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リオデジャネイロ五輪メダリストを祝う式典で、フェンシング女子金メダリストのヤナ・イグリアン(右)と面会したウラジーミル・プーチン大統領(2016年8月25日撮影)〔AFPBB News〕
プーチン側近が大人事異動、4期目の布石か若手か 日本への影響も大きく、今後の動きには要注意
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/47747
2016.8.31 杉浦 敏広 JBpress
■ ロシアの8月
8月はロシアにとり鬼門である。1991年8月19日、ソ連邦の首都モスクワでクーデター未遂事件が発生した。このクーデター未遂事件を契機に、ミハイル(M)・ゴルバチョフ/ソ連邦初代大統領とボリス(B)・エリツィン/ロシア共和国初代大統領間の力の均衡が崩れ、この年の末にソ連邦は解体された。
2000年8月12日には、北極海のバレンツ海で原潜クルスク沈没事件が発生。同年5月にロシア大統領に就任したばかりのウラジーミル(V)・ プーチン新大統領は対応に苦慮。1週間雲隠れして、世界中のマスコミから叩かれた。
この時のトラウマと軍の対応に不信感を抱いたプーチン新大統領は2001年3月、自分の盟友を国防相に任命した。それがソ連国家保安委員会(KGB)時代の同僚で、当時安全保障会議書記を務めていたセルゲイ(S)・イヴァノフ氏。軍人ではない文民国防相がロシアで初めて誕生した。
■最近のプーチン大統領周辺人事は何を意味するのか?
ロシア・プーチン大統領の周辺人事が今、大きく動いている。
現在何が起こっているのか結論から先に言えば、プーチン大統領周辺の力の均衡が、旧KGB(ソ連国家保安委員会)第1総局(対外諜報/現SVR=対外諜報庁)と第2総局(国内保安/現FSB=連邦保安庁)重視政策から、旧KGB第9局(要人警護/現FSO=連邦警護庁)人脈重用に移りつつあると言えるだろう(プーチン大統領自身はKGB第一総局第4課勤務)。
すなわち、プーチン大統領は旧第9局人脈を登用し始め、SVR/FSB人脈のロシア政府内の要職や知事職を、徐々にFSO とその傘下のSPB(大統領警護局)人脈が占めるようになった。
2016年に入ってからの主要人事は下記のとおりである。
2016年2月:SPB出身のA.ジュ―ミン国防次官(43歳)がトゥーラ州知事代行に就任。
2016年4月:SPB出身のロシア内務省国内軍V.ゾロトフ総司令官が、4月に新設されたロシア国家親衛隊の総司令官(閣僚待遇)に就任。
2016年5月:Ye. ムーロフ(FSO)長官(70歳)からの辞職願を受理して、解職。
2016年7月:4人の知事と3人のロシア連邦管区大統領全権代表を交代。
2016年8月:プーチン大統領の盟友S.イヴァノフ大統領府長官(63歳)が辞任して、知日派のA.ヴァイノ大統領府副長官(44歳)が長官に昇格。
次の大物人事はロシアの次期首相人事になる。2016年9月18日にロシア下院(正式名称「国家会議」定数450議席/日本の衆議院相当)選挙が実施され、下院選挙後に内閣は改造される。
では、上記一連の人事異動が何を意味するのか、プーチン大統領は何を求めているのか考察したい。
今回の人事異動の特徴は、従来“影の存在”であったプーチン大統領の副官が“表の舞台”に登場してきたことである。表の舞台で政治経験を積ませたうえで、これらの若手人材の中から後継候補者を選定するプーチン大統領の意図ではないかと、筆者は推測している。
プーチン大統領が求めているもの。それは、プーチン大統領周辺のシロビキ間の力の均衡を回復することと考える。強大になりすぎたFSB(連邦保安庁)やSVR(対外諜報庁)勢力に拮抗する新たな勢力を台頭させることにより、プーチン政権の安定化を図るものではないだろうか。
最近、FSO(連邦警護庁)系の警備出身者が要職に就く事例が多くなっている。また、プーチン大統領第一の側近と言われてきたシロビキの代表格、イーゴリ・セーチン/ロスネフチ社長が最近ほとんどマスコミに登場せず、一部には失脚説も流れているのは、その傍証となろう。
上記より今後、FSB やSVRの相対的地位低下が予見される。
■プーチン大統領側近のシロビキ人事異動
プーチン大統領周辺では2016年に入り、大規模なシロビキ(力の省庁/情報・軍・治安関係者)幹部の人事異動があった。7月28日・29日・8月1日付け露ヴェドモスチ紙が詳細を報じているので、その他の公開情報と併せ、本稿ではシロビキ関連の具体的人事異動を報告したい。
A.ジュ―ミン氏は大統領の身辺警護を担当する露連邦警護庁(FSO)出身であり、2012年より警護庁副長官、2014年から国軍参謀本部情報総局(GRU)副長官。2015年中将に昇進し、同年12月からは国防次官を務めているプーチン大統領側近グループの1人である。
プーチン大統領のアイスホッケー仲間でもあり、大統領も参加する“夜のアイスホッケー・リーグ”ではゴールキーパーのポジションを務める。出身地はクルスク、43歳、既婚。家族構成は不明。
プーチン大統領の命の恩人であり、2014年2月にはウクライナのヴィクトル(V)・ヤヌコビッチ大統領(当時)クリミア半島救出作戦の指揮を執り、クリミア半島併合作戦の総指揮官とも噂されている。
現政権幹部の信任も厚く、彼に欠けているものは政治手腕のみ。そこで今回、プーチン大統領は彼に政治家としての修業の場を与え、大統領後継者として育成するとの見方が有力である。
プーチン大統領は2016年4月5日、国家親衛隊新設構想と、連邦麻薬流通取締庁(FSKN)と連邦移民庁(FMS)を廃止して全権限を内務省に移管する構想を発表した。FSKNの V.イヴァノフ長官(66歳)はKGB時代のプーチンの上司にあたる。
国家親衛隊は従来の内務省国内軍を母体として創設され、特別任務機動隊“オモン”(OMON)や特殊即応部隊“ソーブル”(SOBR)、国営警備会社“オフラーナ”などを吸収し、国内治安や対テロなどを目的とする強大な治安軍隊が誕生することになった。
国家親衛隊総司令官には大統領令により、V. ゾロトフ内務省第1次官兼国内軍総司令官が就任した。ゾロトフ氏は閣僚待遇となり、国家安全保障会議メンバーにも選出された。
換言すれば、今回の機構改革により、旧ソ連邦時代の国家保安委員会(KGB)の後継機関たる対外諜報庁(SVR)や連邦保安庁(FSB)に拮抗する、新たな武力機関が創設されたことになった。
プーチン大統領は2016年5月26日付大統領令にて、連邦警護庁 (FSO) Ye. ムーロフ長官(70歳)からの辞職願を受理して、解職した。ムーロフ氏はプーチン大統領代行が2000年5月大統領就任後の11日目に同庁長官に任命されて以来16年間、FSO長官職を務めていた。
彼は1971年に旧ソ連邦時代のKGB第1総局に入局。プーチン大統領は1975年にS.イヴァノフ長官と共にKGB入局し第1総局に配属されているので、ムーロフ氏はプーチン大統領の大先輩にあたる。
ちなみに、ムーロフ氏の後任は D. コチュネフ大統領保安局長(兼連邦警護庁副長官)であり、彼もKGB第九局(要人警護) 出身である。
プーチン大統領は2016年7月28日、大統領令により4人の知事を解任、3人の連邦管区大統領全権代表を交代した。解任された知事と後任知事代行は下記のとおり。
N.ベーリィフ/キーロフ州知事 → I.ヴァシリエフ登記庁長官
N.ツィカーノフ/カリーニングラード州知事 → Ye.ジニチェフFSB同州支部長(FSO出身)
S.ヤストレボフ/ヤロスラーブリ州知事 → D.ミローノフ内務省次官(FSO出身)
S.メニャイロ/セバストーポリ市長(知事) → D.オブシァニコフ産業・貿易省次官
注:セバストーポリは特別市であり、市長は知事と同等の権限を有し、知事と称される。
付言すれば、知事は選挙で選出されるが、大統領は知事解任権と知事代行任命権を有する。
交代するロシア連邦管区大統領全権代表と後任は下記のとおり。
V. ブラーヴィン北西管区全権代表 → N.ツィカーノフ/カリーニングラード州知事
S.メリコフ北カフカ―ス管区全権代表 → O.ベラヴェンツェフ前クリミア管区全権代表
N.ロゴシュキン・シベリア管区全権代表 → メニャイロ/セバストーポリ市長(知事)
クルミア連邦管区は南連邦管区に吸収・統合された。創設されたばかりのクリミア連邦管区が廃止されたことは、クリミア半島がロシア連邦に名実共に統合されたことを意味する。
7月28日には、もう1つ重要な人事異動が発表された。ベリヤニノフ連邦税関庁長官(59歳)は2016年7月28日付けメドベージェフ首相令により解任され、後任には2013年3月に北西連邦管区大統領全権代表に就任したV. ブラーヴィン氏(63歳/FSB出身)が任命された。
利権の大きい税関庁はFSBが押さえたことになるが、税関庁は近い将来廃止され、国税庁に吸収合併されるとの見方もある。
ロシア大統領府でも幹部の移動があった。上述のごとく、S.イヴァノフ大統領府長官(63歳)は8月12日に辞任して、後任にはA.ヴァイノ大統領府副長官(44歳)が昇格した。S.イヴァノフ氏はプーチン大統領のKGB同僚にて、共に1975年入局。1976〜77年にはレニングラードKGB支局第一課配属となり、イヴァノフとプーチンは同じ部屋で勤務している。
今回のイヴァノフ長官辞任に関しては、プーチン大統領は側近を解任・降格したとの情報も流れているが、筆者はその見方には与しない。同長官は長官職就任にあたり、最長5年間の任期を申し出たと言われている(最長6年間説もある)。
メドベージェフ大統領時代の2011年12月に大統領府長官に就任しており、既に4年8か月。歴代大統領府長官としては最長任期になる。家庭内の不幸や本人の健康問題もあり、以前から辞任を表明していた。
S.イヴァノフ氏は大統領特別代表として大統領府で引き続き勤務し、安全保障会議書記メンバーにも残るので、本人の辞表をプーチン大統領が受理したというのが真相であろう。
もちろん、結果として大統領府長官が若返ったことは事実である。後任のヴァイノ長官は1972年、旧ソ連邦エストニア共和国の首都ターリン生まれ。祖父のカール・ヴァイノはエストニア共和国共産党第1書記(1978年〜88年)を務めた。
本人は名門MGIMO(モスクワ国立国際関係大学)卒業後、外務省に入省。大学では日本語を習得し、1996年から2001年まで在京ロシア大使館にも勤務した知日派だが、知日派=親日派ではない。否、むしろ対日交渉はより厳しくなると考えた方がよいだろう。
ヴァイノ氏はプーチン新大統領が2000年7月と9月に訪日した際、プーチン大統領の知遇を得た。同氏は情報機関出身ではないが、優秀な官僚であり、大統領の指示を忠実に遂行する姿勢が買われたと言われている。
■8月のトピックス/ロシア・イラン・トルコ・アゼルバイジャンの接近
プーチン大統領は2016年8月8日にアゼルバイジャン共和国の首都バクーを訪問して、ロシア・イラン・アゼルバイジャン3ヵ国首脳会談に出席。翌9日には、トルコのエルドアン大統領とロシアのサンクト・ペテルブルクで会談した。
プーチン大統領、イランのロウハニ大統領、アゼルバイジャンのI.アリエフ大統領は8月8日、3者首脳会談後に共同宣言を発表した。
アリエフ大統領はカスピ海のロシア領海・イラン領海における共同探鉱・開発に参加希望を表明。ロシアはイラン南部のLNG工場建設プロジェクトに参加希望を表明、そこで生産されるLNG(液化天然ガス)を東南アジアに輸出する構想。
対価として、ロシアはイラン北部にLNGと同量の天然ガスをアゼルバイジャン経由パイプライン(P/L)で供給する、天然ガスのスワップ構想を提案。この提案は今後、3か国の実務者レベルで具体的に協議されることになった。
その翌日、プーチン大統領とトルコのエルドアン大統領はロシアのサンクト・ペテルブルクで会談。両大統領は両国間の2大エネルギー・プロジェクト(1.黒海横断天然ガス海底P/L建設構想“トルコ・ストリーム”、2.ロシアが推進中のトルコにおける原子力発電所建設プロジェクト)の交渉を積極的に推進することで基本合意に達した。
いったん破綻した“トルコ・ストリーム”構想では、大きな進展が見られた。
8月9日の首脳会談を受け、1本目の“トルコ・ストリーム”は2016年10月に両国政府間で協議の上、両国は作業グループを設置して、建設開始準備に入る段取りとなった。1本目のP/L建設総工費約43億ユーロは露・トルコ側が建設費用を折半して、2018年末までの完工を目指すことになるだろう。
1本目のP/Lは年間約160億m3の天然ガスをロシアからトルコ市場に供給する前提なので、両国間の合意のみで建設が可能になる。しかし2本目はトルコ経由欧州市場向け輸出を想定しているので、需要家たる欧州連合側との協議が今後必要になるだろう。
上記は露・トルコ間の経済問題であるが、8月8〜9日の一連の首脳会談で、プーチン大統領は2つの大きな政治的成果を得たと筆者は考える。
1つ目の重要な政治的成果は、露・トルコの和解がトルコのNATO(北大西洋条約機構)離れの動きを促進する可能性があること。プーチン大統領にとり、これは大きな政治的勝利になる。
2つ目はクルド問題。トルコとイランは国内にクルド問題を抱えており、このクルド問題を巡る露・トルコ・イラン枢軸体制の強化は、シリアにとっても大歓迎となる。9日の首脳会談後、トルコは早速、シリアの反政府勢力たるクルド人部隊を攻撃している。
プーチン大統領は脇を固めたうえで、9月18日の下院選挙に臨むことになった。
■第4期目を窺うプーチン大統領の側近人事
次の大物人事異動は首相人事になる。9月18日が下院選挙であり、選挙後の内閣改造で、次期首相候補がプーチン大統領より指名され、下院議員の過半数の賛成を以って承認される。
2016年8月23日付露コメルサント紙は、V.ヴォロ―ジン現大統領府第一副長官が下院議長に就任して、ナルィシュキン現下院議長はSVR(対外諜報庁)長官に就任するとの予測記事を掲載している。
筆者はナルィシュキン現下院議長が次期首相候補と予測していたが、もし彼がSVR長官就任の場合、次期首相に相応しい人物は、ロシア国民に人気の高いS.ショイグ現国防相ではないかと考える。
本当はショイグ大統領実現がロシアにとり望ましいが、彼はロシア連邦トゥバー共和国の少数民族出身なので、大統領には選出されないだろう。
A.クードリン元財務相(元副首相)も次期内閣では要職を占めることになるだろう。
現在第3期目プーチン大統領の任期は2018年5月までだが、2018年3月には大統領選挙が実施され、新大統領は5月に就任予定である。
プーチン大統領は第4期目大統領選挙に出馬するか否かが既に話題になっているが、筆者はすべて今年9月18日の下院選挙の結果とその後の内閣改造次第とみている。
政権与党が圧勝して、新内閣においてプーチン大統領が白羽の矢を立てられる若手人材が育成されれば、若手を後任大統領候補に指名するかもしれない。ただし、ある特定の側近勢力が突出していればその中から選択することを余儀なくされる恐れもあるので、今からシロビキ間の勢力均衡を達成しておく必要があるのだろう。
もし後任候補が見つからなければ、2018年3月の大統領選挙に再度出馬することになろう。
■プーチン大統領の対日姿勢
プーチン大統領は2016年5月20日、「(北方)領土は売らない」と事前に日本側を牽制している。一方、日本側と安全保障問題を協議する構えも見せており、2016年末には日露関係が新たな段階に入ることも予見される。
今年2016年は日ソ国交回復60周年記念の年にあたる。安倍晋三首相は日露関係改善、特に領土問題解決に積極的に取組む姿勢を示しており、この一環として2016年5月6日にはロシア黒海沿岸のソチにてプーチン大統領と非公式首脳会談を実施した。
安倍首相は会談の席上、日露関係における「新しいアプローチ」を提案。両首脳は引き続き、9月2日ウラジオストク開幕予定の第2回東方経済フォーラムにて非公式首脳会談を予定しており、この構想を更に協議の上、安倍首相は年内のプーチン大統領訪日実現を目指している。
プーチン大統領の対日姿勢に関して言及すれば、プーチン大統領は次期内閣では知日派を起用・登用し、対米・対中を視野に入れた対日ラインを強化することにより第三極構築を目指し、多極化外交を展開するものと、筆者は予測している。
知日派の対日ライン強化に日本側が応えられるのかどうか、今、日本側の鼎の軽重が問われていると言えるだろう。
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