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世界潮流を読む 岡崎研究所論評集
中国依存から抜けられなくなる豪州
2016/09/29
岡崎研究所
CNAS(新米安全保障センター)のフォンテイン会長が、8月24日付ウォール・ストリート・ジャーナル紙掲載の論説にて、米豪同盟強化を推進する豪政府と米中対立に巻き込まれたくない豪国民の感情のギャップを示し、米豪のそれぞれなすべきことを論じています。要旨、次の通り。
iStock
米豪同盟の新たな役割
米国のアジアシフトにより、米豪同盟には新たな重要性が生じている。豪は、軍事力と地域における行動主義を高め、安全保障上のパートナーシップを強化し、米国との防衛及び諜報協力を強化している。しかし、米豪関係は多くの分野でかつてなく強力になったものの、肝心のアジアではまだ試されていない。
同時に、豪経済の対中依存が懸念すべき脆弱性を作り出している。豪の輸出の3分の1が中国向けで、これは他のG20諸国のいずれよりも高い割合である。中国の対豪投資も増加している。また、昨年、5万人近い中国人学生が豪の大学・学校に入学し、同国の「教育輸出」産業を後押しした。
中国は、地域支配をめぐる米中の対立に巻き込まれることへの豪州人の恐れを煽ってもいる。豪が中国に南シナ海をめぐる仲裁裁判を尊重するよう求めると、環球時報は豪を「張り子の猫」と呼び、「豪が南シナ海に入ってきたら、中国にとり格好の警告・攻撃対象となる」と警告した。同時に、中国は、豪世論の形成に、メディアなど様々なソフトパワーの手段を動員している。
豪には中国の努力を受け入れる土壌があるように思われる。最近のU.S. Studies Centerの調査によれば、豪州人は、米中がアジアの助けになるか害になるかとの質問に対し、両国に同じような評価を与えている。同じ調査で、かなり多くの回答者が、米国よりも中国との関係強化を望むとしている。米豪同盟への支持は依然として高いが、政府の政策と大衆の感情のギャップは拡大している。大衆は、同盟国米国と経済的後援者たる中国の選択を避けたがっている。
豪はこのジレンマを永遠に避けられない。豪が南シナ海での航行の自由作戦を実施すれば中国の経済的報復のリスクがある。新しい爆撃機と給油機を豪の基地をローテーションさせたいとの米国防総省の発表は、「封じ込め」戦略を避けるようにとの中国の警告に真正面から対立し得る。
米豪は共に中国にくさびを打ち込まれないよう努力しなければならない。米国は、同盟のコストについてのトランプのような発言を慎み、地域への深く継続的なプレゼンスを示すべきである。TPPの失敗も阻止しなければならない。豪は、対中依存からくる経済的脆弱性と利益をよりよく理解する必要がある。豪政府は、描いている戦略的将来、そしてそれがどのように今日の防衛投資と外交的選択を動かしているか、大衆によく知らせるべきである。豪州人は、中国の行動を押し戻すためにどの程度のリスクを取る用意があるのか議論する必要がある。これで中国のくさびのリスクを除去できるというわけではないが、軽減する効果はある。同盟の利益は、獲得維持の努力を払うに値する。
出典:Richard Fontaine,‘Australia’s Ambivalence Makes It Vulnerable’(Wall Street Journal, August 24, 2016)
http://www.wsj.com/articles/australias-ambivalence-makes-it-vulnerable-1472055055
豪州が、安全保障では米国、経済では中国のジレンマに立たされているというのは、その通りでしょう。中国との関係ではまず、中国が食料、鉱物資源の輸出先として、豪州にとり極めて重要であるという事実があります。今や中国は豪州の輸出の3分の1を占め、豪州の最大の輸出相手国です。豪中経済関係は貿易に止まりません。中国の対豪投資は、2015年には150億豪ドル(約1兆2300億円)と過去最高となりました。分野は鉱業に限らず、不動産、健康医療、農業に及んでおり、特に最近は不動産投資が盛んで、中国の対豪投資の45%に達しています。
永久に避けられないジレンマ
人的面でも関係が急速に進んでいます。豪州を訪れる中国人観光客は、2014年12月〜2015年11月の1年間で100万人を突破し、過去5年で2倍となりました。論説は、昨年5万人近い中国人学生が豪州に留学したと述べています。
豪州における中国の存在は近年急速に拡大していますが、他方で、論説も指摘する通り、米国のアジアシフトもあり、安全保障面では米豪同盟は強化されています。安全保障を米国に経済を中国に頼るという立場が豪州の世論に反映され、米中がアジアの助けになるか害になるかの質問に対し、豪州の国民は米中両国に同じような評価を与えていると言います。「豪はこのジレンマを永久に避けられない」というのは、必ずしも誇張とは思えません。豪は安全保障で米国に頼らざるを得ないですが、中国を刺激して経済的報復を受けることを恐れています。中国が豪州の食料、鉱物資源の最大の顧客であり、中国が豪州経済にとってなくてはならない存在であることを考えれば当然の反応といえます。
しかし、豪州はアジア・太平洋の安全保障にとって、日米の重要なパートナーです。特に中国の南シナ海進出を抑止するために豪州の協力は欠かせません。
日米としては、豪州のジレンマは十分理解しつつも、豪州の経済面での対中依存が、安全保障面での協力にマイナスの影響を与えないように努力する必要があります。そのためにはまず豪州との不断の対話が不可欠です。それに加え豪州の国民が南シナ海問題を含む中国の意図を正しく理解し、中国に対する警戒心を持つことが望まれます。最近中国の豪州の不動産投資急増に対し、一部に警戒心が出てきていると報じられていますが、当然です。論説の指摘する中国の対豪世論工作についても、豪州国民が実態を理解することが必要でしょう。
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/7827
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