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『ニューズウィーク日本版』2016―9・13
P.12
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金正恩の「粛清の嵐」はガセネタか
北朝鮮の最高指導者・金正恩の「血の粛清」リストに新たに2人の政府高官の名前が加わった ― そんなニュースが先月末、北朝鮮ウォッチャーを騒がせたが、信憑性には疑問符が付く。
先月30日付の韓国紙・中央日報は、黄敏前農業相とイ・ヨンジンなる教育省高官が先月初めに公開処刑されたと伝えた。処刑の理由は会議中に金正恩の前で居眠りするなど反革命的な態度を取ったことで、高射機関銃で処刑されたという。
中央日報は匿名の「消息筋による」としてこの話を伝えた。これは韓国のメディアが真の取れていない北朝鮮情報を発表するときの決まり文句だ。
さらに情報を錯綜させたのは、中央日報の報道の翌日、韓国統一省が記者会見を行い、北朝鮮の金勇進(キム・ヨンジン)教育担当副首相が処刑されたと発表したことだ。中央日報の伝えたイ・ヨンジンとは金勇進のことなのか?
処刑が事実だとすれば、このタイミングで金正恩が粛清に乗り出したのはうなずける。北朝鮮の在英大使館に勤務していたテ・ヨンホ公使が今年7月に失踪し、韓国政府に保護されていることが分かったばかりだからだ。エリート外交官の脱北は金体制の危うさを印象付けた。
だが韓国メディアが伝える粛清説には疑わしい話が少なくない。今年2月に韓国メディアが処刑されたと伝えた李永吉・前朝鮮人民軍総参謀長は、今年5月に健在が確認された。この誤報で韓国のメディアと情報機関の面目は、丸つぶれになった。
北朝鮮事情に詳しいアナリストのマイケル・マッデンによると、今回の中央日報の記事には明らかな事実誤認があるという。
「黄は今年6月に農業相を解任されたと書かれているが、解任されて副首相に降格したのは14年だ。今年6月に降格されて先月処刑されたと言えば、つじつまが合うからだろう」
韓国メディアの「消息筋による」式の北朝鮮報道は、うのみにしないほうがよさそうだ。
ジョン・パワー
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