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脱原発に続いてガソリン車「廃絶」へ!? ドイツの政策は矛盾だらけ いくらなんでも現実性が…
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49947
2016.10.14 川口マーン惠美 現代ビジネス
■シュピーゲル誌のスクープ
「2030年以降は、自家用のガソリン車とディーゼル車の新規登録は中止する」という方針を、ドイツの連邦参議院が超党派で表明したそうだ。既成の内燃機関への“死刑宣告”である。
ドイツは連邦共和国であり、各州の権限が大きい。その各州の代表で構成されているのが連邦参議院で、そもそもは、各州が自分たちの利益を主張するため、あるいは、州レベルで団結して連邦政府に対抗するための仕組みとなっている。
つまり、連邦参議院がガソリン車とディーゼル車の将来的な廃止を推し進めるなどということは、これまでの例から言えば、かなり突拍子も無いことだ。
この決定はすでに9月23日になされており、聞くところによれば、ドイツだけでなく、「EU全体でのガソリン車とディーゼル車の廃止」、そして「電気自動車の普及」が目標らしい。
いずれにしても、現在のEUでは、自国のことを自国で決めることが難しくなっており、連邦参議院はこの案を、EUの該当機関に提出したそうだ。それが書類の山に紛れてそのままになっていたのをシュピーゲル誌が掘り出し、10月9日、特ダネとして報道した。もちろん、ドイツは大騒ぎになった。
ただ、この過激な案は、参議院の全会一致で決まったわけではない。有力州であるバイエルン州、およびバーデン=ヴュルテンベルク州の州首相は、反対意見を表明している。
バーデン=ヴュルテンベルクは、現在、ドイツ史上唯一無二、緑の党の州首相を担ぐ州だが、メルセデスとポルシェの本社があり、自動車産業が突出している。いくら緑の党といえども、電気自動車への急激なシフト案に賛同するなどということはありえない。
コメントを求められた連邦の交通大臣も、「2030年という日時が非常に非現実的であり、馬鹿げている」と言い切った。
一方、面白いことに、フォルクスワーゲン社のふるさとで、これまで同社の成功とともに生きてきたニーダーザクセン州(SPD・社民党が州首相)は、今回、ガソリン車を葬るこの案に賛成したという。排気ガスをごまかす不正ソフト事件以来、多大な経済的被害を受けているため、かなりやけくそになっているのだろうか。
ただ、傾きかけているフォルクスワーゲン社が、電気自動車に切り替えてすばやく復活できるとも思えない。いや、そもそも、電気自動車の急速な発展の可能性自体が、今のところ、かなり不透明である。
■ドイツの電気自動車はわずか2万5000台
現実性が欠けているのは、ドイツ政府も似たようなものだ。
実は2012年、ドイツ政府は、「2020年までに100万台の電気自動車を普及させる」という目標を打ち立てた。ところが、それが全然進まないため、2016年7月からは、電気自動車を買った人には4000ユーロ、プラグイン・ハイブリッド車には3000ユーロの現ナマが支給されることになった。「環境ボーナス」と呼ばれる補助金である。
この補助金を誰が支払うかというと、国と自動車のメーカーが折半する。といっても、すべてのメーカーが払うわけではなく、申し出た会社だけ。今のところ、メルセデス、フォルクスワーゲン、BMWの3社が参加しているという。
ただ、ドイツのメーカーは、もともと電気自動車分野はあまり強くない。これまでドイツで電気自動車が売れるとすれば、ほとんど日本車かフランス車だった。補助金でお客が増えるかどうか……。
補助金支給後2ヵ月が経ったところを見ると、ドイツ政府の意に反して、ドイツ車であれ、日本車であれ、やはり電気自動車の売り上げはあまり伸びていない。この2ヵ月間でドイツで新しく登録された電気自動車は、プラグイン・ハイブリッド車も合わせてたったの3027台。ほとんどの人は、補助金をもらっても、プラグイン・ハイブリッド車さえ買わないということである。
電気自動車は値段が高い。4000ユーロの補助が出ても、まだガソリン車よりも高い。また純粋な電気自動車は走行距離が短いことも難点だ。毎日何百キロも走る人はそうたくさんはいないが、しかし、ドイツ人は休日や休暇中に車で遠出をすることが多い。そんなとき、充電施設を探して右往左往するのはごめんだと、皆が思うのだろう。
現在、ドイツで登録されている乗用車の総数は4385万台強で、そのうち電気自動車はたったの2万5000台。まだ0.1%にも満たない。これでは2020年までに100万台どころの話ではない。
しかも、現在走っている電気自動車の多くは、メーカーやディーラーが自ら登録したものだそうだ。有名人に格安で提供して、宣伝のために乗ってもらっているものもある。その他の購入者は、役所、企業が多く、「私は100%電気で走っています」などと横腹に書いて、クリーンイメージ作りに一役買っている。
電気自動車の普及に関しては、おそらくドイツよりも日本の方が上だろう。
■ガソリン車と電気自動車の違いは?
ただ、ドイツ人が始めたこのガソリン車廃絶の試みには、実はお手本がある。ノルウェーである。
ノルウェー政府は、ガソリン車とディーゼル車の新規登録は2024年までで終了し、25年からはそれ以外の自動車しか認めないことにするつもりだ。ノルウェーはEUに加盟していないので、我が道を行ける。
それにノルウェーの場合、実績もある。この国では、寛大な優遇政策を取ったためもあり、新しく登録される車の約15%は、すでに電気自動車なのだ。
畜電池に関する問題はまだ多いし(一番電池の性能のよいのは日本車だとのもっぱらの評判)、優遇政策にあまりにお金がかかりすぎるので、この政策がそのまま続くかどうかはちょっと疑問だが、それでも、いまのところ、電気自動車がこれほど普及している国はEUにはない。
しかもノルウェーは、その恵まれた地形と自然により、使っている電気がほぼ100%水力電気だ。だから、電気自動車が増え、そのために電力の使用量が増えても、CO2が増えるわけでもない。
それに比べて、ドイツは問題が多い。今でさえ、発電の45%近くが石炭と褐炭で行われており、大気汚染は激しい。去年の12月に決議された温暖化防止のパリ協定を本当に守ろうとしたら、こんなことは続けていられない。
とくに私の住むシュトゥットガルトは盆地で風がないため、大気汚染がドイツで一番ひどく、光化学スモッグのため、市が市民に車の運転を控えるよう強く要請した日もあった。
原発の電気を再エネで代替しようというのは、良いアイデアではあるが、今のところ現実的ではない。再エネに頼っていれば、電気の安定供給が損なわれて産業は破綻する。電気自動車だって、夜の間に充電しようにも、太陽光の電気は夜にはない。夜、風が吹かなければ、翌日は車が使えないということになる。
巨大な蓄電池を二つ使って、昼間に充電しておいたものと付け替えるというのも、大変な手間だ。蓄電池は高価でもある。だからドイツの経済エネルギー大臣も、「原発と火力の両方を一度に止めることはできない」と、そこだけは太鼓判を押している。
ただ、火力の運命も過酷だ。ドイツの取っている再エネ優先政策の下、火力はただのピンチヒッターに成り下がってしまったので、発電所はどこも火の車である。しかも撤退することは許されない。そこで経費節減のため、仕方なく安い褐炭を使う。CO2が増える。
こうなれば、ガソリン車と電気自動車の違いは、CO2を自動車が吐き出すか、あるいは、その前に発電所が吐き出すかということになってしまい、電気自動車を買うモチベーションはさらに下がるだろう。
■原発廃止を叫ぶ前に
ドイツの政策には矛盾が多い。全然、環境のためになっていない脱原発をむりやり進め、産業国の最重要インフラを支えてきた電力会社を、軒並み大赤字に陥れてしまった。
そのうえ、充電の設備も作らず、2020年までに電気自動車を100万台にするなどといい、税金から補助金を吸い上げている。なぜ、車に乗らない人たちまでが、電気自動車を買う人に資金援助をしなければならないのか?
そもそもドイツという国は、自動車産業とともに発展してきた国だ。その基幹産業を、これほど急激に潰そうというのは解せない。
将来、電気自動車が乗用車の主流となっていくだろうことは否定しないが、それには、十分な充電施設を作らなくてはならない。そして、CO2を出さない発電所を整えなければならない。それらを一切無視して、自動車だけを売ろうとするのは馬鹿げている。
現在、温暖化防止のパリ協定の批准が進んでいるが、内容が非現実的すぎて、どの国もたいして守る気はない。守らなくてもよい協定ほど、皆、進んで批准する。日本は、批准したら守らなくてはいけないと考えているので、批准が遅れた。根本的に間違っている。どちらが間違っているのかは考え方次第だ。
しかし、そうするうちに、地球の温暖化は確実に進んでいく。CO2の最大の発生元は火力発電所だ。日本は、去年、1億トンの石炭を輸入し、燃やした(発電用はうち6割)。CO2もたくさん出した。
CO2を全く出さないのは原発だ。原発廃止を叫んでいる人には、@どうしたら原発を使わず、ACO2を増やさず、B電力の安定供給を保証するのか、それをまず考えて欲しい。
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