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米フロリダ州レイクランドで行われた選挙集会で、「女性はトランプを支持する」と書かれたプラカードにキスする大統領選の共和党候補ドナルド・トランプ氏(2016年10月12日撮影)。(c)AFP/MANDEL NGAN〔AFPBB News〕
「ドナルド・トランプの米国」の生と死 寿命が短くなる白人ブルーカラー男性、ソ連崩壊後のロシアに共通
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/48141
2016.10.18 Financial Times
(英フィナンシャル・タイムズ紙 2016年10月10日付)
ソビエト連邦崩壊後の1990年代に、ロシアでは男性の寿命が急激に短くなった。巷では、ウオツカの消費量が増えたからだと言われた。片や米国では、ブルーカラーの男性の死亡率が上昇している。こちらはオピオイド鎮痛剤の流行が原因だとされることが多い。どちらの論評も、症状を原因だと見なす間違いを犯している。
ドナルド・トランプ氏の支持基盤とソ連崩壊後のロシア人男性の間に共通しているのは、意欲の低下だ。それは彼らの世界が消滅しつつあるからだ。タイムマシンでも発明しない限り、その世界を取り戻すことは誰にもできない。
トランプ氏が11月の本選挙で負けるか否かはともかく、彼が立候補したことで、悪意に満ちた新種の政治が目覚めてしまった。その名をホワイト・バックラッシュ(白人たちの巻き返し)と言い、しばらくは消えそうにない。
これに同調するグループに見られるトランプ支持の心情は、彼が何を言ったりやったりしてもまず変化しない。実際、トランプ支持者が米共和党のエスタブリッシュメントに抱いている侮蔑の気持ちは、トランプ氏の女性蔑視発言が公になってから大物の共和党員たちが次々に支持を撤回していることで、むしろ強化される公算が大きい。
米国の白人ブルーカラーの地位は、相対的にも絶対的にも低下しつつある。相対的には、米国では過去100年近くで最悪の所得格差の底辺に置かれている。ここには、この世で何年生きられるかという究極の格差も含まれる。1970年には、低所得の中年男性の平均寿命は高所得の同じ年齢の男性のそれよりも5年短かった。1990年までに、この差は12年に広がった。最新の推計ではほぼ15年になっている。
所得のせいで15年早く死んでしまうだけでも十分にひどい話だが、自分の両親が亡くなった年齢に達しないうちに死ぬことが予想されるとなれば、もっとひどい。これは西側諸国全般で、とりわけ米国では当たり前だと思われてきたこととは正反対の現象だ。米国の独立戦争(独立革命)のころ、平均寿命は38歳だった。1920年までにはこれが57歳に延び、現在は78歳になっている。
シリコンバレーには、人類は死そのものをなくそうとしているという突飛な考えの持ち主もいる。だが、経済学者のアン・ケイス、アンガス・ディートン両氏によれば、ブルーカラーの中年男性の平均寿命は今、実際に短くなりつつある可能性があるという。
いったい何が、このような米国らしからぬ敗北主義をもたらしたのだろうか。それは、ほかの米国人のほとんどがまずまず良い暮らしをしているためでもある。ヒスパニックやアフリカ系米国人は、全体的に見れば白人よりも貧しいものの、彼らはかなり貧しい状況からスタートしている。寿命もゆっくりとではあるが延びている。
ここで重要なのは、延びているのか縮んでいるのかという方向性だ。自分の子供たちの将来について、非白人の米国人が白人の米国人よりもはるかに悲観的でないことは、この寿命の方向性で説明がつく。
また、敗北主義は人種がらみの単なるノスタルジアでもある。米国の中間層の全盛期だった1950年代には、白人はまだ圧倒的な多数派だった。2042年までには、いくつかあるマイノリティー(少数派)の1つになってしまうだろう。また、1950年代には工場で働けばまずまずの暮らしができた。今では、大学で学位を取るか非常に特殊なスキルを身につけるかしていなければ、まずまずの暮らしができる職には就けない。
今日の米国では、働き盛りのブルーカラーの男性は6人に1人の割合で失業している。これはイタリアを除くほかの裕福な国々のどこよりも高い比率だ。プリンストン大学の経済学者、アラン・クルーガー氏によれば、この男性失業者の半分以上は鎮痛剤の処方を受けている。その3分の2はオピオイドだ。現実逃避のメタファー(暗喩)として、大量消費されているオピオイドの1つ「オキシコンチン」以上にうってつけのものは、なかなか思い浮かばない。
トランプ氏は白人ブルーカラーの間で人気を得ているが、その大半は、政府支給の給付金には手を付けないという共和党では異例の公約によるものだ。ほとんどの共和党員は、社会保障費を削ったり年金の支給開始年齢を引き上げたりしたいと思っている。これを実行に移せば、所得格差はさらに悪化するだろう。もし寿命が短くなるのであれば、年金の支給開始年齢が引き上げられた後に受給できる手当も少なくなる。
トランプ氏が本選挙で敗北すれば、排外主義という同氏の政治姿勢やポリティカル・コレクトネス(政治的公正)への反発も終わりを迎えると考えるのは誤りだ。穏やかな表現でいうなら、トランプ氏は、そうした苛立ちのはけ口となる不完全な管だ。
そのうえ、同氏の治療法――「米国主義」を優先させて米国主導のグローバリズムに終止符を打つ――は病気そのものより悪い結果をもたらすだろう。同氏の支持基盤は、ほかのどの所得階層よりも手痛い打撃を受ける。そう、家計に最も大きなダメージが及ぶのは、普段ウォルマートで買い物をしている人たちなのだ。さらに言うなら、トランプ氏は炭鉱や工場を再開させるという公約も果たすことはできない。
だが、トランプ氏が簡単に実行できる公約、すなわち減税は、同氏をホワイトハウス入りさせるのに貢献する所得格差を劇的に悪化させるだろう。トランプ氏が大統領に当選し、かつその政策が失敗したときにどのような揺り戻しがあるのかを予測するのは困難だが、心地よいものにはまずならないだろう。
とはいえ、テクノクラート的な左派の提案する解決策も、信頼感を抱かせるものにはなっていない。J・D・バンス氏が著作『Hillbilly Elegy(ヒルビリー・エレジー)』で描いているように、アパラチア山脈に住み着いたスコットランドやアイルランドからの移民にとって、公的支援は、都会の荒廃地に住むアフリカ系米国人の場合と同じように、限定的な効果しかもたらしていない。
公的支援は、人々を生きながらえさせることはまだできているが、生きていけなくなる水準との差は以前に比べれば縮小しており、人生でめぐってくるチャンスを変えることにはほとんど貢献していない。つまり、より優れた職業訓練とインフラが強く求められているのだ。
トランプ氏を支持しない保守派の言い分にも一理ある。米国の白人の貧困層は自助を拒み教育をさげすむ、さらには家庭も崩壊に至りやすい文化にとらわれてしまっているのだ。バラク・オバマ大統領はかつて、アフリカ系米国人のコミュニティーが勤勉な学生に「白人気取り」という烙印を押していると批判したことがある。
バンス氏は、スコットランドやアイルランドにルーツがある米国人の間にも同様な傾向が見られると述べている。勉強好きな学生はゲイだと見なされ、仲間はずれにされるのだという。
どのような種類のプログラムを実施すれば、こうした状況を是正できるのだろうか。もし米国がシンガポールだったら、恐らくいろいろな所得階層の人が入り混じったコミュニティーに人々を移住させることだろう。高い水準に到達した集団の近くにいればいるほど、自分も高みを目指せる可能性が高くなるからだ。
しかし、米国は民主主義国だ。何が良いかを官僚が勝手に決めてしまうソーシャル・エンジニアリングは圧政だ。米国の良い面は、自由が掛け値なしの自由であること。悪い面は、遠い先の未来まで米国の政治を混乱させることができるほど社会の敗者が多い、ということだ。トランプの米国は、あの不快なチャンピオンよりもずっと長生きするだろう。
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