必要がある。
■国際貿易への攻撃
ドナルド・トランプとバーニー・サンダースという2人の大統領候補の台頭を前に、ワシントンの外交エリートたちは、置き去りにされ、困惑している。2人は、数十年にわたってアメリカが外交と国内政策の基盤としてきた基本的前提そのものに異を唱えている。選挙結果がどうなるかを予測するのは時期尚早だが、次期政権のグローバルエンゲージメントが成功するかが、国内ムードを適切に判断できるかに左右されることはすでに明らかだろう。
トランプとサンダースがうまく特定した国内状況とは、高まる一方の深刻な経済不安のなかで、賃金の停滞と拡大する格差への怒りが蔓延し、中間層の再生が待望されていることを特徴とする。こうした国内の暗いムードが外交政策にも大きな意味合いをもつことを、次期大統領は認識すべきだろう。すでに2016年が(アメリカで)「ポピュリズムが台頭した年」として歴史的に記憶されるのは間違いなく、ポピュリズムがなぜ台頭したかを検証せずに、選挙の今後を考えるのは不可能だろう。
主流派ではない2人の候補者たちは、国際貿易をもっとも激しく攻撃した。ドナルド・トランプは「われわれが知るとおり、NAFTA(北米自由貿易協定)はアメリカを破壊した」と主張し、バーニー・サンダースは、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)のことを「労働者、消費者、アメリカの民主主義の基盤と環境を犠牲にして、巨大多国籍企業の利益を守るために設計された壊滅的な貿易協定」と揶揄した。貿易協定に反対する2人の主張に呼応してか、ヒラリー・クリントンもTPPへの反対を表明している。
一見すると、その人口が世界人口のわずか5%程度で、外国市場を確保することを国家的優先課題に据えてきたアメリカにとって、貿易を制限しようとするのは奇妙に思えるかもしれない。(実際これまではそうではなかった)。ビル・クリントンは、ジョージ・H・W・ブッシュ政権が交渉したNAFTAに調印し、ジョージ・W・ブッシュ大統領もオーストラリア、チリ、ヨルダンその他との自由貿易合意をまとめている。コロンビア、パナマ、韓国との貿易協定がオバマ政権期に発効し、オバマ大統領自身、TPP協定の合意形成を試みた。
それでも、アメリカ人の多くは「国際貿易は労働者を苦しめ、豊かな企業に利益をもたらすだけだ」と考えている。例えば、最近のピューリサーチセンターの世論調査によると、米市民の半分は「賃金を引き下げ、雇用を少なくするグローバルな経済エンゲージメントは悪いことだ」と考えている。
米議会が大統領に、新しい貿易合意を迅速かつ合理的にまとめるために貿易促進権限を与えてまだ一年と経っていないが、次期大統領はより強固な社会的セーフティネットを準備して、批判に対する防波堤を築く必要があることは明らかだろう。その一環として、国際貿易によって職を失った労働者のための教育と再訓練プログラムを用意する必要がある。
<対外関与批判>
ポピュリストが批判の矛先を向けているのは国際貿易だけではない。トランプとサンダースは、オバマの言う「国内の国家建設」を重視し、市民もこの路線を支持している。
ピューリサーチセンターの世論調査によれば、殆どの米市民は「アメリカは国内問題に専念し、諸外国は可能な限り、自分で問題を解決すべきだ」と考えている。サンダースとトランプはともにブッシュ政権のイラク戦争、オバマのリビア介入、そして民主化促進策として相手国の体制変革を試みるという概念そのものを批判している。かたやヒラリー・クリントンは、上院議員としてイラク戦争やリビアへの人道的介入を支持したことで批判されている。
一方で、アメリカ人はテロとの戦いには依然として前向きで、イスラム国(ISIS)をアメリカに対する主要な脅威とみなしている。ここにおける教訓ははっきりしている。
アフガンやイラクでの戦争、リビア介入の失望を禁じ得ない結果を前に、アメリカの大衆は「ワシントンの指導者が明確に定義できる国益が脅かされていないのに、コストのかさむ軍事的冒険に乗り出すことを望んでいない」。市民たちは、指導者たちがこの点を十分に認識することを望んでいる。それでも「同盟諸国が協調し、事態が進展すること、そして、戦争をするのなら犠牲者が少なく、短期間で終わること」を米市民は望んでいる。次期大統領が大衆の支持を確保するには、アフガン、リビア、シリアでの紛争を下火に向かわせるとともに、今後起きる新しい紛争についても大衆のこうした思いに十分配慮する必要があるだろう。
さらにポピュリストたちは、アメリカは自信をなくしつつあるとみている。トランプが「アメリカを再び偉大な国にする」と約束しているのはこのためだ。実際、PEWの世論調査によれば、ほぼ半数のアメリカ人が、10年前に比べてアメリカの世界における役割はかつてほど重要でも、パワフルでもなくなったと考えている。この認識と対外エンゲージメントに消極的な態度に矛盾はない。大衆はアメリカがパワフルであることを望んでいるが、対外的にエンゲージするとすれば、明確に定義された擁護すべき国益が存在し、しかも関与の成功を期待できる地域にだけエンゲージすることを望んでいる。
もちろん、サンダースとトランプは、アメリカの病への処方箋を示しているが、病んでいるという認識は間違っている。とはいえ、2人はアメリカ社会のムードとアメリカ人が何を望んでいるかについては概して正しい判断をしている。現在のアメリカ人は、経済と国土防衛を気に懸け、終わりのない戦争にうんざりし、ビジネス・政治エリートに不信感をもっている。誰が大統領になろうとも、こうした感情が一夜にして消えることはない。
歴史的にみれば、米大統領のなかには、ポピュリズム感情を利用して、うまく国の刷新へと向かわせた人物たちもいる。選挙に敗れたライバル候補たちが示した処方箋を利用して、外交政策を持続的な成功に導いた大統領もいる。例えば、1896年と1900年の大統領選挙でウィリアム・マッキンリーに敗れた民主党の大統領候補ウィリアム・ジェニングス・ブライアンが重視した市民の正義と良識という考えを、後に、セオドア・ルーズベルトやウッドロー・ウィルソンは国内アジェンダの一部として取り込んでいる。冷戦に勝利するというロナルド・レーガンのビジョンも、部分的ながらも、1964年の共和党大統領候補でコロラド州選出の上院議員バリー・ゴールドウォーターの考えに刺激されている。
次期大統領はオバマの政策よりも積極的で、ジョージ・W・ブッシュのそれほど拡大的ではない外交政策をとる機会を手にしている。介入して泥沼に足をとられても、一方で行動を起こさなくても大きなコストを抱え込むことになる、相互に関連する慢性的な危機にうまく対処できる政策を形作るチャンスを手にしていると言い換えることもできる。しかし、2016年のアメリカの政治を特有なものにしているトレンドが、近い将来に終わることはなく、むしろそのプロローグであることを先ず認識しなければならない。●
Richard Fontaine センターフォーアメリカンセキュリティ会長。国務省、国家安全保障会議などを経て現職。
Robert D. Kaplan アメリカの作家、ジャーナリストで、センターフォーアメリカンセキュリティシニアフェロー。専門はアメリカの政治と外交。冷戦後の1994年に冷戦後の特質を「カミング・アナキー(来るべき無秩序)」と 位置づけるエッセーを発表し、世界的に大きな注目を集めた。
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