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ヨーロッパは、一体なぜ、密かにドナルド・トランプを支持しているのか
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2016年9月24日 マスコミに載らない海外記事
2016年9月21日
Matthew Karnitschnig
Politico
公の席では認めようとはしないが、ヨーロッパの政治家には、もしドナルド・トランプが勝っても、さほど動揺しない人々もいるのだ。
ヨーロッパ政治を入念に見てきたものとして、ドナルド・トランプが大統領になる可能性をめぐる衝撃や恐怖の叫びの背後に、話がアメリカ共和党大統領候補のこととなると、時折の苦笑いや、わずかなめまいを感じはしないかと、質問しても許されるだろう。
たしかに、ヨーロッパ人高官の誰かがトランプが選挙に勝利する可能性を巡る深刻な懸念を発言せずにすむ日はないくらいだ。マーティン・シュルツ欧州議会議長は、最近、トランプは“EUのみならず、全世界にとって問題になる”と述べた。
右翼ポピュリズムからの挑戦に直面しているフランスのフランソワ・オランド大統領は、最近、トランプは“吐き気をもよおさせる”と述べた。ドイツのフランク=ヴァルター・シュタインマイヤー外務大臣は、いつもの控えめな言動から離れ、先月、トランプのことを“憎悪説教師”と呼んだ。
ところが、少なくとも一部の人々にとって、トランプという雲は、一筋の希望の光も伴っているのだ。ヨーロッパの政治家の誰一人、公には言わないが、大陸の一部の人々にとって、トランプは、アメリカの影響からの解放という、一世代に一度しかない好機を提供してくれているのだ。
程度の差はあれ、アメリカ-バッシングは、右翼であれ左翼であれ、何十年もヨーロッパ政治のかなめだ。GMOからグアンタナモ、無人機戦争から死刑に至るまで、ヨーロッパの政治家が、アメリカを激しく非難する理由を見出すのに困難を感じることはまれだ。
実際、アメリカによる影響という悪は、ほとんどあらゆる政治党派のヨーロッパの政治家たちが、同意できる数少ないことの一つだ。ドイツでは、例えば、極右集会でと同様に、左翼政党の集会で“アミ、出てゆけ”(アミというのは、アメリカを意味するドイツ語俗語)というポスターを目にする可能性は高い。
EUが、ここ数十年、あらゆる党派のイギリス人政治家にとって、便利な鞭打ち用の柱として機能し、Brexit投票で頂点に達したように、多くのヨーロッパ人政治家にとっては、アメリカも同じような役を果たしている。大西洋両岸の良い関係に深く傾倒していると公言する人々ですら、自らの弱さから、注意を逸らすための方便として、アメリカを利用する欲求に抵抗できないことがままある。
節度ある政治家がホワイト・ハウスにいる限り、反米政治家は、その言辞を現実に変えるのは困難だ。トランプが大統領になれば、再考を強いられよう。
つい先週、ジャン=クロード・ユンケル欧州委員会委員長は、アイルランドにおけるアップルへの追徴課税という断固とした欧州委員会の措置を称賛し、一般教書演説で、こう宣言した。“ヨーロッパは、ワイルド・ウエストではない。” これを聞いていた人は皆、“ワイルド・ウエスト”が、アメリカを意味していたのを理解している。“我々はヨーロッパ合州国ではない”と、ユンケルは言って、議員から大喝采を受けた。“ヨーロッパでは、我々はもっと多様で、より強い。”
ヨーロッパ政治党派の中道にいる大半のヨーロッパ人は、トランプの勝利の結果と、大西洋両岸の関係の弱体化を本気で恐れている。しかし、見過ごすには余りにもったいない好機を感じている他の人々もいる。
バラク・オバマ大統領や、アメリカ民主党候補者ヒラリー・クリントンのような
節度ある政治家がホワイト・ハウスにいる限り、反米政治家は、連中の言辞を現実化するのに困難を感じていたはずだ。トランプが大統領になれば、再考を強いられよう。
一部のヨーロッパの政治家たちが、こっそりトランプを応援する五つの理由はこれだ。
自由貿易の終わり: はじめから、ヨーロッパの貿易交渉担当官たちは、包括的な大西洋貿易協定にとって、反米主義が最大の脅威だと警告していた。環大西洋貿易投資連携協定 (TTIP)、アメリカとヨーロッパの間で交渉されている自由貿易協定は、ここ何カ月も、生命維持装置にかけられている状態だ。トランプの勝利は、成功の残されたあらゆる希望を消し去るのみならず、交渉の心臓を貫く杭をうちこむことになろう。
協定に反対する人々は、協定を、ヨーロッパにおいて、アメリカ大企業に更なる影響力を与えるように作られた貿易のトロイの木馬と評している。トランプはこれに対する反対を主張して、自由貿易協定は、アメリカ人労働者に悪影響を与えると主張している。要するに、トランプが勝利すれば、アメリカとヨーロッパ間のあらゆる自由貿易協定は、話題からきっぱり外されるはずだ。
EU軍の誕生: アメリカは、NATOを通したヨーロッパの安全保障を、何十年も請け合い、実質的にヨーロッパ大陸の大半に対し、巨大な安全保障の傘をさしていた。この依存関係を全員が喜んでいるわけではない。
ヨーロッパには、アメリカ(アメリカの軍事支出は、NATO合計の約75パーセントを占める)の軍事資源に比肩するようなものはないが、フランスとドイツの政治家たちは、ヨーロッパ防衛軍の実現に熱心だ。この考えは新しいものではなく、主に、ヨーロッパのわずかな予算で一体どのように資金提供するのかという疑問という障害に直面している。
それでも、トランプが勝利すれば、この構想には大きなはずみがつくだろう。貿易協定と同様、トランプは、ヨーロッパ人が自分で防衛するのを喜ぶだろう。彼は、ヨーロッパが、アメリカ軍に依存していることへの嫌悪を決して隠そうとしていない。逆に、全軍最高司令官としてのトランプを歓迎するヨーロッパ人もわずかだろう。もし彼が勝てば、ヨーロッパ軍支持者は、ずっと求めていた説得力がある主張を、とうとう得られることになる。
ビッグ・ブラザーによる監視の崩壊: アメリカの影響力に対するヨーロッパの最も感情的な不満は、近年の大規模監視を巡るものだ。エドワード・スノーデンによる暴露のおかげで、ヨーロッパ人は - アンゲラ・メルケルであれ、ごく普通の人であれ - 誰もNSAのデジタル底引き網から逃れられないと確信している。
現実は、それほど劇的ではないが、y多くのヨーロッパ人は、アメリカが彼らの電話会話を盗聴していると確信しているという話が圧倒的だ。処刑されるべきだとトランプが主張している人物、スノーデンは、ヨーロッパの若者にとって、現代版チェ・ゲバラとなっている。大規模監視をめぐる大西洋両岸のあらゆる緊張にもかかわらず、ヨーロッパは、主にイスラム主義テロリストに関する諜報情報を得るため、依然アメリカと協力している。トランプの勝利は、そのような協力に反対している人々にとって、うれしいニュースだろう。
ウオール街に対する厳しい取り締まり: ヨーロッパにおけるウオール街銀行の影響力は、ヨーロッパの反米エリートと、ポピュリストの入念な調査の対象だった。例えば、ユーロ圏の債務危機に関するどのような陰謀論でも、ニューヨーク金融街における策謀疑惑にまつわるほのめかしがつきものだ。
元欧州委員会委員長、ホセ・マヌエル・バローゾのゴールドマン・サックス入りを巡る最近の大騒ぎが、不信感の深刻さを実証している。“ゴールドマン・サックスは、2007年-2009年の金融危機を引き起こした組織の一つなので、特にこの銀行については疑問に思っている。”と、現委員長のユンケルは、先週、バローゾの動きを調査するよう要求した理由を説明している。EUには、幹部がゴールドマンや、あの混乱にも関与していたドイツ銀行などの多数のヨーロッパ銀行で働くのを特別に禁止するものはない。
正当化されようと、されまいと、肝心なのは、ウオール街は、ヨーロッパでは有害勢力とみなされており、左翼の政治家たちは、ウオール街銀行に着目しているということだ。トランプの勝利は、断固たる措置をとる好機をもたらすだろう。
人の不幸を喜ぶ気持ち: ヨーロッパ人のトランプ勝利への密かな希望を突き動かしている最も強い力は、人の不幸を喜ぶという単純な気持ちだ。大半のヨーロッパ人は、アメリカの“丘の上の都市”なる例外主義の主張を決して受け入れていなかった。それなのに、何十年も、ヨーロッパ人は、道義的な優越性というアメリカの主張に従い続けてきた。
アメリカは、ヨーロッパをファシズムから解放したのみならず、大陸を共産主義の魔手からも解放したというのが、いつも繰り返される話だ。トランプ大統領は、少なからぬヨーロッパ人に、アメリカが、実際は、大陸と大差ないことを証明してくれるだろう。同様に機能不全で、同様に最も下劣な本能の影響を受けやすく、マゴグによるウソの約束を信じてしまうのだということを。
記事原文のurl:http://www.politico.eu/article/why-europe-is-secretly-rooting-for-donald-trump-us-election-2016/
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