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規制されないまま途上国で深刻化するオピオイド危機
歯止めかからない「トラマドール」のまん延
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トラマドールを5年飲み続けた後にやめたフセインさん(28)は強い禁断症状に苦しんだという PHOTO: MACKENZIE KNOWLES-COURSIN FOR THE WALL STREET JOURNAL
By
JUSTIN SCHECK
2016 年 10 月 24 日 06:26 JST
【ガルア(カメルーン)】オランダの神経生物学者が少し前、驚くべき発見をした。西アフリカの農村部で痛みを和らげるのに使われる植物の根に、オピオイド系鎮痛薬「トラマドール」に似た成分が含まれているというのだ。
その1年後、独ドルトムント大学の化学者2人がこの珍しい植物について異なる見立てをした。安価な輸入トラマドールが乱用され、人間や動物の排泄物から地下水や土壌にしみ出すため、植物がそれを吸収したのだという。
カメルーンの多くの農家が牛を働かせるためにトラマドールを与えている PHOTOS: MACKENZIE KNOWLES-COURSIN FOR THE WALL STREET JOURNAL
カメルーン北部の農家は研究者らに対し、自分たちは安全な投薬量の2〜3倍を摂取しており、過酷な暑さの中で農作業をさせるために畜牛にも与えていたと語った。
同国北部ガルアの綿工場で働くママドゥさん(35)は「これがないとだめだ」と話す。ポケットから赤い錠剤を取り出し、生ぬるいパイナップル・ソーダで流し込んだ。5年前からトラマドールを飲み始め、1日におよそ675ミリグラム摂取している。推奨される短期的な投薬量の2倍以上だ。「ここでは誰もが使っている」。彼の母親も、兄弟も、「年寄りも」だと話す。
トラマドール依存はアフリカ・中東全体にまん延し、アジアや東欧の一部にも広がる。中国の研究者は広州での乱用を確認し、エジプト政府はカイロのタクシー運転手などの乱用を取り締まっている。サウジアラビア当局は5月、冷凍肉に隠して密輸しようとした数千錠を差し押さえた。ペルシャ湾沿岸では他に数十件が摘発されている。昨年の米ドキュメンタリー映画ではウクライナのストリートチルドレンが薬を乱用する様子が描かれた。
ガルアのバイクタクシーの運転手の間にトラマドールはまん延する PHOTOS: MACKENZIE KNOWLES-COURSIN FOR THE WALL STREET JOURNAL
先進国にも影響が広がる。米国では合成オピオイド「フェンタニル」の中毒がすでに深刻だが、薬物乱用・精神衛生管理庁(SAMHSA)によると、トラマドールに関連する救急搬送は2011年には2万1649件に達し、05年から3倍以上増えたという。
規制対象から外れるトラマドール
オピオイド系鎮痛剤は、植物のケシから採れるアヘンに似た化学薬品だが、その中でトラマドールは効き目や依存性が特に強いわけではなく、これほど乱用されるのは化学的特性よりも国際的な規制環境が背景にある。
国際麻薬統制委員会(INCB)は50年前からほぼすべてのオピオイドの取引を規制しており、各国の生産量や輸出入量を割り当てている。トラマドールは当初、乱用傾向はないというずっと以前の研究結果に基づき、規制対象から外された。こうした誤解はトラマドールの奇妙な性質のせいだという。初期のテストは経口投与より効果が出やすい注射で行われていたが、最近の研究で、トラマドールは経口摂取したほうがより強い効果を生じ、モルヒネを上回る場合があることがわかった。
トラマドールの消費量の伸びは他のオピオイドの輸出量の伸びを上回る
(左)主な規制麻薬の輸出量(グレー:コデイン、黄色:モルヒネ、水色:リン酸ジヒドロコデイン、2000〜12年の累計) (右)世界のトラマドール消費量(2000〜12年の累計)
https://si.wsj.net/public/resources/images/P1-BY983_TRAMAD_16U_20161018181507.jpg
INCBの規制対象ではないトラマドールは、カメルーンのような途上国のがん患者や手術後のケアに使える唯一のオピオイド系鎮痛剤で、「国境なき医師団」は「不可欠な薬」としている。INCBに医薬品の規制について勧告する世界保健機関(WHO)の専門家委員会は、トラマドールの合法的な入手方法を制限することを恐れ、今後の規制は「未定」だと言い続けている。
トラマドールの生産も輸出も無制限であるため、ジェネリック医薬品大国のインドから毎日、赤い錠剤や緑のカプセル、粉末トラマドール入りの青い樽がコンテナに詰められて出荷される。ムンバイ近郊の「ファーマリンク・ラボラトリーズ」からアフリカ西部のベナンに向け、トラマドールを輸出するゴパル・アガルワル氏は「われわれに分かるのはグレーな市場だということだけだ」と語った。
急増する消費量
麻薬規制の枠組み作りは1961年に始まった。73カ国の代表が国連本部に集まり、麻薬は「苦痛の緩和に不可欠」だと宣言するとともに、2つの目標を掲げた。苦痛緩和のためのオピオイドの「供給を確保する」こと、麻薬中毒の「深刻な害悪」を「予防し、戦う」ことだ。執行機関としてINCBが設立された。
ドイツの製薬会社グリューネンタールは翌年、ケシ由来の「コデイン」を単純化した咳止め薬としてトラマドールを開発した。15年後、トラマドールがさまざまなタイプの痛みに効くことがわかった。ドイツ当局は77年に販売を許可。トラマドールは鎮痛薬として急速に人気が高まった。
PHOTO: JUSTIN SCHECK/THE WALL STREET JOURNAL
調査会社IMSヘルスの集計に基づくグリューネンタールの発表によると、トラマドールの1994年の世界消費量は2万5000キログラム以下だった。1年後に米国が販売を許可し、世界中で消費が増え始めた。
WHOの委員会が2000年にトラマドールを再検討したとき、世界の出荷量は14万8000キログラムに増えていた。委員会は乱用や禁断症状を理由に「薬物を渇望する行動と関連がある」とし、「モルヒネのような依存を引き起こす可能性」を指摘した。
オマル・アジズさんはトラマドールの過剰摂取で何度も倒れたが、やめられないと話す PHOTOS:MACKENZIE KNOWLES-COURSIN FOR THE WALL STREET JOURNAL
インドからのトラマドール輸出が増えると、アフリカや中東諸国の政府は貿易規制に乗り出した。輸出業者は麻薬規制が緩やかな小国ベナンの中間業者に向けて輸出するようになり、そこからナイジェリアを経由してカメルーンに運ばれるルートができた。
カメルーン北部のガルアにもトラマドールは届けられる。男たちは街頭で「スーパーロイヤルX-225」と書かれた箱を買う。オマル・アジズさん(35)はガルアの南方にあるヌガウンデレで床屋を営んでいる。2008年にトラマドールを飲み始めたが「私をとても強くしてくれる」と言う。
彼は同じ効果を得るために、服用量を増やし続けた。自分は怒りっぽくなり、すぐけんかをすると彼は話す。過剰摂取で発作を起こし、倒れたことも何度かある。それでも飲むのを止めなかった。やめると体調が悪くなるからだ。
ガルアの病院で、医師のイブラヒマ・アマドゥさんが調べたところ、交通事故が原因で救急搬送された患者のうち約80%の事故にトラマドールを服用した運転手が関係していた。彼は毎週、トラマドールを過剰摂取した患者を診ていると話す。命に関わる場合もあるという。
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