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(回答先: 特別リポート:薬剤耐性菌の「培養皿」と化すインドの湖 投稿者 てんさい(い) 日時 2016 年 10 月 05 日 11:42:56)
http://jp.reuters.com/article/special-report-superbug-idJPKCN11M0QZ?sp=true
9月7日、ロイターの調査では、米国で薬剤耐性菌への感染に関連した死亡例がカウントされていないことが分かった。写真は、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)バクテリアの走査電子顕微鏡写真。提供写真(2016年 ロイター/National Institute of Allergy and Infectious Diseases (NIAID)/Handout via
Reuters )
[リッチモンド(米バージニア州) 7日 ロイター] - ジョサイア・クーパーポープちゃんは、予定日より15週早く生まれた。出生から最初の10日間、新生児集中治療室での経過は良好だった。
ところが突然、ジョサイアちゃんの小さな体が腫れ始めた。一夜のうちに体があまりにも膨れ上がり、皮膚に裂傷が生じるほどだった。
母親のシャラ・バウザーさんによれば、チッペンハム病院(バージニア州リッチモンド)の看護師からは、ジョサイアちゃんが感染症にかかっており、最悪の事態を覚悟してほしいと言われたという。2010年9月2日、バウザーさんはわが子を抱くことを許されたが、それが最初で最後となった。ジョサイアちゃんは息を引き取った。17日間の命だった。
病院関係者の誰一人としてバウザーさんに話さなかったことがある。その新生児集中治療室で同じ感染症、つまりメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSAという略称がよく知られている)に感染したのは、これが4例目だったということだ。記録によれば、感染が沈静化するまでに、その後さらに8人、すなわちその集中治療室に入ったほぼすべての新生児が発症したとされている。
今年に入り、この感染症の集団発生についてロイターから連絡を受け、ジョサイアちゃんの死亡証明書のコピーをもらうために州の出生死亡記録部を訪れたバウザーさんは、息子の死から受けたショックを思い出した。死亡原因は「早産に伴う(またはそれを原因とする)敗血症」と書かれていた。敗血症は感染による合併症だが、MRSAとは一言も書かれていなかった。
「悲しくてたまらない」と、バウザーさんはすすり泣きながら語った。「そのせいであの子がどうなってしまったか、私はこの目で見た。それなのに、死亡証明書ではただご託を並べているだけ」
死亡証明書によれば、エンマ・グレイス・ブローちゃん(3)は、インフルエンザの合併症のために亡くなっている。ジョシュア・ネイハムさん(27)はスカイダイビングの事故に伴う合併症で亡くなった。ダン・グリューリッチさん(64)は、腎臓・肝臓の同時移植を受けた後、心不整脈で亡くなった。
いずれの場合も(ロイターはこれ以外の例も発見している)、カルテによれば、患者が病院での治療を受けているあいだに薬剤耐性バクテリアに感染したことを原因とする死亡である。だが、死亡証明書には感染については何の言及も見られない。
連邦政府が、薬剤耐性菌への感染が公衆衛生に対する重大な脅威であると宣言したのは15年前である。だがロイターの調査では、薬剤耐性菌への感染に関連した死亡例がカウントされていないことが分かった。そのせいで、人命という点でも経済的損失という点でも大きな犠牲を生んでいる原因に、この国はうまく対処できていない。
<生かされない教訓>
たとえカルテに残っていても、薬剤耐性菌感染による何万人もの死者(また、発症するが死亡には至らない感染例はさらに多い)は集計されていない。連邦・州の機関が、そうしたデータをきちんと追跡していないからだ。全米規模で公衆衛生を監視する主役的立場の疾病対策センター(CDC)にせよ、各州の保健当局にせよ、厳しい調査を義務づけるための政治的・法的・財政的な手段を持っていない。
HIV/エイズとの闘いで米国が学んだように、危険な感染症を撃退するためには、感染および感染による死亡がいつどこで発生し、どのような人が最も高リスクなのかを示す正確なデータが必要である。データを集めることによって、公衆衛生当局は、必要なところに資金と人材を迅速に配分することができる。だが米国は、薬剤耐性菌感染を追跡するために必要な、基本的な措置をとっていない。
「ある病気でどれだけ多くの人が亡くなっているのか、まず知る必要がある」と語るのは、ワシントンに本拠を置く疾病動態経済政策センター(CDDEP)のセンター長、ラマナン・ラクスミナラヤン氏。「よかれ悪しかれ、その数字がどれだけ深刻かという指標となる」
薬剤耐性菌感染については、CDCでさえ問題の程度を把握していない。CDCの試算では、17種類の薬剤耐性菌感染により毎年約2万3000人が死亡している。これに加えて、抗生物質の長期利用に関連する病原菌クロストリジウム・ディフィシルにより、1万5000人が死亡している。
これらの数字はニュース報道や学術論文のなかでよく言及されているが、あくまでも推計にすぎない。ロイターがCDCの試算手法を分析したところ、この試算値は、薬剤耐性菌感染による死亡に関する実際の報告にはほとんど基づいていないことが分かった。
抗生物質耐性に関する調整・戦略を担当するCDCの上級顧問であるマイケル・クレイグ氏によれば、CDCは連邦議会とメディアから「大きな数字」を出すようプレッシャーを受け、「専門的な方法を採らず、印象派の絵のようなやり方」でお茶を濁したという。
ロイターへの電子メールのなかで、CDCの担当者は2013年の試算報告について、「限界はあったものの、脅威の深刻さについて深く憂慮していたため」発表したと書いている。CDCは試算値をより正確なものに改善する取り組みを続けているという。
<大幅な過少報告>
データを追跡しているという州も、大抵はいくつかのタイプの薬剤耐性菌感染について把握しているだけで、一貫性は見られない。今回の調査では、2003年から2014年にかけて、合計で約3300件の死亡例が報告されていた。
これは実際の犠牲者数のごく一部にすぎない。ロイターが死亡証明書を分析したところ、同じ時期、直接・間接の死因として薬剤耐性菌感染が挙げられている例は、全米で18万件を超える。ロイターはこの分析を行うにあたって、CDCの下部組織である国立衛生統計センター(NCHS)の協力を得て、死亡証明書のテキスト記述部分を検索し、薬剤耐性菌関連の死亡例を特定した。
薬剤耐性菌感染による死亡報告を義務づけていない州の1つが、全米で最も人口の多いカリフォルニア州である。ロイターの分析では、カリフォルニア州における薬剤耐性菌感染に関連する死亡例は、上記の12年間で2万件以上特定され、全ての州のなかで最多となった。同州保健当局の広報担当者は、州法では感染については報告しなければならないが、死亡の報告は義務づけられていないという。
ロイターの分析によって得られた合計の数値からは、問題が全国的に悪化していることが示されている。薬剤耐性菌感染による死亡数は、2003年の約8600人から、2014年には約1万6700人へと2倍以上に増加した。
昨年開催されたあるカンファレンスでは、院内感染防止の専門家たちがCDCの担当者に対し、州法やメディケア・ メディケイド・サービス・センター(CMS)が義務づけている感染報告を、医療スタッフや内部検証委員会が妨害することがあると訴えた。予防可能な感染の発生や感染率の高さを理由に、病院への報酬が引き下げられるからだ。
専門家たちによれば、医療スタッフは、感染の明らかな兆候を示している患者を検査しない場合もある。これは、報告ルールを回避するための戦術の1つとして使われているという。
<カウントされない死>
ロイターの取材に対し、報告される抗生物質耐性菌の感染による死亡数を集計していると答えた州は16州にとどまった。この他8州は集団発生の一部である場合のみ死亡数を追跡していた(ペンシルベニア州とジョージア州はアンケートには回答できないとしている)。
死亡数を追跡していない州の1つがテキサス州である。ナタリー・シルバさんは2012年11月、病院運営最大手ホスピタル・コーポレーション・オブ・アメリカ(HCA)が経営する同州エルパソのデルソル医療センターでMRSAに感染した。姉妹のクリスタル・シルバさんによれば、帝王切開により健康な男の子を産んでから2日後、切開の傷跡から大量の出血が始まった。ナタリーさんは、MRSA陽性と診断された。
クリスタルさんと、もう1人の姉妹であるステファニー・ホールさんによれば、病院のスタッフはナタリーさんに「生後1週間の息子を抱いて授乳しても大丈夫だ」と言ったという。だが1カ月後、その息子も新生児集中治療室に入り、自身のMRSA感染と闘っていた。
息子は一命を取りとめた。ナタリーさんについては、その後数カ月、次々に合併症に襲われたというカルテが残っている。複数の感染症により複数の手術を受けることになり、ナタリーさんは動けなくなった。
2013年9月のある金曜日の夜、ステファニーさんはナタリーさんのベッドのそばに付き添い、ナタリーさんがいずれ家に帰れるものと楽観しつつ、手の爪にメタリックブルーのマニキュアを、足の爪にはメタリックパープルのペディキュアを塗ってあげたという。
だがその3日後、ナタリーさんは亡くなった。
クリスタルさんとステファニーさんによれば、ナタリーさんの担当医は、死亡証明書の死因欄に「心不全」と書きたがったという。
この件に関し、デルソル医療センターはコメントを拒否した。
シルバ家は3000ドル(約30万6000円)を払って検視解剖を求めた。これによって、MRSA感染が死因であることが確認された。死亡証明書上では直接の死因は心肺停止だが、MRSA感染の合併症がその原因とされている。
「ナタリーは23歳で健康だった。私たちにはMRSAが非常に大きな原因だったことが分かった」とクリスタルさん。「死亡証明書にMRSA感染を入れてもらうのには苦労した」
ステファニーさんは昨年9月、ナタリーさんのMRSA感染とその後の合併症による死亡は、病院側に責任があるとして、デルソル医療センターを医療過誤と不法死亡でエルパソ郡地方裁判所に告訴した。2人の子どもが母親を失ったことへの賠償と、療養中の給料、医療費、葬儀費用の弁済を要求するものだ。
テキサス州保健当局の広報担当クリスティン・マン氏は、薬剤耐性菌による死亡データを集めるには、正式な法律か、州内のルール変更が必要になると述べた。「公衆衛生上、最も必要性が高い部分で対策を講じるため、リソースと関心に優先順位をつけている」という。
ロイターの分析によれば、ナタリー・シルバさんの死は、テキサス州で2003─2014年に確認された抗生物質耐性菌感染に関連する死亡例約1万件の1つである。ナタリーさんの姉妹は、死亡証明書に本当の死因を記載させることに成功したが、それでも統計上は薬剤耐性菌感染による死亡にはカウントされないのである。
(Ryan McNeill記者、Deborah J. Nelson記者、Yasmeen Abutaleb記者 翻訳:エァクレーレン)
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