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フィリピンの首都マニラで、同国軍の兵士らを前に演説するロドリゴ・ドゥテルテ大統領(2016年10月4日撮影)。(c)AFP/TED ALJIBE〔AFPBB News〕
アメリカにも中国にもなびかないフィリピン大統領 日本も学ぶべき?暴言の裏で現実を見据えるしたたかな外交
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/48151
2016.10.20 北村 淳 JBpress
フィリピンのドゥテルテ大統領が、アメリカ大統領などへの暴言を連発して物議を醸している。一時は米比同盟から離脱するようなニュアンスまで醸し出していた。
だが、ドゥテルテ大統領が親中派というのは単純過ぎる見方である。10月18日からの中国訪問を前に、米比同盟関係は維持していくとの意向を明らかにした。
これまで数々の暴言によって、米比同盟を破壊してしまうのではないかと危惧するメディアも少なくなかった。しかし、米軍関係戦略家たちの間では「ドゥテルテ大統領といえども米比同盟を破棄して中国にすり寄っていくほど単純なスタンスをとることはありえない」と考えられていた。
「ドゥテルテ大統領は、『フィリピンの国益にかなうと判断した外国からのオファーはできるだけ受け取った方が、当面は良いに決まっている』という実利的方針を貫こうとしている。そのため、自らが推し進める強硬な“対麻薬戦争”に横やりを入れるオバマ政権には強烈に反駁し、そのような口出しをしない中国からのインフラ整備の申し出などは受け入れようとしているに過ぎない」と多くの米軍戦略家たちは理解してきた。
日本の少なからぬメディアは、ドゥテルテ大統領の祖母が華僑系であったため「親中派である」といったレッテルを貼りたがる傾向がある。だが、前フィリピン大統領アキノ氏は、ドゥテルテ大統領より華僑系の血が濃いにもかかわらず、バリバリの反中派でアメリカ“ベッタリ”であった。
どうも、日本のメディアの多くは、たとえば日系アメリカ人だと親日派だと勝手に理解してしまう傾向がある。ドゥデルテ大統領に関してもそのような思い込みでのレッテル貼りをしているようだ。しかし、米軍関係者たちはそのような単純な見方はしていない(もちろん、他国の大統領に暴言を吐きつける態度を容認しているわけではないが・・・)。
■米比同盟関係は維持される
実際に、米比同盟関係が維持されていることの副産物として、日本からの軍事的支援を受け入れたアキノ前大統領の路線は、ドゥテルテ大統領もそのまま受け継いでいる。
先日(10月12日)も、日本政府が円借款により10隻供与することになっている沿岸警備隊巡視船の一番艦の就役式に出席したドゥテルテ大統領は、「日本はフィリピンへの最大の貢献者であり、日本の人々に感謝する」と述べている。
そして、ドゥテルテ大統領は中国訪問に関連してのインタビュー番組で、「フィリピンのような軍事的弱小国は強大な軍事力を誇る中国と軍事的に対決することなど不可能であり、外交的駆け引きによって国益を維持しなければならない」と語っている。また、「7月の国際仲裁裁判所の裁定を捨て去ることや、スカボロー礁や南沙諸島の島々の領有権を中国に明け渡してしまう、といったことは、もちろんフィリピン大統領としてはしてはならない」とも明言した。
つまり、中国と外交的に良好な関係を構築するとはいっても、あくまでもフィリピンの領域まで犠牲にして隷従関係を受け入れることを意味しない、ということを、一国の指導者としてフィリピン国民に対して再確認したわけである。
「(今年で)おそらく最後」と発言していたアメリカ海兵隊とフィリピン海兵隊の合同演習についても姿勢を修正し、「来年の合同演習は中止する」として再来年には再開する可能性を打ち出した。そして、「米比同盟関係は今後も維持していく」と明言した。
「フィリピンのために進んで死をも厭わないのはフィリピン人だけだ」とも述べて、米比同盟だけに頼り切るのは危険との考えも明言しているが、米軍関係者たちの多くは「なんだかんだ悪態をついてはいても、基本的には米軍との関係は維持していく方向で落ち着きそうだ」と考えている。そしてカーター国防長官も「米比関係はきわめて強固である」と明言している。
■スカボロー礁紛争が棚上げされる可能性
ただし、東アジア情勢とりわけ南シナ海情勢に目を光らせねばならない戦略家たちの間には、一縷の危惧が存在している。
すなわち、「フィリピンの国益にかなうのならば、アメリカでも日本でも中国でもどの国の申し出も受け入れる用意がある」とするドゥテルテ大統領の実利的方針に、中国側があの手この手でつけ込み、スカボロー礁でのフィリピンと中国の間の領有権紛争を「棚上げ」状態にしてしまうのではないか、といった心配である。
中国が領有権紛争において時間稼ぎとして「棚上げ」をすることは、日本との東シナ海紛争で実施してきた前例がある。現時点で国際社会の注目を(少しながら)浴びているスカボロー礁でも、中国には国際社会の関心が薄れるまでの時間稼ぎが必要だ。
そこで、中国は、ドゥテルテ政権と何らかの外交的取引をして時間稼ぎをしている間に、スカボロー礁の軍事拠点化を進めてしまうのではないかと米海軍関係者たちは恐れている。
スカボロー礁に本格的軍用航空施設、海軍施設、各種民間施設などが建設されて、人民解放軍の前進拠点となってしまった場合、いくら米比同盟に基づいてアメリカ軍がスービック基地をはじめとするフィリピン国内への駐留を再開したとしても、米軍の南シナ海での作戦行動は大きく制約を受けてしまう。
南シナ海に面した軍用飛行場
■現実を直視しているドゥテルテ大統領
ただし、ドゥテルテ大統領が口にしているように、「フィリピンのために進んで死をも厭わないのはフィリピン人だけだ」と言うのもまた真実である。つまり「いくら米比同盟が存在するといっても、すでに出来上がってしまった南沙諸島の7つの人工島や、中国が実効支配中のスカボロー礁を、アメリカ軍が奪い返してくれることは期待できない」とドゥテルテ大統領は考えているのだ。
アメリカ海軍関係者たちも、「アメリカが米中全面戦争を覚悟してまでそのような軍事行動に出ることはあり得ない」ということを十二分に承知している。それゆえに、フィリピンが中国と領域紛争で何らかの政治的妥協をなし、アメリカ軍の作戦行動が大きく制約を受けてしまう事態が現出することを恐れているのである。
日米同盟関係が存在しさえすれば、「日本のためにアメリカの若者が死をも厭わず戦ってくれる」と考えてしまっているとしか思えないほど自主防衛意識が欠落している日本の多くの政治家たちは、ドゥテルテ大統領の言動から、アメリカとの軍事同盟に投げかけられている“謎かけ”を読み取らねばならない。
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