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赤の広場近くの「アイスクリーム祭り」会場案内図。 市内全域の複数会場でイベントが開催されていることが分かる。イベントのキャラクターは子供を意識していることを感じさせる
経済制裁不況もどこ吹く風、快進撃続く子供市場 ロシア政府の手厚い少子化対策が奏功、人口も着実に増加中
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/47947
2016.9.23 大坪 祐介 JBpress
9月10、11日の週末、モスクワ市内は「869周年」のお祭りで盛り上がった。今年の夏のモスクワは道路工事と相次ぐイベントに終始した感があるが、この869周年で一段落、長い夏も終わりようやくビジネスの季節となる。
今年のモスクワの夏のイベントは筆者が出張のたびにテーマが変わっていて、7月はアイスクリーム祭り、8月はジャム祭、9月は映画祭と盛りだくさんだった。
公共支出による景気下支え策なのか、市民の道路工事への不満をそらせるのが目的なのか、その狙いは定かではないが、多くの市民や観光客がイベントを楽しんでいたことは間違いない。
中でも特に喜んでいたのは子供たちだった。今回は「子供」がテーマである。
日本におけるロシアに対する思い込みの1つに「ロシアは日本と同様、人口減少問題が深刻である」との指摘がある。これは統計を見れば明らかに間違いである。
■人口増加に転じる
日本はさておき、ロシアに関しては2010年を底にロシアは人口増加に転じている。自然増加数(出生数-死亡数)も2013年にはプラスに転じているのである。
図表 ロシアの人口推移(出所)ロシア連邦統計庁
この背景にはロシア政府が打ち出した強力な少子化対策がある。ウラジーミル・プーチン大統領が2期目を務めていた2006年12月に立法化したもので、2007年1月1日以降に誕生した第2子以降の子供に対し、1人当たり25万ルーブル(当時のレートで105万円、現在のレートでは40万円)の出産・育児手当を支給するものである。
その後ロシア経済は長期低迷に陥ったが、それでもモスクワの街を歩いているとベビーカーの数がここ数年確実に増えていることは実感していた。
そして子供の人口が増えればそこにビジネスチャンスが生じるのは明らかである。容易に思い浮かぶのは子供向け用品販売だろう。
9月はロシアでは新学期のシーズンであり就学期の子供を持つ親の多くが子供のために支出を迫られる。本年のその額はロシアの世論調査機関VCIOMの調査によると、ロシア全国平均で1万4800ルーブル(=約2万4000円)である。
このうち5900ルーブルが衣服と靴、2200ルーブルがスクールバッグである。昨年の支出総額は2万ルーブルだったので、景気低迷を反映してか支出は4分の3程度に減少している。
しかし足許の平均賃金は3万8000ルーブル/月程度なので、両親が共働きであったとしても全世帯収入の2割近くを新学期の準備に費やしていることになる。
こうした子供向け消費に照準を合わせ業績を大きく伸ばしているロシア企業がある。ジェツキー・ミール(子供の世界)だ。
■粗利益率30%以上の優良企業
ジェツキー・ミールと聞くとモスクワに詳しい人であれば、ルビヤンカ広場のFSB(旧KGB)本部の隣にある子供用品デパートを思い出すかもしれない。しかしそのデパートは現在はツェントラルニー・ジェツキー・マガジンと名称を変えており、ジェツキー・ミールとは別会社である。
ジェツキー・ミールはソビエト時代から続くブランド知名度を生かし、2016年4月現在でロシア全土に432店舗を展開している。ベビー・子供向け用品・衣料専業店舗としてはロシア最大である。
2015年の売上は600億ルーブル以上、素晴らしいのは粗利益率も30%を上回る高収益を実現していることである。さぞかし高値で売っているのだろうと思いきや、同社のIR担当者によればベビー用品の価格は国内大手スーパーよりも安いとのこと。ちなみに日本製の紙おむつの販売数量は同社がロシア最大とのことであった。
同社の分析によると、ロシアの子供市場の強みは以下の4つ。
(1)同社がターゲットする0-12歳人口は2200万人、市場規模は5000億ルーブル(約8000億円)以上と大きい。
(2)今後、子供の人口は毎年50万人以上増え続ける。
(3)2009-2015年の景気後退期においても子供用品セクターは比較的影響が軽微。
(4)2人目以降の子供に対する政府支援。
モスクワ市内 「ジャム祭り」
同社はこうした市場基盤を背景に、知名度(特にソ連時代を知る祖父母には圧倒的な知名度)を生かした店舗の全国展開、ベビー用品で獲得した顧客を12歳まで囲い込む戦略、もちろんEコマースも展開するなど事業拡大を続けている。
同社の2016年上半期の売り上げは前年比+36%、純利益+70%と絶好調である。そう遠くない時期に株式の上場が有望視されている。
ところで「子供」に照準を合わせて業績を拡大しているのは消費分野だけではない。医療分野でもロシア各地に「産科」を展開して業績を伸ばしている企業がある。MDメディカルグループだ。MDとはロシア語で「Мать и дитя」、英語では「mother and child」となる。
同社は2006年に最初の周産期センターを開設、2010年にはホールディング会社を設立してモスクワを中心とするロシア中央部、さらに各地の産科病院を買収することでシベリア地方のクラスノヤルスク、オムスクなどの都市までネットワークを拡大、現在14地方16都市で30余の周産期・新生児向けの医療センターを展開している。
■産科も大繁盛
各センターには欧米の先端医療機器が導入され、高水準の医療サービス(人工授精も含め)が提供されている。
同社の常勤医は1500人以上いるが、新規採用のために地方の医科大学に特別コースを開設したり、採用後もモスクワと地方の病院間で定期的に医師のローテンションを行うことで医療水準の維持に努めている。
さらに驚くのは同社が2012年10月にロンドン株式市場に上場していることである。
筆者が同社のIR担当者に聞いたところでは、同社の病院での出産にかかる平均的な費用は2500ドル程度、モスクワでは6000ドル近くになるとのこと。もちろん同社は公立病院ではないので(ロシアでは現在でも公共医療は無料である)患者のほとんどが自費もしくは民間医療保険で受診する。
「ソビエト時代のゲーセン博物館」で日本でもおなじみのバスケットボールゲームを楽しむ子供たち。もちろん、現在の市内のゲームセンターにはこうしたゲームは存在しない
同社はロシアのアッパーミドル階層をターゲットしており、昨今の景気低迷下においても新生児数の増加と相まって業績は順調に拡大しているとのことであった。
実際、同社の2015年の売上高は95億ルーブル(前年比+32%)、税引前当期利益は26億ルーブル(同+28%)である。
日本から対ロシアビジネスを考える際に、我々はロシアに存在しない新たな分野を探そうと目を凝らしがちである。しかし「子供」マーケットのように、目の前にあるありふれたマーケットにこそ実はまだ多くの可能性が秘められているのかもしれない。
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