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ブラジル上院で開かれている弾劾裁判で弁明を行うジルマ・ルセフ大統領(2016年8月29日撮影)。(c)AFP/EVARISTO SA〔AFPBB News〕
ブラジルの街頭に漂う無関心と無気力 大統領が弾劾裁判で罷免、その理由は何だった?
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/47897
2016.9.15 Financial Times
(英フィナンシャル・タイムズ紙 2016年9月9日付)
ブラジルは未来の国であり、未来の国であり続ける。ブラジルは真面目な国ではない。ブラジルでは、過去さえ不確かだ――。
くどくて、侮蔑的で、極端すぎる一般化だろうか。確かにそうだが、時折、ブラジル人が外国人を相手に自国を描写するために使う決まり文句は、驚くほど正確だ。ブラジルがジルマ・ルセフ氏の大統領弾劾に揺らいでいる今、最後の言葉は特に的確に思える。
前大統領がブラジル上院に弾劾・罷免され、ミシェル・テメル新大統領が後を継いでから、経済学者と政治学者はこれが2018年の大統領選挙に及ぼす影響を徹底的に調べてきた。
ルセフ前大統領と敵対する勢力は歓声を上げた。一方、支持者たちは時に暴力的な全国デモを実施し、彼らが「クーデター」と呼ぶものを非難した。
だが、ブラジルの多くの一般市民と話をすると、絶望感も歓喜も感じられない。彼らはとにかく、何が起きたのか全く分かっていないのだ。
弾劾から1週間経った日、筆者はサンパウロ中心部のセー広場で午後を過ごし、なぜルセフ氏がもう大統領でないのか、その理由を無作為に聞いて回った。この広場は、極めて敬虔な信者やクラックコカインの常習者、その間に入るすべての人が集う場だ。結局、10人の人と話をした。道路の清掃人と学生、ビルの管理人、農家、システムアナリスト、エレベーターガール、靴磨き、高齢者の介護人、公証人、そして違法にサングラスを販売している業者という顔ぶれだ。
正しい説明ができた人は誰もいなかった。公証人と清掃人とサングラスの業者が正解に一番近く、ルセフ氏は「財政法」に違反したと言ったが、後にこの法律が何を意味するのか分からないと認めた。5人はルセフ氏は汚職のために弾劾されたと言い、1人はブラジルの高いインフレ率のせいだと言い、靴磨きは分からないと言った。
3人(農家の人と学生と介護人)は、誰が大統領か知らなかった。「彼の名前は確か、『R』で始まったと思う」。介護人はこう言ってから、笑顔を浮かべ、「実は私も大統領になりたいんですよ、お金持ちになれますからね」と付け加えた。
ブラジル最大のメガポリスにおけるこれほど小さなサンプルは、国民を代表するとは言いがたいが、全国的な調査も似たような結論に達している。例えば、ブラジルの世論調査機関データフォルファが7月に実施した調査によれば、ブラジル国民の3分の1が大統領が誰か知らなかった。
少なくともサンパウロでは、問題は情報不足ではなく、関心のなさだ。実際、公証人は親切に、ルセフ氏が弾劾された正確な理由を知りたいならグーグルを調べてみたらいいと提案してくれた。
サンパウロの大学インスペル教育機関で政治学を教えるフェルナンド・シューラー教授は、「有権者の無知」は理解できるだけでなく、合理的だと指摘する。例えば米国では、最近行われた複数の世論調査が、米国人の約30%が副大統領の名前を知らないことを示している。
自分の票が統計的に無意味なことを考えると、民主主義国に暮らす大多数の市民にとって、政治について調べることに時間を費やすことに何の意味があるのか。「自分が影響を及ぼせないプロセスに参加しようなどと考えるだろうか」とシューラー氏は問いかける。汚職がまん延しているブラジルのような国では、インセンティブはさらに低い。加えて、ルセフ氏が違反したとされる複雑な財政責任法について学ぶことは、とりわけ魅力がない。
だが、ブラジルでは、2つの理由から、高まる政治的無気力は具体的な懸念をもたらす。まず、これは折しもブラジルが史上最大の街頭デモを実施しているさなかの出来事であり、多くの市民が変化を切望しているが、それを実現する制度への信頼を失ったことを示唆している。選挙運動資金に関する欠陥のある規則と併せ、相次ぐ汚職スキャンダルが往々にしてその原因とされる。
次に、ブラジルでは投票が義務であるため、無関心で情報を持たない人たちが国の未来を決めることが許される。大半のアナリストは、投票を任意にすれば長期的に恩恵を得られると口をそろえる。だが、少なくとも短期的には、熱心な支持者を擁する泡沫候補が権力を握るのを可能にする恐れがある。
セー広場で話を聞いた10人のうち、テメル氏の後を継ぐ次の大統領を選ぶために、すぐに投票する機会がほしいと答えたのは2人だけ(農家とビルの管理人)だった。奇妙なことに、どちらも、ブラジル国民が直接選挙で大統領を選ぶことを禁じた1964〜85年の独裁政治をまだ擁護する極右の政治家を選んだ。
また別のことわざにあるように、ブラジルは初心者向きの国ではないのだ。
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